2021/08/03 (TUE)

オンラインセミナー
「大学におけるデジタル・レコードキーピング——シドニー大学の挑戦」を開催しました(2021年7月31日)

7月31日、暑い暑い土曜日の午後2時から、オンラインセミナー「大学におけるデジタル・レコードキーピング——シドニー大学の挑戦」は始まりました。

まずお話くださったのは、オーストラリア最古の大学であるシドニー大学(1850年設立)で現用記録を管理するレコードマネジャーのMay Robertsonさん。アーキビストとしてキャリアをスタートし、企業での勤務経験もあるMayさんは、大学内の様々な業務システムと、それが生み出す多様なドキュメントのうち、大学の記録となるべきものを確実に取り込んで管理するシステムに統合するという課題に取り組んで来られました。お話では、ユーザーは従来どおりに仕事をしていて、作ったドキュメントが記録として管理されているとは気づいていない、とのこと。しかもそのようにして管理される記録から、Tableauなどのアプリケーションを用いて必要なデータを可視化し、業務における意思決定に役立てるための仕組みも組み込まれています。「こういうシステムをうちにもほしい!」と思った人がほとんどだったのではないでしょうか。

一方、アーキビストであるKate Cummingさんのお話は、流動的でダイナミックなデジタル環境の中で、大学の活動の証拠であり歴史を語ることのできる記録を保存することの難しさを感じさせるものでした。Mayさんのようなレコードマネジャー、サイバーセキュリティーやプライバシー担当者と緊密に連携し、レコードキーピングの原理を業務プロセスに組み込むことでそれを実現しようとしているKateさん(とその同僚のみなさん)の取り組みは、日々模索しながら仕事をしている日本のアーカイブズ関係者にとって大きな刺激になったのではないでしょうか。また、シドニー大学が保有する先住民の人々にとって重要な記録についても、学内の担当部門や先住民コミュニティとの間で将来の返還も含めた協議を進めているとのことで、まさに参加型(participatory)アーカイブズです。オーストラリアならではの実践だと感じました。

お二人のプレゼンテーションに続くディスカッションでは、質問をチャットでお受けしたにもかかわらず、かなり活発なやり取りになったように思います。学内研究者のメールの扱い(→大学業務であれば大学文書なので、学内システムを使うよう誘導)、研究成果にまつわる権利の問題(→大学での研究であればニューサウスウェールズ州記録法の適用範囲内)、様々なサービスにおけるWebアクセシビリティの問題(→WCAGに可能な限り準拠するよう努力している)など多様な質問に対し、お二人は誠実に答えてくださいました。

Kateさんがおっしゃっていた通り、デジタル時代のレコードキーピングには非常に多くの、多様な課題があり、すべてを解決したと言える日が来るどうかすらわかりません。そうした中でも、証拠としての記録を必要とされる期間しっかり保存するために、記録にまつわる専門職としてすべきことを見極め、できるところからやっていく。そのために、いろいろな人と経験をわかちあい、学びあっていく。そのことの大切さを痛感した2時間でした。

スピーカーのMayさんとKateさん、ご参加くださったみなさま(Mayさんいわく「オリンピックを見なきゃいけないのに!」)、そして同時通訳のお二人に、心から感謝いたします。


お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。