2020/06/09 (TUE)

【資料紹介】北海道・伊達火力発電所建設反対運動資料について②—こんな資料があります!

共生社会研究センター リサーチ・アシスタント
立教大学大学院文学研究科史学専攻 博士後期課程1年 阿部晃平
同・博士前期課程2年 縄野響子

センターのニュースをご覧のみなさん、こんにちは。
今回は前回に引き続き、伊達火力発電所建設反対運動の資料についてご紹介したいと思います。

北海道電力から住民へ

▲ ともに「伊達発電所のパイプライン」(S15-20111 5/5)/北海道電力株式会社

まずは、当時実際に北海道電力が市民らに向けて配布していた資料をご覧ください。

左の写真は、1973年9月に北海道電力が各戸に配布したリーフレットです。上質紙にカラー印刷されています。またこのパンフレットには子ども向けのイラストが多く描かれている一方で、その説明に関する部分はそれなりに専門的な内容になっていることから、これは子どものいる家庭に向けた、言い換えれば環境問題について関心の高いと思われる層に向けたものであると推測できます。実際、建設反対に回った人々の中には子どもの将来を心配する声もあり、そのような人々にアピールする意図があったのでしょう。

内容としては、火力発電所に燃料となる石油を輸送するためのパイプラインの敷設方法とその安全性について説明されています。とくに、「美しい自然をそこなうことなく燃料油を安全に運ぶパイプライン」という記述が示すように、伊達の自然を破壊しない安全でクリーンな発電所のイメージが喧伝されている印象を受けます。

「危険な伊達火力パイプライン」(資料番号S15-20111 5/5)によれば、このリーフレットは伊達火力反対連絡会が配布したパイプライン反対のビラに対抗して配布したものと言われ、過剰に安全性を誇張していると非難されています。住民と北海道電力はこのようにビラやリーフレットの応酬をしばしば行っており、とりわけ発電所本体が完成している段階において、パイプラインの設置阻止はある意味住民側にとっての最終防衛ラインだったのです。

「住民」の意見もわかれていました

次にご紹介するのは、住民たちによって配布されたもの3点です。

いずれも伊達市の住民が発行したビラ・機関紙ですが、うち2枚のビラでは反対の立場が示されている一方、「商工会ニュース」では火力発電を歓迎しています。「住民運動」という言葉はあたかも「住民」がそこに住まう人々の総体のであるかのようなイメージを抱かせますが、実際にはさまざまな意見を持った人がいました。

住民側の資料のみを読んでいると、火力発電誘致は伊達市にとって何一つメリットのない事業のように見えます。では、なぜ賛成する人々がいるのでしょうか。その大きな理由として、住民の生業があります。

反対する住民たち

▲「火発反対行動に参加しましょう」(S15-20046)/伊達から公害をなくす会

この二枚のビラは、いずれも反対派住民が配布したものですが、こうした火力反対運動を展開した住民の中心にあったのは漁業、農業を生業とする人々でした。

火力発電から生じる温排水や降下煤塵は自然環境に影響を及ぼし、健康のみでなく、生活の手段を奪う恐れがあったためです。裁判資料に頻出する海水温・気流に関連した観測結果・論文は、これがいかに大きな争点であったかを示しています。

▲「危険がいっぱい」(S15-20109)/伊達火力パイプライン研究会

建設を望む住民たち

▲「商工会ニュース」(S15-20041)/伊達商工会議所

「商工会ニュース」は伊達市の商工会が発行している機関紙で、発行しているのは二次産業を担う人々です。

発電所が建設されることで、面積当たりの生産性が高い二次産業、三次産業を呼び込み、経済発展、人口増加といったプラスの連鎖が生まれる…というのがこの紙面の趣旨です。

反対運動の主体として取り上げられる人々とは相容れない立場であったとしても、二次産業の担い手である人びとにとって商業・工業は紛れもない生活の礎であり、その発展を促してほしいというのは、彼らからすれば当然の主張でした。

このように、火力発電所は環境や健康だけでなく、地域のコミュニティにも不可逆の変化と混乱をもたらし、伊達市全体を巻き込んだ議論を巻き起こしたのです。

おわりに

二回に渡ってご紹介した伊達火力発電所の建設反対運動は、裁判の結果としては住民側の全面的な敗北に終わりました。

しかしながら、この運動は「環境権」を世に問う史上初の試みであり、敗訴はしたものの、以後の環境権裁判に多大な影響を与えたという意味において大きな意味を持つものと言えるでしょう。

お使いのブラウザ「Internet Explorer」は閲覧推奨環境ではありません。
ウェブサイトが正しく表示されない、動作しない等の現象が起こる場合がありますのであらかじめご了承ください。
ChromeまたはEdgeブラウザのご利用をおすすめいたします。