OBJECTIVE.
立教大学理学研究科中山陽史特任准教授を中心とする研究グループは強い紫外線環境における地球類似惑星を想定した大気シミュレーションを用いた検討により、強い紫外線環境では原子輝線放射冷却が重要な冷却過程となることを明らかにしました。その結果、地球のような惑星は強い紫外線環境でも数10億年にわたって大気の保持が可能であることを示しました。本研究の成果は地球を含む地球型惑星の大気保持と温暖環境の保持に対して重要な示唆となり、地球の様なハビタブル惑星の存在可能性の理解につながります。
1.発表の背景
系外惑星の発見以後、5000個以上の系外惑星(注1)が見つかっており、多くの大規模観測計画が推進・立案されるなど、活発な研究分野になります。見つかっている系外惑星の中には地球によく似た特性を持つ可能性がある惑星(ハビタブル惑星)も報告されており、そういった惑星が地球の様な温暖環境を保持し、生命を宿しうる惑星なのかは人類にとって大きな謎の一つになります。しかしながら、温暖環境の保持に対して重要となる惑星大気は恒星からのXUV照射(注2)によって加熱され、大気散逸(注3)が促されるため、大気そして温暖環境の保持は困難であると考えられていました。特に太陽系の近傍に多く存在し、質量が小さく低温度星な星(低温度星)に存在する地球型惑星は将来的な観測対象として期待されていますが、数10億年といった長期間にわたって強いXUV照射を出し続けることが示唆されています。そのため、地球のような温暖な環境を保持する惑星の存在は理論的には難しいと示唆されていました。
2.今回の研究成果
本研究では、地球類似惑星を想定した大気シミュレーションを用いて、強いXUV放射によって加熱された上層大気では原子輝線放射冷却(注4)が重要な冷却過程となることが明らかになりました(図1)。原子輝線放射冷却は温度が上がるほど効率的に働くため、大気の高温化が抑制されます。その結果、高い熱エネルギーを持つ大気粒子が惑星重力を振り切って脱出する大気散逸が抑制されることが明らかになりました。大気で吸収されたエネルギーの大部分が大気散逸に用いられると考えられていた先行研究に比べ、本研究で推定された大気散逸率は10000分1程度となることを示しました。結果として、地球大気と同量の1bar大気の散逸時間は強いXUV環境でも20億年程度と地質学的な時間スケールまで伸びうることが明らかになりました(図2)。このような強いXUV環境は初期地球や低温度星回りの系外惑星に相当し、そのような惑星でも長期的な大気の保持が可能であることが予測されます。本研究の成果は初期地球における温暖環境の保持や地球以外の温暖な環境を持つハビタブル惑星の存在可能性に対して重要な示唆となり、今後の理論的・観測的な展開が期待されます。
図 1。1から5倍の現在地球のXUVフラックスFXUVを仮定した場合に推定された温度構造。実線が原子輝線冷却を考慮した場合の計算結果であり、点線が原子輝線放射冷却を顧慮していない先行研究を模擬した計算結果である。
図 2。異なるXUV強度における1bar大気の散逸時間。
用語解説
- (注1)系外惑星
太陽以外の恒星を公転する惑星。1995年における系外惑星の発見以後、5000個以上の系外惑星が発見されている(NASA Exoplanet Archive, 2022年9月3日)。
- (注2)XUV部
X線と極端紫外線で構成される短波長(<100nm)の光。大きなエネルギーを持つXUVは高層大気中の気体種によって吸収され、光化学反応と加熱をもたらす。
- (注3)大気散逸
XUVの吸収によって高温化された高層大気が惑星重力による束縛から抜け出し、惑星外に散逸してしまうこと。現在地球においては、軽いH原子やHe原子のみが大気散逸を引き起こしている。しかしながら、強いXUV環境であれば地球類似惑星の大気主成分であるN、O原子の大気散逸が引き起こされ、大気の消失をもたらす。
- (注4)原子輝線冷却
原子・イオンの周りを回転する電子のエネルギー状態の遷移に伴う放射過程。電子が持つエネルギー準位は原子・イオン種毎に固有であり、そのエネルギー分布は他気体種との衝突に伴う衝突遷移と光子の吸収と放射を伴う放射遷移によって決定される。光を放出して低エネルギー状態に遷移する放射遷移は大気中から宇宙空間にエネルギーを放射、つまり大気を冷却する役割を持つ。
発表雑誌
- 雑誌名:The Astrophysical Journal
- 論文タイトル:Survival of Terrestrial N2-O2 Atmospheres in Violent XUV Environments through Efficient Atomic Line Radiative Cooling
- 著者:Akifumi Nakayama, Masahiro Ikoma, Naoki Terada
- DOI番号:10.3847/1538-4357/ac86ca
- アブストラクトURL:
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ac86ca