2022/02/22 (TUE)

【追記】コミュニティ福祉学研究科博士課程後期課程の矢野康介さんの論文が「Journal of Personality Assessment」誌に掲載決定

キーワード:学生の活躍

OBJECTIVE.

コミュニティ福祉学研究科博士課程後期課程3年次 矢野 康介さん(指導教員:コミュニティ福祉学研究科 大石 和男教授)の論文「Environmental Sensitivity in Adults: Psychometric Properties of the Japanese Version of the Highly Sensitive Person Scale 10-Item Version」が学術雑誌「Journal of Personality Assessment」に掲載が決定しました。2022年1月4日にプレプリント版がオンライン公開されました。

論文の内容は次の通りです。

研究の概要

HSP(Highly Sensitive Person)尺度で成人の感受性を測定する:10項目短縮版の作成とそれを用いた感受性の評価

私たちは、生活の中で様々な環境刺激に曝されますが、その性質がネガティブでもポジティブでも、それに対する影響の受けやすさ・反応のしやすさは一人ひとり異なります。発達心理学では、このような個人差を「環境感受性」という枠組みで説明します。「環境感受性」の個人差は、さまざまな遺伝子や神経生理的な側面を測定することで把握できますが(注1)、特にその気質・性格的な側面を感覚処理感受性(注2)と呼びます。 従来の研究において、感覚処理感受性は、主に自己報告式の心理尺度であるHSP(Highly Sensitive Person)尺度によって簡便に測定されてきました。しかしながら、既存のHSP尺度は測定精度が不十分などの課題が指摘されていました。そこで本研究では、既存のHSP尺度日本語版の改善を試みました。

合計2,388名の日本人成人(18~19歳の大学生も含む)から協力を得て、4つの研究(調査と実験)を実施しました。その結果、より高い測定精度を有する、HSP-J10(エイチエスピー・ジェイテン)が作成されました。HSP-J10の特徴は、主に以下の3つです。(1)ある時点でHSP-J10の得点が高い人は、約2か月後にも得点が高い傾向(得点が低い人は2か月後も得点が低い傾向)がありました。(2)HSP-J10の得点が高い人ほど、ネガティブな感情にかかわるパーソナリティ特性(例えば、神経症傾向)が高く、ポジティブな感情にかかわるパーソナリティ特性(例えば、外向性)は低い傾向がみられました。(3)ポジティブな感情を喚起する約3分間の動画を視聴する実験では、HSP-J10の得点が高い人ほど、視聴の前後でポジティブな感情が高まりました。対照的に、HSP-J10の得点が低い人ほど、そのような変化は確認されませんでした。

以上の結果は、この領域の有力な理論や国内外で報告された研究知見と一致しており、HSP-J10の得点分布は、感受性の個人差をある程度反映していると考えられます。

注1.環境感受性についての学術的な説明は、本論文の著者らが運営するJapan Sensitivity Researchというウェブサイトをご覧ください。

注2.感覚処理感受性とは「深い認知的処理、ささいな環境変化の察知、強い情動的・共感的反応、刺激に対する圧倒されやすさ」といった特徴で説明される個人内で比較的安定した気質・パーソナリティ特性を表します。

論文情報

論文タイトル:Environmental Sensitivity in Adults: Psychometric Properties of the Japanese Version of the Highly Sensitive Person Scale 10-Item Version
雑誌名:Journal of Personality Assessment
著者名:飯村周平(Shuhei Iimura)1,2*#・矢野康介(Kosuke Yano)3,4#・石井悠紀子(Yukiko Ishii)1 *責任著者,#共同第一著者
著者所属:
  1. 東京大学大学院教育学研究科総合教育科学専攻教育心理学コース
  2. 日本学術振興会特別研究員PD
  3. 立教大学大学院コミュニティ福祉学研究科コミュニティ福祉学専攻
  4. 日本学術振興会特別研究員DC

コメント

本研究において作成されたHSP-J10(注3)は、日本人成人の感覚処理感受性を適切に測定する性質を有することが示されました。また、その項目数は少ないことから、回答者の負担軽減や時間の節約にもつながることが期待されます。ただし、(HSP-J10に限らず)自己報告に基づく心理測定には様々な限界があります。また、HSP-J10は、回答者が「HSPであるか否か」を診断・ラベリングするためのツールではありません。使用にあたっては、これらの点に十分に注意して頂ければ幸いです。
感覚処理感受性が高い人は、しばしば「HSP」と呼ばれます。昨今、日本では「HSP」という言葉の認知度も高まり、テレビの報道番組や芸能人のSNS等でも話題になる機会が増えてきました。また、様々なウェブサイト(メンタルクリニック等のサイトも含む)において、「HSP自己診断テスト」が作成されています。しかし、残念ながら、これらの大半は学術的なエビデンスとは関連の弱い(あるいは、全くない)情報に基づいており、学術的な「HSP」と世間で認知される「HSP」との間にはギャップが生まれています。このような現状に対して、本研究の成果が、「HSP」が正しく理解されるための足掛かりとなることを願っています。

注3.HSP-J10の項目内容や使用方法については、以下の表をご覧ください。

添付資料

【HSP-J10の評価方法】
教示文:これらの項目について、あなた自身にもっとも当てはまると思う選択肢を選んでください。
「まったくあてはまらない(1点)」、「ほとんどあてはまらない(2点)」、「あまりあてはまらない(3点)」、「どちらともいえない(4点)」、「ややあてはまる(5点)」、「かなりあてはまる(6点)」、「非常にあてはまる(7点)」の7段階で評価する。最終的に、すべての得点を合計し、項目数10で割って、平均値を算出する。
1626人の日本人を対象にした本研究では、平均値が4.1点、標準偏差が1.1点であった。

表.HSP-J10の項目リスト

図.HSP-J10の平均値の分布(N = 1,626)

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