2021/06/10 (THU)

「安心・安全」に繋がる、抗菌防カビ性・活性持続性・耐熱性を併せ持つ新規有機金属構造体材料の開発に成功

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

理学部化学科箕浦真生教授と日本曹達(株)※の研究グループは、環境調和型分子の創出を目的に共同研究を行ない、多くの微生物に対して効力を発揮する高機能な生理活性材料の開発に成功しました(図1)。既存の農業化学品と有機金属構造体(MOF)の設計技術を組み合わせて応用した本開発材料は、抗微生物成分を徐々に放出させる事が可能となり、抗菌・防カビ効果の高い持続性、および高い耐熱性を示しました。本研究成果は、日本曹達(株)と立教大学との産学連携の研究成果として意義があるだけでなく、英国王立化学会発行の学術雑誌「Dalton Transactions」に速報として掲載され、Back Coverとして紹介されるなど、高い評価を得ております。

図1:本研究で開発したMOF材料2種の錯体構造と、抗菌・防カビ性を示すイメージ

※) 日本曹達株式会社
2020年に創立100周年を迎えた総合化学会社(阿賀英司社長)。「かがくで、かがやく」を新スローガンとし、農業化学品、医薬品添加剤、電子材料等の高付加価値化学製品等を製造・販売。

1.研究成果のポイント

  1. 従来より利用されている抗菌・防カビ剤を有機金属構造体とする事で、これまで困難であった広い抗微生物スペクトルの発現、活性持続性、耐熱性の高次元での両立に成功しました。
  2. 亜鉛イオンには優れた抗菌活性、チアベンダゾール(TBZ)注1)には高い防カビ活性があります。これらをMOFと呼ばれる有機金属錯体に複合化する事で、亜鉛単独、TBZ単独よりも広い抗微生物スペクトルを有する新規生理活性材料を開発しました。
  3. 有機金属構造体とする事で水溶性がコントロールでき、熱分解温度がTBZ単独の230℃から400℃以上に上がることから、生理活性の持続性向上と耐熱性改善による適用範囲拡大が期待されます。

図2 MOFの合成法、およびその構造(上)TBZ-MOF-1、(下)TBZ-MOF-2

Metal-organic Frameworks(MOF)注2)は、多座配位子と金属イオンからなる連続構造を持つ錯体であり、一般的に難溶性の固体で、近年ではその構造、ガス吸着特性、導電性、磁気的性質などの特徴が研究され、触媒やナノ素材として注目されています。今回、有機配位子として防カビ活性を有するTBZと抗菌活性を有する塩化亜鉛と反応させることでMOFの合成に成功しました(TBZ-MOF-1、図2)。また、補助配位子としてテレフタル酸(BDC)を用いる事で、構造の異なるMOF(TBZ-MOF-2)も合成しております。これらのMOFは共に良好な生理活性を示すと共に、異なる水溶性や耐熱性を示す事から、コントロールドリリースが可能な高耐熱性の生理活性材料であることを確認しました。
注1)
チアベンダゾール(TBZ):防カビ剤の一種。主な用途は柑橘類、バナナなどの防腐処理用の食品添加物、木材防腐剤、工業用抗菌・防カビ剤(塗料や冷蔵庫のドアパッキン、衣料品の抗菌加工等)。

注2)
Metal-organic Framework(MOF):有機配位子と金属イオンから構成され、有機金属構造体とも呼ばれる配位性高分子の総称。

2.研究の背景

生活用品に対しては「安全」「安心」「健康」「快適」が求められています。特に、細菌や微生物汚染の防止に対する関心は高く、建材、調理器具、家電製品、事務製品、衣類、玩具など、様々な製品に抗菌・防カビ性能が求められています。一般的に、抗菌・防カビ剤は、無機系(金属イオン系、光触媒(酸化チタン))、有機系に大別されます。無機系の特徴として、熱安定性が高く、抗菌スペクトルが広い事、有機系の特徴として薬剤量あたりの効果が高い事が挙げられますが、金属イオン系は生理活性維持が難しい事、有機系は熱に弱く抗菌スペクトルが狭い事が課題となっています。
本研究では、MOFが金属イオンと有機配位子から成ることに着目し、生理活性を有する金属イオンと有機配位子を組み合わせることで金属イオン系と有機系の両方の特徴を有する生理活性材料を創出する事を目的に検討を行いました。

3.研究成果

MOFの有機配位子には、カルボキシル基(RCOO)や含窒素複素環などを配位部位とするものが多用されています。今回、塩化亜鉛とTBZからは二次元平面ネットワーク構造を形成するTBZ-MOF-1を、補助配位子としてBDCを添加することにより一次元直鎖構造を形成するTBZ-MOF-2をそれぞれ合成可能であることを発見しました(図2)。それらの構造は単結晶X線構造解析により明らかにしました。

図3:TBZと合成したMOFの熱重量分析結果(大気中)

得られたMOFの熱分析試験を行ったところ(図3)、TBZ単独では230℃以上で昇華による重量減少が起こりました。一方で、TBZ-MOF-1、TBZ-MOF-2はともに400℃以上になるまで重量減少や熱分解を起こさず、高い耐熱性を示す事が分かりました。この値は、既存のTBZを含有する有機金属錯体と比べても高いものであり、この物質が極めて安定であることが分かりました。

次に、TBZおよびMOFの水溶解性について、TBZの溶出濃度を評価基準として調査を行いました。TBZ単独の溶出濃度20.4ppmに対し、TBZ-MOF-1は0.9ppm、TBZ-MOF-2は13.7ppmとなり、TBZ単独よりも徐放性に優れることが分かりました。この結果より、TBZの生理活性持続性の改善が期待されます。

さらに、MIC試験注3)を行い、抗菌・防カビ活性の評価を行いました(表1)。MOFの構成成分単独、およびMOFの生理活性を細菌(Escherichia coli, Staphylococcus aureus subsp. aureus)、カビ(Aspergillus niger, Trichoderma virens)で評価したところ、TBZ単独は防カビ性、亜鉛単独は抗菌性のみの活性しか示さなかったのに対し、TBZ-MOF-1とTBZ-MOF-2はいずれも高い抗菌性と防カビ性を併せ持つことが分かりました。
Compounds
MIC (ppm)
Escherichia coli
Staphylococcus aureus subsp. aureus
Aspergillus niger
Trichoderma virens
TBZ-MOF-1
50a
13a
5.0b
2.4b
TBZ-MOF-2
25a
6.3a
11.7b
3.0b
TBZ
>1847
>1847
6.3b
1.6b
BDC
762.3
95.3
>400
>400
ZnCl2
13a
3.1a
>400
>400

a:亜鉛イオン単独濃度で正規化、b:TBZ単独濃度で正規化
注3)
MIC(minimum inhibitory concentration:最小発育阻止濃度)抗菌材料がその微生物の発育を阻止できる最小の濃度のこと。薬剤感受性試験によって得られ、重要な抗菌材料選択の指標の1つ。

4.社会貢献性・波及効果

本研究において開発した生理活性材料は、容易に手に入る既存の生理活性材料を原料として簡便な方法により合成できるうえ、原材料よりも広い抗微生物スペクトルを有すると共に、徐放性と耐熱性を併せ持つことから、高性能な抗菌・防カビ材料としての活用が期待できます。

5.今後の展開

本研究では、単剤では実現困難であった高い生理活性とその持続性、安定性の両立を、有機金属構造体とする事により高いレベルで実現可能な事を見出しました。今後も産学連携により、社会に貢献できる研究を推進します。

6.論文情報

  • タイトル:Broadened bioactivity and enhanced durability of two structurally distinct metal–organic frameworks containing Zn2+ ions and thiabendazole
  • 著者名:Daiya Kobayashi, Akira Hamakawa, Yuki Yamaguchi, Toshiaki Takahashi,Mitsuhiro Yanagita, Shigebumi Arai and Mao Minoura
  • 誌名:Dalton Transactions (Royal Society of Chemistry) 2021, 50, 7176.
  • DOI:10.1039/d1dt00733e