2021/01/13 (WED)プレスリリース

超伝導転移端検出器TESを用いた蛍光XAFS分析に成功
~超微量分析や発光分光法への応用の端緒を拓く~

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

立教大学理学部 山田真也 准教授、一戸悠人 助教、公益財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI)の宇留賀朋哉任期制専任研究員、新田清文 研究員、関澤央輝 主幹研究員、東京大学大学院理学系研究科 高橋嘉夫 教授らは、超伝導転移端検出器(Transition Edge Sensors;TES)の利用を推進する国際的な専門家チーム(注1)との共同研究により、大型放射光施設 SPring-8(注2)のビームラインBL37XUにTESを持ち込み世界で初めてTESを用いた環境試料の蛍光XAFS(X線吸収分光法)(注3)分析に成功し、超微量分析や発光分光法への応用の道を拓くことに成功しました。

本研究は、米国の「Review of Scientific Instruments」誌に2021年1月13日(日本時間午前2時)にオンラインで掲載されます。本研究により、地球・環境・地球外物質・生物試料中の超微量元素の蛍光XAFSを用いた高感度状態分析が可能になると共に、高エネルギー分解能蛍光X線検出X線吸収端近傍構造法(HERFD-XANES法)などの高精度な発光分光法への展開も期待されます。TESは宇宙X線観測、原子分子、核物理など様々な応用に向けて、装置開発や応用性の研究が進められています。今回の成果は「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星物質や、将来のサンプルリターン計画で得られる地球外試料の非破壊分析に向けた最初の一歩になります。

研究の背景

放射光発光分光分析法(蛍光XAFS法)は、試料から発する蛍光X線・散乱X線のエネルギーを精密に計測することで、原理的にあらゆる元素の化学状態(価数や結合状態)の解析が可能な手法です。これまでは、検出効率の高い半導体検出器を用いるとエネルギー分解能が不足し、エネルギー分解能のよい結晶分光器を用いると検出効率が低くなるというジレンマがありました。私たちは、超伝導転移端検出器(Transition Edge Sensor; TES)(注4)という、高エネルギー分解能と高い検出効率を併せ持つ分光装置に着目し、この課題の解決に挑戦しました。

研究の成果

私たちは、2019年7月、世界で初めて、SPring-8のビームラインBL37XUに持ち込んだTES検出器(米国NIST製)と、半導体検出器(シリコンドリフト検出器:SDD)を用いて、TESの動作実証を行いました。図1は蛍光X線分析用標準試料に対して計測したエネルギースペクトルの比較になります。SDDでは抽出不可能な元素からの蛍光X線が分解でき、分光結晶法では困難な幅広いエネルギー領域に渡るX線スペクトルを一挙に取得することに成功しました。また、世界で初めてTESを利用した蛍光XAFSを環境試料中の微量元素の化学状態分析に応用することにも成功しました。特に気候変動に関係する海洋エアロゾル中の微量な鉄の化学状態分析や、有害物質の挙動解析で重要なヒ素と共存する鉛の化学状態分析など、従来法では困難であった分析が可能となり、蛍光XAFSの適用範囲が格段に広がりました。
詳細は米国の「Review of Scientific Instruments」誌にて、2021年1月13日(日本時間午前2時)にオンラインで掲載されます。
“Broadband high-energy resolution hard x-ray spectroscopy using transition edge sensors at SPring-8”

S. Yamada et al., Rev. Sci. Instrum. 91 (2020), doi: 10.1063/5.0020642

今後の展開

従来不可能だった広いエネルギー範囲での高エネルギー分解能による計測や、計測時間の飛躍的な短縮により、試料損傷の大幅低減の実現も可能になります。TESのテクノロジーは日進月歩で進化しており、高速化や大有効面積化が進むことで、環境試料・宇宙化学試料・生物試料中の超微量元素の化学状態分析へ応用が期待されます。今後、より高いエネルギー分解能を実現することで、さらに高度な高エネルギー分解能蛍光X線検出X線吸収端近傍構造法(HERFD-XANES法(注5))などの発光分光法への展開も期待されます。私たちは、今後も技術の成熟化を推し進め、宇宙X線観測、原子分子物理、核物理などの基礎科学、「はやぶさ2」や将来のサンプルリターン計画における非破壊分析など、世の中に幅広く役立つ研究に発展させたいと考えています。

脚注

(注1)
「TESの利用を推進する国際的な専門家チーム」は下記で構成される計42名の研究グループです。

  • 立教大学理学部:山田真也 准教授、一戸悠人 助教
  • 東京都立大学理学研究科:石﨑欣尚 准教授、大橋隆哉 特任教授、竜野秀行 客員研究員、早川亮大 大学院生、須田博貴 大学院生
  • 高輝度光科学研究センター(JASRI):宇留賀朋哉 任期制専任研究員、新田清文 研究員、関澤央輝 主幹研究員
  • 東京大学大学院理学系研究科:高橋嘉夫 教授、板井啓明 准教授、菅大暉 研究員、田中雅人 研究員、長澤真 大学院生
  • 日本原子力研究開発機構(JAEA)先端基礎研究センター:橋本直 研究員
  • アメリカ国立標準技術研究所(NIST):Douglas Bennett, Ed Denison, William Bertrand Doriese, Malcolm Durkin, Joseph Fowler,
  • Galen O’Neil, Kelsey Morgan, Dan Schmidt, Daniel Swetz, Joel Ullom, Leila Vale
  • 中部大学工学部: 岡田信二 准教授
  • 理化学研究所:東俊行 主任研究員、奥村拓馬 特別研究員、玉川徹 主任研究員、磯部忠昭 専任研究員
  • 産業技術総合研究所デバイス技術研究部門:神代暁 総括研究主幹
  • 大阪大学大学院理学研究科:野田博文 助教
  • 金沢大学自然科学研究科:田中桂悟 大学院生、田口昂宙 大学院生
  • 埼玉大学大学院理工学研究科:佐藤浩介 准教授、今井悠喜 大学院生
  • JAXA宇宙科学研究所(ISAS):林佑 研究員
  • 海洋研究開発機構(JAMSTEC):柏原輝彦 研究員、栗栖美菜子 研究員
  • 国立環境研究所(NIES):坂田昂平 研究員


(注2)
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っています。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来します。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、指向性が高く強力な電磁波のことです。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われています。

(注3)
蛍光XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)法とは、X線を物質に照射した際に発生する様々な波長の蛍光X線を分析して、その物質に含まれる元素や種類、化学状態を調べる方法です。
(注4)
TESは、超伝導-常伝導の相転移点近傍の急峻な抵抗-温度特性を利用する検出器です。その動作方式を図2に示しました。X線が検出器の熱を吸収する部分に当たるとTESの温度が上昇し、TESの抵抗値も上昇し、回路を流れる電流の変化を検出することで、入射したX線のエネルギーを推定することができます。この時の抵抗値の変化量が相転移点近傍にある超伝導体は極めて大きいことから、エネルギーを精度よく推定できます。
(注5)
蛍光XAFS法の1つであるHERFD-XANES法(High-Energy-Resolution Fluorescence Detected X-ray Absorption Near Edge Structure)は、特定の蛍光X線の波長を細かく分離する(高いエネルギー分解能で分光する)方法のことです。従来は分光のために結晶を使用していましたが、多くの有用な情報を捨ててしまうという難点もありましたが、TESのような非分散型の分光器を活用することができれば効率のよい計測ができると考えられています。

研究サポート

本研究はJSPS科研費(JP16H02190, JP18H05458, JP18H03714, JP18H01260, JP18H03713, JP18H03892, JP17H06455, JP20K20527 and JP19K21884)の助成および、RIKEN Pioneering Project: Evolution of Matter in the Universe に支援頂きました。