2020/09/23 (WED)プレスリリース

小惑星探査機「はやぶさ2」観測成果論文のNature Astronomy誌掲載

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

宇宙航空研究開発機構(JAXA)と立教大学(東京都豊島区、総長:郭洋春)を始めとする研究機関は、小惑星探査機「はやぶさ2」による小惑星Ryugu(リュウグウ)の探査活動に基づく研究成果をまとめた論文が、イギリスのオンラインジャーナル「Nature Astronomy」に2020年9月21日(日本時間9月22日)に掲載されたことを発表しました。

論文の内容は次の通りです。

リュウグウ表面に発見された明るい岩塊から明らかになったS型小惑星との衝突(原題:Collisional history of Ryugu’s parent body from bright surface boulders)

1.概要

暗いリュウグウ表面に非常に明るい岩塊が多数個発見されました。光学航法カメラ(ONC)と近赤外分光計(NIRS3)の観測により、この明るい岩塊のうち6つは外来起源物質である可能性が高いことがわかりました。特にこれらの岩塊はS型小惑星と似た反射スペクトルを持っていることが示されました。これらの岩塊はリュウグウの母天体とS型小惑星との衝突によりもたらされたものである可能性が高いと考えられます。ベヌーではV型小惑星に近い外来起源物質が発見されており、両者を比較すると両者が違う衝突史を経てきたことがわかります。また、リュウグウで見つかった明るい岩石のうち多くはリュウグウと似た反射スペクトルを持つこともわかりました。これらはリュウグウ母天体内部の異なる場所からきたものであると考えられます。「はやぶさ2」の回収試料の中にはこれらの明るい岩塊片が混ざっている可能性があり、それらを調べることによりリュウグウ母天体の熱進化や衝突天体についてより詳細な情報を得られることが期待できます。

注:ベヌー(Bennu、ベンヌと表記される場合もある)

2.本文

図1 低高度撮像で見えたリュウグウの明るいボルダー(矢印)。特にタッチダウン運用で得られた高解像度の画像(a)(b)(c)には、その他にも明るい点がふりかけ状に存在することが分かる。(Tatsumi et al. 2020のFig.1を改変)

リュウグウは大きな母天体が衝突破壊、破片の再集積という過程を経てラブルパイル小惑星になったと考えられています(Watanabe et al. 2019)。これまでの研究結果からリュウグウはとても暗く均質な物質でできていることが示されました(Sugita et al. 2019, Kitazato et al. 2019, Tatsumi et al. 2020)。ですが、低高度運用からONCを用いて解像度の高い画像を得られるようになり、cm~m程度の岩塊を識別できるようになってくると、リュウグウの表面には小さな非常に明るい物質があちらこちらにあることが分かりました(図1)。

この中でもとりわけ大きい岩塊(数10cm以上)についてONCとNIRS3を用いた反射分光を行いました。ONCの観測から、計測された21個の明るい岩塊のうち、6つは波長1µmあたりに吸収帯をもつ鉱物、すなわち無水の珪酸塩鉱物であることがわかりました。リュウグウの多くは含水鉱物であることから、明らかに異なる組成が見つかったことになります。これら6つの岩塊についてNIRS3でも観測をしたところ、無水鉱物の中でも普通コンドライトと近い特徴を持っていることが明らかになりました。一方で、残り15個はリュウグウと似たスペクトルを持っておりまた比較的暗いことから、炭素質コンドライトであると考えられます。

なぜリュウグウ表面に無水鉱物が見つかったのか?

図2 明るい岩塊形成のイメージ図

リュウグウに何らかの理由で無水鉱物が混ざったからと考えられます。混ざる過程として、(1)リュウグウができてから無水鉱物が衝突してきた、(2)リュウグウができる際の母天体破壊の時に混ざった、という2つのシナリオが考えられます。しかし、(1)はリュウグウ上に明るい岩塊が比較的多く存在すること、衝突体が壊れないほどの低速度衝突が必要になることから、確率的に難しいことがわかりました。つまり、リュウグウの母天体は無水鉱物からなる他の小惑星(S型)と衝突破壊、破片が再集積することを経て現在のような状態になったことが示唆されます(図2)。リュウグウは内側小惑星帯から来たと考えられています(Campins et al. 2010)が、内側小惑星帯に大きく広がる小惑星族(ニーサ、ポラーナ族)は普通コンドライト的なS型小惑星と炭素質コンドライト的なC型小惑星の集合体になっており、この小惑星族内ではC型とS型小惑星の衝突が頻繁に起こっていたと考えられます。

炭素質コンドライトのような明るい岩塊は何?

リュウグウと同じような炭素質コンドライトであるのにも関わらず、明るいのは違う温度を経験しているからだと説明することができます。たとえば、代表的な含水鉱物を含む炭素質コンドライトであるマーチソン隕石やイブナ隕石の加熱実験(Hiroi et al. 1996a, 1996b)では、加熱温度によって明るさが2倍以上大きく変化することがわかっています。温度の違いは母天体衝突時の温度上昇もしくは母天体内部の温度分布を反映していると考えられます。どちらであるかは回収試料を分析することによって解明されることが期待されます。

ベヌーでも明るい岩塊が発見された。
本論文と同時に発表された米国のOSIRIS-REx探査機チームの論文ではベヌー表面でも明るい岩塊が発見されたことが報告されています。リュウグウで発見された岩塊に比べて2µm吸収帯が深く、小惑星ベスタのような玄武岩的なHED隕石ではないかと予想されています。したがって、リュウグウとベヌーは異なる衝突史を経て今に至った、つまり同じ衝突からできたラブルパイル小惑星ではない可能性が高いことが示唆されます。このように小惑星のマイナーな成分から、衝突の歴史を遡ることができることを示しています。

「はやぶさ2」はリュウグウから2回のタッチダウンでサンプルした試料を12月に地球に届ける予定です。これらの試料の中には微量ながら、明るい岩塊のカケラも混ざっている可能性があります。はやぶさで培われた微小試料分析の技術によって、さらに詳しいリュウグウの歴史が明らかになることが期待できます。

※DellaGiustina, D.N., et al. (2020) “Exogenic basalt on asteroid (101955) Bennu” Nature Astronomy, doi.org/10.1038/s41550-020-1195-z

3.論文情報

論文タイトル:Collisional history of Ryugu’s parent body from bright surface boulders

著者名:
E. Tatsumi1,2,3, C. Sugimoto3, L. Riu4, S. Sugita3,5, T. Nakamura6, T. Hiroi7, T. Morota3, M. Popescu1,2,8, T. Michikami9, K. Kitazato10, M. Matsuoka4, S. Kameda11, R. Honda12, M. Yamada5, N. Sakatani11, T. Kouyama13, Y. Yokota4,12, C. Honda9, H. Suzuki14, Y. Cho3, K. Ogawa15, M. Hayakawa4, H. Sawada4, K. Yoshioka3, C. Pilorget16, M. Ishida11, D. Domingue17, N. Hirata18, S. Sasaki19, J. de León1,2, M. A. Barucci20, P. Michel21, M. Suemitsu22, T. Saiki4, S. Tanaka4,23, F. Terui4, S. Nakazawa4, S. Kikuchi4, T. Yamaguchi4,30, N. Ogawa4, G. Ono24, Y. Mimasu4, K. Yoshikawa24, T. Takahashi4, Y. Takei4, A. Fujii4, Y. Yamamoto4,23, T. Okada3,4, C. Hirose24, S. Hosoda4, O. Mori4, T. Shimada4, S. Soldini25, R. Tsukizaki4, T. Mizuno4,23, T. Iwata4,23, H. Yano 4,23, M. Ozaki4,23, M. Abe4,23, M. Ohtake4,23, N. Namiki23,26, S. Tachibana3,27, M. Arakawa18, H. Ikeda24, M. Ishiguro28, K. Wada5, H. Yabuta29, H. Takeuchi4,22, Y. Shimaki4, K. Shirai4, N. Hirata10, Y. Iijima31, Y. Tsuda4,23, S. Watanabe4,22 and M. Yoshikawa4,23

著者所属:
1. Instituto de Astrofísica de Canarias (IAC), University of La Laguna, La Laguna, Spain.
2. Department of Astrophysics, University of La Laguna, La Laguna, Spain.
3. The University of Tokyo, Tokyo, Japan.
4. Institute of Space and Astronautical Science (ISAS), Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Sagamihara, Japan.
5. Planetary Exploration Research Center (PERC), Chiba Institute of Technology, Narashino, Japan.
6. Tohoku University, Sendai, Japan.
7. Brown University, Providence, RI, USA.
8. Astronomical Institute of the Romanian Academy, Bucharest, Romania.
9. Kindai University, Higashi-Hiroshima, Hiroshima, Japan.
10. The University of Aizu, Aizu-Wakamatsu, Japan.
11. Rikkyo University, Toshima, Tokyo, Japan.
12. Kochi University, Kochi, Japan.
13. National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Tokyo, Japan.
14. Meiji University, Kawasaki, Japan.
15. JAXA Space Exploration Center, JAXA, Sagamihara, Japan.
16. Institut d’Astrophysique Spatiale, Orsey, France.
17. Planetary Science Institute, Tucson, AZ, USA.
18. Kobe University, Kobe, Japan.
19. Osaka University, Toyonaka, Japan.
20. LESIA-Observatoire de Paris, Université PSL, CNRS, Université de Paris, Sorbonne Université, Meudon, France.
21. Université Côte d’Azur, Observatoire de la Côte d’Azur, CNRS, Laboratoire Lagrange, Nice, France.
22. Nagoya University, Nagoya, Japan.
23. SOKENDAI (The Graduate University for Advanced Studies), Hayama, Japan.
24. Research and Development Directorate, JAXA, Sagamihara, Japan.
25. University of Liverpool, Liverpool, UK.
26. National Astronomical Observatory of Japan, Mitaka, Tokyo, Japan.
27. University of Tokyo, UTokyo Organization for Planetary and Space Science, Tokyo, Japan.
28. 28Seoul National, University, Seoul, Korea.
29. Hiroshima University, Higashi-Hiroshima, Hiroshima, Japan.
30. Present address: Mitsubishi Electric Corporation, Kamakura, Japan.
31. Deceased: Y. Iijima.

DOI:10.1038/s41550-020-1179-z

公表日:日本時間2020年9月22(火)午前0時(オンライン公開)