2019/10/16 (WED)プレスリリース

金星全領域(昼・夜問わず)の雲の動きの可視化に世界で初めて成功 ~探査機「あかつき」の赤外カメラの観測によりスーパーローテーションの解明に大きく前進~

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

東京大学大学院理学系研究科、立教大学理学部、産業技術総合研究所、宇宙航空研究開発機構の研究グループは、金星探査機「あかつき」に搭載された中間赤外カメラを用いて、金星の雲の最も高い部分(雲頂、高度70km付近)におけるわずかな温度変動の分布とその動きを観測することに初めて成功しました。この研究によって、雲に筋状や粒状の温度構造があることや、雲の動きに昼側と夜側で違いが見られることを初めて明らかにしました。金星には自転速度の約60倍もの速度に達する「スーパーローテーション」と呼ばれる風が吹いていますが、その発生・維持メカニズムはまだ解明されていません。今回見つかった現象は熱潮汐波と呼ばれる惑星スケールの波によるものと考えられ、この波がスーパーローテーションの維持に働いている可能性があります。

1. 背景

図1 金星と「あかつき」の想像図(上)、(©JAXA)と明らかになった雲頂表面の温度分布(下)

金星は地球と似た大きさの地球型惑星ですが、その大気は地球と大きく違っています。二酸化炭素を主成分とする濃い大気の上空には厚い硫酸の雲が浮かび、スーパーローテーション(※1)と呼ばれる高速風が存在します。スーパーローテーションを維持するメカニズムのひとつとして熱潮汐波(※2)と呼ばれる太陽光による大気加熱により昼側と夜側に異なる風のパターンを作る波による大気の加速が提案されていますが、これまでの金星観測では太陽光に照らされた雲を観測してきたため、夜側を含めた実際の熱潮汐波による大気の運動がわかりませんでした。

2. 今回の成果

本研究では金星探査機「あかつき」に搭載された中間赤外カメラ(LIR)(※3)を用いて金星の夜側の雲頂の温度構造や雲の動きを初めて観測することに成功しました。LIRは波長10μm(ミクロン)付近の中間赤外線で雲頂の温度分布を観測します。しかし、小さなスケールの温度分布やその運動をとらえることは温度分解能(温度差を見分ける能力)の不足のためにできませんでした。そこで、本研究では温度分解能を0.1℃程度にまで向上させる新たな画像解析手法を取り入れ、従来観測ができなかったわずかな温度変動の分布を可視化することに成功しました。今回発見した筋状や粒状の模様は、雲の中で生じている未知の気象現象の現れと考えられます。これらの模様を追跡することで、雲が昼間側では極向きに流れ、夜側では赤道向きに流れる傾向にあることもわかりました。特に夜側の赤道向きに流れる傾向を観測によりとらえたのは本研究が世界初であり、これは理論的に予測される熱潮汐波の性質を裏付ける結果となりました。

3. 今後の展望

本研究により、昼側のみならず夜側も含めた金星の全領域の雲の動きを可視化することが可能になりました。今後、雲の動きのより精密な解析によって風速を求め、熱潮汐波の空間構造を明らかにすることで、熱潮汐波のスーパーローテーションへの影響を見積もるなど、スーパーローテーションのメカニズムの解明へ近づくことが期待されます。

4. 参考資料

図2 LIR による観測画像を用いて温度分解能の高い画像を作るまでの処理過程。(左)LIR が捉えた金星の画像。(中央)金星の地理座標に画像を展開し、細かい温度分布を強調する処理を行った画像。撮影時のノイズも同時に強調されてしまうため、この状態では詳細な温度分布を捉えることができません。(右)本研究で開発された画像処理を施した画像。ノイズが低減され、高い温度分解能を実現したことでわずかな温度変動の分布が可視化されています。

(※1)スーパーローテーションとは金星の自転速度(赤道で時速6km)をはるかに超える金星特有の東風で、その速度は高度とともに増加し雲頂高度(高度約70km)で時速360km に達します。大気と地面との間には摩擦がはたらくので、なんらかの維持メカニズムがない限りスーパーローテーションは弱まってしまうはずです。スーパーローテーションの発生・維持メカニズムについて完全な説明はまだなされていません。

(※2)熱潮汐波は太陽光による大気加熱によって励起される流体波動であり、金星では太陽光の大部分を吸収する雲層の上部で発生すると考えられています。熱潮汐波が発生して伝播すると、この波が励起される低緯度の雲頂付近の大気は自転方向に加速されます。この性質により、熱潮汐波が作られる金星の低緯度の雲頂付近では自転方向の加速が生じ、これがスーパーローテーションの発生・維持を担っている可能性があります。

(※3)LIRは波長10μm前後の熱赤外線を撮影するカメラです。LIRは人の体温を測定するサーモグラフィーのように金星を覆う雲の表面の温度分布を撮影します。典型的な温度の雲を観測した時の温度分解能は0.3℃です。

5. その他

本研究結果の詳細については、2019年10月24日に熊本市国際交流会館で行われる 「地球電磁気・地球惑星圏学会 総会および講演会(講演番号 R009-20)」で発表される予定です。