2017/08/08 (TUE)プレスリリース

「現代のピサの斜塔の実験」に成功
ミリメートル規模での自由落下の一様性を初確認

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

立教大学理学部の村田次郎教授と二宮一史研究員を中心とする研究チームは、物質によらず、すべての物体は重力場の中で同じ加速度で落下するという「自由落下の一様性」が、ミリメートル規模の小さな物体による重力でも成り立つことを初めて確認することに成功しました。

全ての物体は重力によって同じ加速度で落下するという、ガリレオのピサの斜塔の実験で有名な自由落下の一様性は、アインシュタインが一般相対性理論を構築する際の発想の原点となった、等価原理とも呼ばれる物理学における最も基本的な原理の一つです。これまで等価原理は地球からの重力による実験においては極めて高い精度で成り立つことが確認されていましたが、実験室内のミリメートル規模の小物体による重力でも成り立つかどうかは確認されていませんでした。この様な小物体の引き起こす重力は、地球の場合に比べて1億倍程度も弱く重力を検出すること自体が極めて難しい実験です。

研究チームは、ねじれ秤と呼ばれる装置と画像処理技術を組み合わせた独自の計測装置を開発し、ミリメートルからセンチメートル規模の小物体間の重力の検出と、その物質による違いの有無を検証しました。表面近接距離は最短で4.5mmに迫る計測で、タングステンの小物体が銅とアルミの異なる重力源に対して感じる重力場の強さは、数%程度の誤差の範囲内で一致する事が初めて明らかとなりました。

この研究成果は、重力の物理学において最も権威ある専門的学術雑誌の一つである『Classical and Quantum Gravity (古典および量子重力)』に掲載されます。

論文情報

タイトル:Short-range test of the universality of gravitational constant G at the millimeter scale using a digital image sensor
著者:K. Ninomiya, T. Akiyama, M. Hata, M. Hatori, T. Iguri, Y. Ikeda, S. Inaba, H. Kawamura, R. Kishi, H. Murakami, Y. Nakaya, H. Nishio, N. Ogawa, J. Onishi, S. Saiba, T. Sakuta, S. Tanaka, R. Tanuma, Y. Totsuka, R. Tsutsui, K. Watanabe and J. Murata
誌  名:Classical and Quantum Gravity
URL:https://doi.org/10.1088/1361-6382/aa837f

研究概要

図1 立教大学等価原理測定装置(Newton-II)概略図とその写真。ワイヤーで吊るされたタングステンのねじれ秤のまわりを、アルミと銅の小物体が回転させながら、ねじれ秤の角度変位を観測する。

ガリレオのピサの斜塔の実験で有名な「すべての物体は同じ加速度で落下する」という自由落下の一様性は、力に対する動きにくさを示す慣性という量と、重力を感じる量が共に「質量」という同じもので理解できることを示しています。アインシュタインはこの2種類の異なる量が等しいと考える、等価原理を発想の出発点として重力の理論である一般相対性理論を完成させました。一般相対性理論や等価原理そのものは天体間の距離などの非常に大きな規模では高い精度で検証されていますが、これまで我々の身近な規模では全く確認されていませんでした。重力理論として一般相対性理論が究極的に正しい理論であるかどうかはわかっておらず、とりわけ、ミリメートル以下の小さな世界では重力の法則の実験による検証は非常に難しく、一般相対性理論はもちろん近代科学の出発点であるニュートンの万有引力の法則と言えども検証の必要な仮説の域を出ていません。

図2 Newton-IIの観測した重力信号。タングステンの物体が銅とアルミの物体に対して感じる重力場の強さの比が質量比と矛盾ない事が初めて確認された [公表論文より]。縦軸は重力によるねじれ秤の角度変位、横軸は時間。

本研究はもともと、このミリメートル以下の世界で重力が万有引力の法則の予想よりもずっと強まると予言する、私たちの三次元空間を超える四次元以上の世界(余剰次元)を考える新しい理論を検証する事を目的にスタートしました。200年も前から物理学者が微弱な力を計測する為に用いてきた、ねじれ秤を小型化し、これをビデオカメラで撮影した上で特殊な画像処理を施すことでナノメートルという非常に高い精度を容易に達成できる技術を開発し、万有引力の法則の検証を進めてきました。自由落下の一様性は、その研究の一環として学生が主体的に学部の卒業研究や大学院の研究として検証実験を行ったもので、論文の筆頭著者の二宮研究員が学生時代より取り組んできた研究の成果です。

本研究では銅とアルミで出来た2種類の小物体を、ピサの斜塔の実験における地球に見立てた重力源として用いました。これらに対して、タングステンの小物体が重力によって引き寄せられる様子を画像として観測する事で、両者に対する重力加速度の大きさを比較しました。画像処理による高精度化はもちろん、重力以外の電気力や磁気力、振動といった様々な誤差の原因を工夫を凝らして除去する事で、地球による重力のわずか1億分の1という微弱な重力を検出し、その物質依存性を検証することに成功しました。測定精度は数%程度であり、大きな規模での検証に比べるとずっと低い精度ではあるもののセンチメートル規模において測定精度よりも大きく等価原理を破る、新たな理論の提案があればそれを否定することが出来るようになります。

図3 重力加速度の違いを測定距離によって表した図。Newton-IIが最も近い距離での検証結果を与えている [公表論文より]。縦軸は重力加速度の違い、横軸は検証距離。データは上限値を与えている。

本研究はミリメートルからミクロンスケールでの万有引力の法則の検証を目指すプロジェクトの開発途上で得られた成果であり、現在はさらなる高感度化、高精度化、そして小型化が進められています。その中で等価原理と万有引力の法則がさらに厳しくテストされつつあります。今後、近距離で等価原理を破る新たな重力理論の兆候や、余剰次元の存在を示す万有引力の法則の破れなどが発見される可能性もあります。本研究は大型の研究所での巨大科学ではなく、大学の実験室で学生が主体となって工夫を重ねながら進めてきた小さな実験があげた大きな成果である点は特筆すべき事項です。

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