第63回社会福祉のフロンティア「ドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』上映会&トーク 〜人が「人」であるとは、どういうことか? 人が「人」として生きるとは、どういうことか?〜」
INFORMATION
「プリズン・サークル」は、日本の刑務所で初めて長期撮影を行ったドキュメンタリー作品である。島根あさひ社会復帰促進センターにおける、受刑者同士の対話を基盤とした「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」の実践を、2年間にわたる撮影を通して描いた。受刑者たちが自らの犯した罪やその背景にある経験・感情と向き合い、他者との対話を通じて、新たな価値観や生き方を模索していく姿が描かれている。
本作品では4名の受刑者が主人公としてクローズアップされる。そのうちの1人は、当初、自らの犯した罪を「罪」として認識することができないでいた。しかし、TCでの対話を通して、彼は被害者の存在に思いを至らせるようになる。TCには自分のことを語れば、まっすぐに目を見て受け止めてくれる人がいる。だから、自分も相手の声に耳を傾けられる。こうした対話を通して、彼は自分自身が「人間」であったことを思い出し、また被害者も同じく「人間」であったことに気づいたのではないか。
このようにTCを通して変容していく過程を見ていると、プログラムの外側にある刑務所の日常が異様なものとして迫ってくる。とりわけ受刑者が番号で呼ばれ、大きく返事をしながら次々と立ち上がっていく点呼の場面では、同じ「人間」が管理する側と管理される側に分けられていることに強烈な異和を覚える。
本上映会では、この作品を「犯罪者」や「受刑者」という「一部の特殊な人たちの物語」ではなく、人が「人」であるとはどういうことか、人が「人」として生きるとはどういうことか、という根源的な問いを投げかけるものとして捉えたい。そして、この作品を観た一人ひとりに自分自身の問いを見つけてもらいたい。
上映後は、坂上香監督および、保護司として長年活動してきた中澤照子氏をゲストに迎え、語り合っていただく。作品の上映とトークを通して、参加者一人ひとりに自分自身の問いを見つけていただきたい。
講師
ドキュメンタリー映画監督、NPO法人「out of frame」代表、一橋大学客員准教授
坂上 香(さかがみ かおり) 氏
高校卒業と同時に渡米・留学、ピッツバーグ大学で社会経済開発学の修士号を取得。南米を放浪した後、帰国後TVドキュメンタリーの道へ。「被害者」による死刑廃止運動、犯罪者の更生、回復共同体、修復的司法、ドラッグコート(薬物裁判所)など、暴力・犯罪に対するオルターナティブな向き合い方を映像化。ATP賞第1回新人奨励賞を皮切りに、ギャラクシー賞大賞、文化庁芸術祭テレビ部門優秀賞、ATPドキュメンタリー部門優秀賞等、数多くの賞を受賞。
2001年TV業界を去り、大学専任教員に転職。メディア教育に従事しながら、薬物依存症の女性やその子どもたち、刑務所等に収容される人々を対象に、映像やアートを使ったワークショップも行う。2012年、映画制作に専念するためインディペンデントに。劇場初公開作品でアメリカの刑務所が舞台の『ライファーズ終身刑を超えて』(2004)で、New York International Independent Film and Video Festival 海外ドキュメンタリー部門最優秀賞を受賞。2作目の『トークバック沈黙を破る女たち』(2013)はLondon Feminist Film Festival のオープニングに選ばれる。
「暴力の後をいかに生きるか」をテーマに、「希望」や「成長」に着目した作品をこれからも作り続けていきたいと考える。主な著書に『癒しと和解への旅』(岩波書店)、『ライファーズ罪に向きあう』(みすず書房)。絵本の翻訳に『ねぇねぇ、もういちどききたいなわたしがうまれたよるのこと』、『きょうのわたしはソワソワワクワク』(偕成社)。
元保護司
中澤 照子(なかざわ てるこ) 氏
1998年から2018年にかけて、東京都江東区で保護司として活動。20年間で、成人・少年合わせて約120名の保護観察対象者を担当する。保護司としての長年の功労が認められ、2018年には「藍綬褒賞」、2021年には「瀬戸山賞」(日本更生保護協会)が授与された。また、第3回世界保護観察会議(2017年)や第14回国際連合犯罪防止刑事司法会議(通称、京都コングレス)(2021年)に登壇し、世界に向けて保護司の取り組みを発信した。
保護司を退任した現在は、元保護観察対象者や地域住民が集まり交流できる場所として喫茶店「Café LaLaLa」を経営している。また、2020年には、保護観察対象者や地域住民に振る舞ってきた「更生カレー」をレトルト商品化し、法務省のイベント(全国矯正展・法の日フェスタ in 赤レンガ・こども霞が関見学デー)やネットショップ等で販売し、売り上げの一部を犯罪や非行からの立ち直りを支える活動のために充てている。
保護司在任中・退任後を通して、各種メディアでその活動が取り上げられてきた。おもなものとして、「明日へのまなざし——保護司の活動とその喜び」(法務省制作DVD)、「映像'09ある保護司の取り組み」(毎日放送、2009年7月19日放送)「クローズアップ現代」(NHK、2015年5月25、26日放送)、「おはよう日本」(NHK、2017年9月20日放送)、「Japan's unpaid parole officers are driven by a‘love for humanity'」(The Japan Times、2025年1月23日掲載)がある。
司会
本学社会学部教授、社会福祉研究所所員
石川 良子(いしかわ りょうこ)
専門はライフストーリー研究。「ひきこもり」が社会問題化して間もない2000年ごろから調査研究を継続している。「ひきこもり」に関連する様々な集まりに参加しながら、当事者にとって「ひきこもり」とはどのような経験なのか、かれらの経験をどのように受け止めればよいのか追求してきた。また、近年はストリップ劇場のフィールドワークにも力を入れている。おもな著書に『ひきこもりの〈ゴール〉』(青弓社、2007年)、『「ひきこもり」から考える』(ちくま新書、2021年)、『ライフストーリー研究に何ができるか:対話的構築主義の批判的継承』(新曜社、2015年。桜井厚との共編著)などがある。