公開セミナー「被害のその後を生きるとは?——「修復的正義」の可能性を現代史のなかに探る——」
INFORMATION
共生社会研究センター認定研究プロジェクト「1970年代から2000年代における日本社会の変容と社会運動に関する歴史学的考察」では、社会的に周縁化された人々による社会運動を含む様々なテーマで実証的研究を積み上げてきた。本セミナーでは、本プロジェクトの成果共有の一環として、1970年代以後の戦後日本社会を対象に、「修復的正義」をキーワードとして被害と加害の問題を取り上げる。
修復的正義(Restorative Justice)とは、刑事司法による加害者への処罰に注目する考え方とは異なり、被害者の損害とニーズに重きをおく考え方である。戦後日本を振り返ってみたとき、被害と加害の問題は、公害反対や環境保護を訴えた社会運動や、日本の戦争や植民地支配に対するアジアを始めとする世界各地の人びとによる責任追及の動きなど、さまざまな位相から問題とされてきた。そのような戦後日本社会において、修復的正義の観点から見た場合、被害者の損害とニーズは、どのように認識され、さらにはそこで果たすべき責任はどのように考えられ実践されてきたのだろうか。本セミナーではこのような問題関心のもとで、修復的正義に関わる種々の営みを、個別事例に即して探ることを通じて、「被害のその後を生きる」ことを日本社会の歴史と現状に位置付けて考え直すことを目指したい。
セミナーでは、最初に講師である小松原織香氏に、当該テーマに関してご報告いただく。次に、プロジェクトメンバーらによる各自のテーマと関連させた小報告と小松原報告へのコメントを提示していただく。これらの報告とコメントを踏まえ、質疑応答を進めることで、本セミナーの課題を追究していきたい。
講師
東北大学大学院文学研究科准教授
小松原 織香 氏
大阪府立大学大学院人間社会学研究科人間科学専攻修了、博士(人間科学)。専攻は倫理学。主たる研究テーマはジェンダーと環境。主要業績として、小松原織香『当事者は嘘をつく』筑摩書房、2022年、小松原織香「「もうひとつのこの世」の実現を目指して——水俣の哲学(上)」『現代生命哲学研究』第14号、2025年、1-27頁、及びOrika Komatsubara. Can art convey a victim' s voice to future generations? A case of Minamata disease in Japan. The International Journal of Restorative Justice, 5(3), pp.423-139, 2022.