公開シンポジウム「中世を語り、分析し、描くこと:中世アイスランド文学から現代日本の歴史創作へ」
INFORMATION
1970年代から1980年代にかけて、日本では中世北欧文化への関心が高まり、いわゆる「中世北欧ブーム」が巻き起こった。この背景には、中世アイスランド文学の代表作である『エッダ』(1973年)および『アイスランド・サガ』(1979年)が、谷口幸男によって中世アイスランド語原典から翻訳されたことがある。これら二冊の翻訳書は、日本の読書界において長年にわたり親しまれ、近年では新たな世代の研究者によって復刊されるに至っている。
この半世紀の間に、これら翻訳書を取り巻く環境には大きな変化が見られた。第一に、北欧中世に関する学術的研究が飛躍的に発展し、多数の専門書が出版されるようになった。谷口による古典的翻訳に加え、ヴァイキング、北欧神話、中世アイスランド社会に関する学術的知見が、日本語でも広くアクセス可能となっている。第二に、日本人研究者と北欧現地研究者との間で、留学、研究者招聘、国際シンポジウムへの参加などを通じた学術交流が活発化し、それに伴い日本におけるアイスランド像もより多様かつ豊かなものへと変化している。第三に、こうした翻訳や研究の成果が、現代日本における歴史創作に影響を及ぼすようになった点が挙げられる。
本シンポジウムの第1部「21世紀の北欧中世研究」においては、復刊にも関わった研究者による北欧中世に関する研究報告を行う。第2部「歴史創作と西洋中世」では、北欧中世を舞台とする漫画作品『ヴィンランド・サガ』の作者・幸村誠氏および、西洋中世における唯一の女性歴史家を主人公とした『アンナ・コムネナ』の作者・佐藤二葉氏を迎えて、最終回を迎えたそれぞれの作品について、とりわけ中世北欧に関連させてお話しいただく。最後のディスカッションでは、現代日本における研究・翻訳・歴史創作などの関係、その特徴、その可能性などについて考察を深める機会としたい。
講師
漫画家
幸村 誠(ゆきむら まこと) 氏
第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞(2009);第35回講談社漫画賞(一般部門、2012)。代表作に、『プラネテス』(4巻、講談社、1999-2004);『ヴィンランド・サガ』(講談社、2005-)
作家、パフォーマー
佐藤 二葉(さとう ふたば) 氏
代表作に『うたえ!エーリンナ』(星海社、2018);『百島王国物語』シリーズ(星海社、2019-);『アンナ・コムネナ』(6巻、星海社、2021-25)他。
東海大学文化社会学部准教授
松本 涼(まつもと さやか) 氏
修士(文学、京都大学)。共著に、『史料と旅する中世ヨーロッパ』(ミネルヴァ書房、2025);『映画で味わう中世ヨーロッパ:歴史と伝説が織りなす魅惑の世界』(ミネルヴァ書房、2024);谷口幸男訳『【新版】アイスランドサガ』(編集、新潮社、2024)他多数。
東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センター特任研究員
山田 慎太郎(やまだ しんたろう) 氏
修士(文学、東京大学)。主な論文に、「ChatGPTを用いた人名・地名エンティティの自動抽出:生成AIを活用した中世アイスランド・サガの知識グラフ構築にむけて」(小川潤・大向一輝と共著)『じんもんこん2024論文集』329-334頁;「アイスランド研究に関するデジタルツールの紹介」『日本アイスランド学会会報』42(2023):9-29頁他。
本学文学部史学科世界史専修教授
小澤 実(おざわ みのる)
司会
東海大学文化社会学部准教授
上倉 あゆ子(あげくら あゆこ) 氏
修士(言語文化学、大阪外国語大学)。共著に、『スウェーデンを知るための64章【第2版】』(明石書店、2024);『北欧文化事典』(丸善出版、2017)他。
詳細情報
名称
内容
14:00~14:10 導入:小澤実
第1部 21世紀の北欧中世研究
14:10~14:30 報告1「『【新版】アイスランドサガ』(2024)と中世アイスランド研究」:松本涼氏
14:30~14:50 報告2「『【完全版】エッダ古代北欧歌謡集』(2025)と戦後日本の中世北欧イメージ」:小澤実
14:50~15:10 報告3「中世アイスランド語テクストとDH」:山田慎太郎氏
Coffee Break
第2部 歴史創作と西洋中世
15:30~16:00 報告4「『ヴィンランド・サガ』連載を終えて」:幸村誠氏
16:00~16:30 報告5「『アンナ・コムネナ』連載を終えて」:佐藤二葉氏
16:30~17:30 ディスカッション(全員)