公開講演会「危機を前にした人間:西洋中世における環境・災害・心性」

INFORMATION

  • 2022年6月19日(日)13:00~17:00
  • ハイブリッド型開催(対面・オンライン)
    池袋キャンパス 9号館大教室

近年、自然環境と人間との関係を問う歴史研究が活況を呈している。そのような研究であれば、長期スパンでの地理条件の変化と歴史動体の関係を論じるブローデル、気候変動それ自体を歴史化するラデュリ、人間と動物との関係を語るドロールらの研究がすでにあるではないか、と言うかもしれない。しかしながら、近年における環境史研究は、以下のように新しい局面を迎えつつある。
①文字史料に残るデータの悉皆調査による総覧化②堆積物分析、花粉分析、DNA分析、天文観測などを通じての自然科学データの精緻化③SDGsや新人世(Anthropocene)が要請する間・社会・自然環境との関係に対する視点の移動④認知科学や感情史研究を通じた、認識主体である人間の認知能力に対する理解の深化⑤環境決定論に抗するような国家や共同体といった人間側の対応の強調

Digital Humanitiesの最新の成果に基づき次々に刊行されるBruce Campbell、Kyle Harper、Michael McCormick、Johannes Preiser-Kapellerらの研究やプロジェクトは、従来にも増して複層的かつ動体的なヨーロッパ中世像を私たちに提供しつつある。国境や民族といった近代に起源を持つ枠組みの相対化として試みられてきた「接続と比較」に加えて、自然科学の知見によって急速に明らかになりつつある気候変動や疫病転移という地球全体を覆う動きもまた、グローバルヒストリーにおいて不可欠の要件となりつつある。

以上の研究動向を念頭に西洋中世社会へと目を向け直してみた場合、あらゆる史資料の中に、人為的なものであれ自然に基づくものであれ、災害と向き合う人間の姿を見出すことができる。本シンポジウムでは、5つの報告とそれを踏まえたユーラシア視点のコメントを通じて、近年のグローバルヒストリー研究により明らかになりつつある「中世」という舞台設定において、旧約聖書における「大洪水」の記憶を共有しながらその時代特有のエコシステムと認識枠組みの中で生きる人々が何を災害と捉え、それらをどのように感じ、そしてどのように対処したのかを、アフロユーラシア世界や日本との比較並びに21世紀の災害と対峙する私たちにとってのアクチュアリティをも踏まえて考えてみたい。そういった意味では、SDGsを歴史的観点から捉え直す試みでもある。

講師

本学文学部史学科世界史学専修教授
小澤 実(おざわ みのる)
オーストリア学士院研究員
ヨハネス・プライザー=カペラー(Johannes Preiser-Kapeller)

ウィーン大学歴史学部修了。PhD。主要業績に、Die erste Ernte und der große Hunger. Klima, Pandemien und der Wandel der Alten Welt bis 500 n. Chr. (Wien, 2021) ; Der Lange Sommer und die Kleine Eiszeit. Klima, Pandemien und der Wandel der Alten Welt von 500 bis 1500 n. Chr. (Wien, 2021); Migration Histories of the Medieval Afroeurasian Transition Zone. Aspects of mobility between Africa, Asia and Europe, 300-1500 C.E, ed. with Lucian Reinfandt und Yannis Stouraitis (Leiden, Boston 2020)他多数。

本学文学部文学科英米文学専修教授
唐澤 一友(からさわ かずとも)
本学文学部兼任講師
後藤 里菜(ごとう りな) 氏

東京大学大学院総合文化研究科単位取得退学。博士(学術)。主要業績に、『〈叫び〉の中世—キリスト教世界における救い・罪・霊性—』(名古屋大学出版会、2022);「罪の叫び、救いの叫び—西洋中世の異界探訪譚をめぐって—」『年報地域文化研究』24 (2021): 40-54 頁他多数。

東洋大学文学部助教
アダム・タカハシ(あだむ・たかはし) 氏

ナイメーヘン大学哲学部修了。PhD。主要業績に、Albert the Great as a Reader of Averroes: A Study of His Notion of the Celestial Soul in De Caelo et Mundo and Metaphysica”, Documenti e studi sulla tradizione filosofica medieval, 30 (2019): 625-653; 「⾃然世界に秩序を与えるのは何ものか:アリストテレス主義における〈神的摂理〉と「一二七七年の禁令」」『西洋中世研究』11 (2019): 111-124 頁他多数。

大阪大谷大学文学部教授
今井 澄子(いまい すみこ) 氏

慶應義塾大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。主要業績に、『北方近世美術叢書 I~VI』(ありな書房、2015-21);『聖母子への祈り—初期フランドル絵画の祈禱者像—』(国書刊行会、2015)他多数。

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター助教
諫早 庸一(いさはや よういち) 氏

東京大学大学院総合文化研究科単位取得退学。博士(学術)。主要業績に、「ユーラシアから考える〈一四世紀の危機〉」『史苑』82-2 (2022): 185-211 頁; ”From Alamut to Dadu: Jamāl al-Dīn’s Armillary Sphere on the Mongol Silk Roads”, Acta Orientalia Academiae Scientiarum Hungaricae 74-1 (2001): 65-78 他多数。

詳細情報

名称

公開講演会「危機を前にした人間:西洋中世における環境・災害・心性」

内容

ヨハネス・プライザー=カペラー氏
「紀元千年のグローバルな危機?—比較観点による10-11世紀のアフロ・ユーラシアにおける気候変動、天体現象、社会的・政治的動乱—(翻訳原稿配布とビデオ録画)」
唐澤一友
「アングロ・サクソン時代の危機管理—古英語のwisdom poetryを手掛かりに—」
後藤里菜氏
「女性と〈身体〉という危機—12世紀の敬虔な女性、マークヤーテのクリスティーナ(1096頃-1155頃)を題材に—」
アダム・タカハシ氏
「政治的危機と神的秩序:アウグスティヌス、アクィナス、ウィクリフ」
今井澄子氏
「疫病と美術—14・15世紀フランスとネーデルラントの物語表現を中心に—」

諫早庸一氏:コメント

対象者

本学学生、教職員、校友、一般(西洋中世学会会員)

申し込み

  • 事前申し込み 必要
  • 参加費 有料

19日のシンポジウムに人数制限はございませんが、参加費1000円が必要となります。こちらからご登録ください。

主催

西洋中世学会

共催

人文研究センター

備考

お問い合わせ

文学部史学科世界史学専修教授
小澤 実

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