総長スピーチ集総長紹介

総長のスピーチやメッセージをご紹介します。

2021年度

立教大学ヒューマン・ディグニティ宣言
新入生の皆さんへ(2021年度入学式 [学部・大学院])
2021年4月6日、7日
立教大学総長 西原 廉太

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。立教大学は、皆さんと共に迎える春を心待ちにしておりました。あらためて、皆さんのご入学を心より祝福したいと思います。

今日に至るまでの1年間は、私たちがこれまで経験したことのない非日常の連続でした。新型コロナウイルス感染症の世界的なパンデミックは、人々の接触や交流そのものを制限しました。このことは、私たちに人と人との絆の重要性を再認識させる結果となりました。他者と共に在り、自己の歩む途を照らすという作業がどんなにかけがえがないことなのかを見つめ、深く考えさせる1年間であったと思います。

そのような中、立教大学は学生の学びを止めないために試行錯誤し、新しいキャンパスライフを創造しつつあります。心身および社会的健康を最優先に考えながら、対面による授業の意義を改めて確認しつつ、オンラインの新しい可能性も探究してきました。そして、すべての学生がその志向に応じた多彩な学びを進め、自らの優れて明るい「強み」を存分に高めることを支援します。新入生の皆さんには、新たな価値創造の拠点として、立教大学での生活をスタートしていただきたいと思います。

立教大学の歴史は、1874年、アメリカ聖公会の宣教師、チャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が築地に「立教学校」(St. Paul’s School)を創立したのが始まりです。立教大学としては147年もの歴史を有しているわけです。あまり一般には知られていませんが、立教大学は日本における最古の近代大学のひとつでもあるのです。

立教大学を開設したのは「聖公会」、聖書の「聖」、公共性の「公」、教会の「会」で「聖公会」と言い表すキリスト教会ですが、聖公会は英国国教会、イングランド国教会が源流の、世界約165カ国(8,500万人)に広がる教会です。これはプロテスタント教会では最大の規模であり、ローマ・カトリック教会と共に国連の正式NGOで、世界中に聖公会の大学、研究所や病院、社会福祉施設があり、英国のオックスフォード大学、ケンブリッジ大学も聖公会と歴史的につながる大学です。このように、世界的なネットワークにつながっている大学は、日本では他に類を見ることができません。

聖公会の歴史は西暦597年まで遡ります。聖公会の考え方の特徴を一言で言いますと、ローマ教皇絶対主義も、プロテスタント教会に見られる聖書絶対主義も取らないこと、つまり、あらゆる「絶対主義」や「原理主義」を否定するところにあります。真理を求めて「道」のただ中を歩み続けることを大切にしてきたのです。このような流れの中で、シェイクスピアやアイザック・ニュートン、ロバート・ボイルらに代表される人類の知を形成した、聖公会につながる文学者、自然科学者が多数輩出されてきたことは決して不思議なことではありません。立教大学もこの歴史の中で生み出されたのです。皆さんも、人類の知の遺産を継承し、真理を絶えず探究し続ける旅人です。これからの皆さんの旅は、もはや与えられた解答の中からマークシートを塗りつぶす作業ではありません。今日、この日、この場所から、皆さんの真理を目指した終わることのない、時間と空間を超えた「旅」が始まるのです。

さて、皆さんが今お持ちの式次第をご覧ください。そこには立教大学のシンボルマーク、校章が描かれています。真ん中に置かれている本は、聖書です。そして聖書の上に何か文字が書かれていますね。それはこういう言葉です。“Pro Deo et Patria(プロ・デオ・エ・パトリア)”。これこそが立教大学の建学の精神を表す言葉です。“Pro Deo et Patria”とはラテン語で、Proは「~のため」、Deoは神、etは英語の“and”、Patriaは祖国や国という意味ですので、“Pro Deo et Patria”を直訳すると、「神と国のために」ということになります。しかしながらDeoには「普遍的な真理」、Patriaには、「隣人や社会、世界」という内容が含まれています。したがって、“Pro Deo et Patria”が示す本来的な内容とは、普遍的なる真理を探究し(Pro Deo)、この世界、社会、隣人のために働くこと(Pro Patria)となるわけです。普遍的真理を探究し、この世界、社会のために働く者を育てることが、立教大学のまさに「ミッション」(使命)であることを、この建学の標語、“Pro Deo et Patria”は常に私たちに思い起こさせてくれるのです。

“Pro Patria”、隣人、社会、世界に具体的に奉仕する者となるというのは、一人ひとりの「人間の尊厳」を大切にし、他者の痛みに敏感に共感できる者となることです。「誰一人取り残さない」世界の実現を目標として掲げる国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成と、さらには、新型コロナウイルス感染症蔓延下の社会において「人間の尊厳」を大切にする働きに、本学も貢献しなければなりません。「尊厳」を英語では「ディグニティ」(dignity)と言いますが、その語源はラテン語の「ディニタース」(dignitas)であり、本来の意味は「その存在に価値があること」です。すべての<いのちあるもの>の存在には価値があり、それは決して損なわれてはならない。これこそが、立教大学が創立以来、大切にしてきた規範にほかなりません。

この規範の本質について皆さんに知っていただくために、一つの記事をご紹介したいと思います。読売新聞の『編集手帳』というコラムにこのような記事が掲載されていました(2000年10月29日付)。

「斎藤強君は中学1年の時から不登校になる。まじめで、ちょっとしたつまずきでも自分を厳しく責めた。自ら命を絶とうとしたのは、20歳の春の時だった。ガソリンをかぶった。精神科医の忠告で彼の行動を見守っていた父親は、その瞬間、息子を抱きしめた。自らもガソリンにまみれて叫ぶ。『強、火をつけろ』。抱き合い、二人は声をあげて泣き続けた。一緒に死んでくれるほど、父親にとって自分はかけがえのない存在なのか。あの時、生まれてはじめて、自分は生きる価値があるのだと実感できた。強君は、後にこの精神科医、森下一さんにそう告白する。」このような記事でした。

森下さんは、姫路市に診療所を開設する傍ら、不登校の子どもたちに積極的に取り組まれています。彼らのためにフリースクールと全寮制の高校も作り、吉川英治文化賞も受賞されていますが、森下さんから教えられるのは、こういうことです。「命がけで自分を愛してくれる父親と出会う。この時、強君は愛されていることを知り、同時に人を命がけで愛することを知ったのだ」と。

立教大学の全教員、全職員は、皆さんの一人ひとりを、かけがえのない存在として、大切にいたします。そして、皆さんもまた、このような愛をもって、他者とつながり、その尊厳を限りなく尊ぶ者となっていただきたいと思います。「普遍的なる真理を探究し、この世界、社会、隣人のために働く者となれ」、この“Pro Deo et Patria“という言葉は、皆さんに与えられる「立教大学の学生証」にも刻まれています。皆さんは、立教大学で学ぶこれからの4年間、常に皆さんの学生証と共に、“Pro Deo et Patria”をその身に担うことになるのです。立教大学の学生であることの証しとして、使命として、また誇りとして、ぜひこの“Pro Deo et Patria”という言葉を大切にしていただきたいと願います。

今年1月にアメリカで行われたバイデン大統領就任式で、22歳の黒人・女性の若き詩人、アマンダ・ゴーマンさんが旧約聖書のミカ書第4章4節を引用しながら詠った詩には、このような言葉がありました。

「光はいつもそこにあるのです。私たちにそれを見つめるだけの勇気さえあるならば。私たちが、光になるという勇気さえあるならば」

ゴーマンさんには発話しょうがいがありました。しかし彼女は、それを弱みだと思ったことはない、と言います。この日のために練習を重ねました。アメリカ国会議事堂、キャピトルヒルの大舞台で、両手指の先まで自在に操りながら、豊かな表情で、「沈黙が必ずしも平和ではない」と語りかける彼女は堂々と輝いていました。

皆さんの前にも、きっと光はいつもそこにあります。皆さんも、光となる勇気を抱くようにと招かれています。ぜひ、この立教大学で、あなただけの光を見つけてください。そして、皆さんご自身が、光となって輝いてください。ご一緒に、真理を探究する無限の旅を楽しんでまいりましょう。

これからの皆さんの立教大学での学びと生活が豊かに恵まれたものとなりますよう、お祈りしつつ、お祝いの言葉とさせていただきます。

新入生・新2年生の皆さんへ(2021年4月1日)
総長就任にあたって(2021年4月1日 第22代総長就任宣誓式)
本日、ただいまの宣誓式をもって、立教大学第22代総長に就任いたしました、西原廉太です。
私に与えられました任期は4年ですが、その最終年度の2024年には、いよいよ、立教大学・立教学院創立150周年を迎えます。立教にとって非常に大きな節目となる150周年を備える総長として、今、あらためて、その責任の大きさをひしひしと感じているところです。
立教大学を創設した「聖公会」は、「教育」というものを、宣教・伝道のためのツールとしてではなく、教会としての「ミッション」(使命)の具体的な表現、実践として、伝統的に理解してきた教会です。その原理とは、神の「呼びかけ」(calling/召命)に応えて、自ら学び舎を作り、教壇に立つという、余人を以って代え難い務めを担うことに他なりません。
私たち、立教大学につらなる者たちの「ミッション」とは、この「呼びかけ」に対する「応答」を、その時代々々の中で、再現し続けることです。今から147年前の1874年に、創立者、チャニング・ムーア・ウィリアムズが米国聖公会の支援のもと、築地の外国人居留地に、「立教学校」(St. Paul’s School)を開学した時に、ウィリアムズが受けとめたその「呼びかけ」の声を、可能な限り雑音を排除して、鮮明に、かつ深いところで、聴き取ることのできる「場所」を捜し求めること。その時々の時代的状況の中にあって、いかにすれば、その「場所」に至ることができるかを、全身全霊で思いめぐらし、苦闘すること。これこそが、私たち、立教大学に、また、とりわけ、創立150周年を迎える、第22代総長に課せられた「ミッション」であると確信しています。
私が、総長として最初に行う仕事は、本日付けで、立教大学の全学生、全教職員に対して、『立教大学ヒューマン・ディグニティ宣言』を発信することです。ウィリアムズは、当時の「実利主義」や知識、技術を物質的な繁栄と立身出世の道具とする日本の風潮とは明確な一線を画して、立教を「キリスト教に基づく真の人間教育を行う場」と位置づけました。それ以来、立教大学は、一貫して、一人ひとりの「人間の尊厳」を大切にし、他者の痛みに敏感に共感できる者たちを生み育てることを、「建学の精神」の根幹としてきました。そのことを、私はまずもって、立教大学の全構成員と共に確認したいのです。
「尊厳」を英語では「ディグニティ」(dignity)と言いますが、その語源はラテン語の「ディニタース」(dignitas)であり、本来の意味は「その存在に価値があること」です。神によって創造されたすべての<いのちあるもの>の存在には価値があり、それは決して損なわれてはならない。これこそが、立教大学が創立以来、規範としてきたキリスト教の中心的教理であり、本学の教育、研究、社会貢献のすべての基礎的原理でなければならないと考えています。
「立教的価値」、「立教モデル」を、世代を超えてつなぎながら、<All立教>で、力をあわせて、立教の未来を創造していきたい。来る、2024年、立教大学創立150周年に向かって、立教大学の「建学の精神」を再確認しつつ、私たちの立教大学を、教える者と学ぶ者、そしてそれを助ける者が、真に「誇れる大学」に、そして、「選ばれる大学」へと、ご一緒に変革していきたい。そのために、私は総長として、全力で、また、誠実に、私に与えられたミッションを果たしてまいります。どうか、お支えくださいますよう、心よりお願い申し上げます。
最後に、米国の神学者、ラインホルド・ニーバーの祈りに聴きながら、私の総長就任の挨拶とさせていただきます。


神よ、変えるべきものを変える勇気と
変えてはならないものを受け入れる冷静さと
そしてその両者を見分ける知恵を、私たちに与えてください

アーメン

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