立教大学社会福祉ニュース
第23号(WEB2号), 2003年3月31日発行

【研究報告】

社会福祉施設・機関における『職場研修』について
―社会福祉従事者の「教育環境」としての視点―

研究員 永田理香

はじめに 「福祉人材確保指針」と「職場研修」
 福祉の「職場研修」は,社会福祉法第89条第1項の規程により策定された「社会福祉事業に従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」(いわゆる「福祉人材指針」,平成5年4月14日,厚生省告示第116号)に基づくものである。この指針の第二項の二「(職員)の資質の向上」の項には,次のようにうたわれている。
「二 経営者は継続的な自己研鑚に合わせ,積極的に従事者の資質の向上に努めていく必要がある
1 職場における業務を遂行する中で,従事者が日常的に専門的知識・技術を修得できるよう職場内研修体制を整備すること。あわせて,一般職員の指導に当たる施設長等,幹部職員の研修機会の確保等に努めること。
2 従事者の研修参加の機会を確保するとともに,研修受講者の評価等研修体制の充実強化を図ること。
3 従事者が働きながら,社会福祉士,介護福祉士等の国家資格を修得することを容易にするため,職場内学習の機会の確保等,学びやすい環境づくりに努めること。」
 つまり,「職場研修」を構成する「OJT」「OFF-JT」「SDS」を推進していくことが求められている。

1 福祉の「職場研修」とは
 「職場研修」とは,「OJT(職務を通じての研修)」「OFF-JT(職務を離れての研修)」「SDS(自己啓発援助制度)」の3つの形態で実施するものであり,個々の職場が主導的に推進する職員研修の全体を指すものである。3つの形態それぞれについては次のように定義付けられる。
 「OJT」とは,職場の上司(先輩)が,職務を通じて,または職務と関連させながら,部下(後輩)を指導・育成する研修であり,職務に必要な態度・価値観,知識・情報,技術・技能等を対象に意図的・計画的に行なう育成活動である。
 「OFF-JT」とは,職務命令により,一定期間日常業務を離れて行なう研修であり,職場内の集合研修と職場外での研修への派遣の2つがある。職場内の集合研修とは「職場内OFF-JT」であり,職場外での研修への派遣とは研修センター等が行なう「職場外OFF-JT」である。日常の職務の中では行ないにくい新たな動機付けや視野の拡大,専門的知識や技術の系統的な修得等を目的とする場合に適した研修形態であるといえる。
 「SDS」とは,職員の職場内外での自主的な自己啓発活動を職場として認知し,経済的・時間的な援助や施設の提供などを行なうものであり,資格取得等の個人の活動,自主的勉強会等のグループの活動など,それぞれのニーズに応じた援助施策の検討が求められている。 
 この3つの研修形態を体系的かつ一体的に実施しなければ「職場研修」は効果的に機能することは難しい。なぜならば「職場研修」とは専門職養成力の強化を目指すものであり,それは,「人材育成」の観点から紡ぎ出された職員教育方法の総体によって具現化されるものだからである。また,企業教育における職場研修を参考にしながらも,福祉独自の専門職教育方法を体系化したものとして福祉の「職場研修」を構築していかなくてはならない。組織の一員としての自覚,かつ福祉サービス向上の促進が実現されるものとして,福祉の「職場研修」は福祉現場に普遍化されていくべきものである。

2 福祉の「職場研修」実施の現状
 前述した指針で示されている「職場研修」はどれくらい福祉の現場に根付いているのであろうか。
筆者は群馬県社会福祉協議会群馬県福祉マンパワーセンター研修課において,社会福祉従事者に対する研修の企画・運営を担当した経験がある。施設・機関単位で発送していた研修要綱に対し,管理職が研修への参加を認めず個人的に参加を申し込んでくるケース等,経営者・管理職の職場研修に対する意識の格差は常に課題として捉えていた。
 筆者が,群馬県福祉マンパワーセンター主催の「平成13年度職場内研修指導者養成(指導的職員)研修」受講者を対象に実施した質問紙調査をもとに,「職場研修」実施の現状についてみていきたい。当研修の受講対象者は,社会福祉施設・社会福祉協議会において指導的立場(主任~事務局長等の役職)にあり,職場内研修の推進にあたる職員である。第1回の受講者が22名,第2回の受講者が26名であり,各研修最終日に調査票の記入を依頼し,当日回収を行った。
 回答者の基本属性の概要についてみると,参加者の年齢は40台が最も多く,性別は男女とも50%であった。施設種別では老人福祉施設が最も多く,続いて障害者福祉施設であった。職種はケアワーカーが最も多く,生活相談員が続いた。実務経験は0~5年が最も多く,平均は11.2年であった。
 次に調査結果の概要についてみていきたい。まず,「研修担当者の役割を明確化しているか」との質問に対し,「はい」25%,「いいえ」69%,「無回答」6%であった。研修参加者=研修担当者であるが,その役割が明確化されていない施設・機関がほとんどで,職場研修実施体制に疑問が残る結果となった。
「OJTの推進体制について明確化しているか」との質問に対しては,「はい」17%,「いいえ」79%,「無回答」4%であった。OJTは職場研修の基本として位置づけられるものである。日常のあらゆる機会が教育の場であり,特別な時間や費用を割く必要もなく職員教育ができるというOJTの特性を活用きれていない実態が明らかとなった。
 「職場外OFF-JT(職場外で実施される派遣研修)を活用しているか」との質問に対しては,「はい」50%,「いいえ」42%,「無回答」8%であった。「はい」と回答した施設・機関のほとんどが群馬県福祉マンパワーセンターへの派遣であった。当センターが担う役割の大きさを感じるとともに,種別協議会等,より専門的な研修活動への高まりが課題としてあげられるであろう。
 「職場内OFF-JTを実施していますか」との質問に対しては,「はい」46%,「いいえ」50%,「無回答」4%であった。実施回数については,「年2回」が最も多かった。OJTに比べ,OFF-JTの方が形が見えやすく,実施しやすいとの印象を受けた。
 「SDS(自己啓発援助制度)を実施していますか」との質問に対しては,「はい」8%,「いいえ」67%,「無回答」25%であった。資格取得を昇給の基準とし,SDSを職員の自己教育の有効な手段として評価している施設もある一方,ほとんどの施設・機関がSDSの実施体制について不備であるとの実態が浮かび上がった。
 その他,調査票にはOJT,OFF-JT,SDSに関して具体的な質問も用意したが,紙面の都合上,概要のみ取り上げた。詳しい調査結果の考察については,平成14年度立教大学コミュニティ福祉学部紀要に掲載する筆者の論文を参照していただきたい。

おわりに 社会福祉施設・機関を「教育環境」として捉える視点
 「職場」とは,上司との関係,同僚との関係等,組織を形づくる様々な関係を包括することばである。福祉の現場における「職場」とは,そうした組織で「はたらく人々の関係」に「利用者との関係」を加え,強調するという意味をもっている。つまり,福祉の「職場」とは,職員だけでなく利用者をもその構成員とし,職員にとって「仕事の場」であると同時に,利用者にとっては「生活の場」であるという,パラドクスを抱えやすい場であるといえよう。
 実態調査からも明らかになったように,福祉の「職場研修」が推進されていないという現状は,本来ならばそのことによって専門性を求められる「生活の場」への認識の質を映し出すものである。日常の積み重ねである生活はすべての人間に存在するものであるため,それが他者のものであっても,分かっていると錯覚する傾向がある。しかし,「生活の場」こそ,様々な問題の発生する場であり,社会福祉従事者はそれを「仕事の場」において捉え解決していかなくてはならない。入所施設でなくとも,利用者にとっては職員と関わっているその時も生活そのものなのである。ここに,福祉の「職場」を社会福祉従事者の「教育環境」として捉える視点が浮かび上がる。
 「生活の場」「仕事の場」の相互的力動関係を構築するものとして「教育の場」は存在する。「生活の場」「仕事の場」を包括したものが社会福祉従事者の「教育環境」であると言った方が妥当なのかもしれない。つまり,施設・機関を「教育環境」として捉えるという視点を導入することにより,「生活の場」「仕事の場」としての福祉の「職場」の輪郭は浮かび上がる。「教育」とは目的をもった行為であり,具体的な活動の積み重ねでもある。教育方法としての「職場研修」をどう推進するか,それは施設・機関の場としての存在価値の表明でもある。
 今後の課題としては,福祉の「職場研修」に関するより詳細な調査・考察を実施し,課題の抽出と福祉の職場が活用しやすい,社会福祉従事者の教育方法としての「職場研修」について提言していきたい。現在,平成14年度大同生命厚生事業団の「地域保健福祉研究助成」を受け,群馬県社会福祉協議会職員等と共同研究を行っている。群馬県社会福祉協議会の推薦をいただき,群馬県内の社会福祉施設・機関を対象に質問紙調査を実施している。調査結果を分析・考察し,報告書を協力施設・機関に配布することにより,福祉の「職場研修」活性化の一助になればと思っている。

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