立教大学社会福祉ニュース
第23号(WEB2号), 2003年3月31日発行

自殺予防元年

副所長 福山清蔵

 昨年は「自殺予防元年」と呼ばれました。毎年一万人を超える人々が自殺により自らいのちを絶っていますが,昨年にはとうとう三万人もの人が自殺しています。厚生労働省はやっと思い腰を上げてこの問題に取り組むことになり,初めて自殺予防・防止のために予算を計上したのです。
 私の属している「いのちの電話」では30年前から「自殺」に対して「予防」「防止」に取り組んできていますが,このいのちの電話の全国組織である「日本いのちの電話連盟」を母体として「自殺予防週間」が厚生労働省の後援で昨年度12月1日から一週間「無料電話相談」として活動されました。今年度にもこの事業は継続されて昨年12月1日から一週間にわたって展開されました。
 全国50センターが参加し,いのちの電話全体で取り組まれました。平常は自殺を訴える割合は10パーセント未満ですが,この一週間には30パーセントを超える状況でした。
 自殺問題はそのことに触れること自体がタブー視されてきた経緯があります。本当に死を覚悟した人にはなすすべはないとか,自殺は最後の人間の尊厳の発露であってなんびとも犯してはいけないとか,そもそも自殺を問題にすること自体が自殺を呼び起こしてしまうという「寝た子を起こすな論」もあります。
 自殺問題とよく対比されるのは「交通事故死」です。交通事故は年間一万人が被害に遭うということが続きました。今年度は一万人を割りそうなくらいに交通事故対策は進んできています。ガードレールを整備し,信号システムを整備し,シートベルトの着用の義務化を図り…。さらには,歩道橋を設置し,分離帯を設置しといった,いわば道路に関するハードの問題だけでなく,飲酒運転の罰則強化などにもいろいろと知恵を絞ってここまできました。そして,やっと交通事故の死者が一万人を割るところまできたのです。それに反して…というわけです。
 そう考えてみればこれまでこの社会が毎年たくさんの死者を出す事柄に対して真剣に取り組まれてこなかったことが不思議ではあります。
 さて,いのちの電話はオーストラリアのアラン・ウォーカー氏の提唱した「Life Line」をモデルとして1971年にわが国に導入されたものですが,イギリスのチャド・バラー氏による「サマリタンズ」も先の「Life Line」も,二つの機関とも牧師である両氏がボランティアによる自殺防止の活動として立ち上げたものです。この「Life Line」の日本語訳として「いのちの電話」と呼称されているのです。
 ところで,昨年には「自殺っていえなかった」(サンマーク出版)という自殺遺児たちが書いた手記が発売されましたが,子どもたちのこころの中では親の自殺に対して「自分に責任がある」「自殺を食い止められなかった後悔がある」ことなどが記されています。遺児たちに大きな心の問題が残されていることが知らされました。立教大学にも講師で来ていらした副田義也氏がこの本の巻末に資料を添付して一文を寄せておられます。
 一人の自殺者の周りには五人の関係者がいる。自殺未遂者の割合は自殺者の十倍に及ぶ,とすればこの自殺問題の背後には数十万人の心を痛めている人々の存在があるということでもあります。私自身が姉の自殺を人に話せるようになったのはあれから三十年もたってつい最近のことです。
自殺サバイバーとしての私にとってもこのことの心理的問題はこころの痛みを感じさせられる問題なのです。
 社会学ではデュルケームの「自殺論」は有名な著作ですが,この本を翻訳されているのが本学社会学科の宮島喬先生であることも不思議なご縁です。今まさに社会のアノミー状態とでも言うべき混沌の社会の中で,今年は今までより少しは真剣に「自殺」に関して取り組んでいこうと考えているところです。
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