立教大学社会福祉ニュース
第22号(WEB創刊号), 2002

【文献紹介】

武川正吾.1999.『社会政策のなかの現代』.東京大学出版会.

研究員 天田城介

 本書は,「あとがき」にあるように,本書第1章の論文の初出から17年を数え,「企画から完成まで足かけ10年」を費やして出版された,社会政策の視角から福祉国家を考究した力作である。筆者は戦前において大河内一男によって確立され,戦後は様々な批判に晒されながら皮肉にも支持・強化されてしまった,これまでの日本の社会政策学における「問題設定」を批判的に再検した上で,1970年代半ば以降の福祉国家の変容と現在直面する課題を析出した後に,何よりも解明すべき課題として,これまでの日本の社会政策学の「問題設定」がなぜ故に温存・再生産されてきたのかを大胆かつ慎重に論究する。全5章から構成される本書の理論的な意義と功績を敢えて幾つか言挙するならば,主として以下の4点であろう。
 第一に,これまでの日本の社会政策学における社会政策=労働政策という概念の前提化とその「問題設定」を根底から/徹底的ラディカルに批判しつつ,「社会政策とは労働力の商品化を促進・補完するためのものであり,労働力を脱商品化する」という視点を持ち得なかった理由を,社会政策学と脱商品化度の低い現実の日本の社会政策との親和性と,1970年代以降の企業社会化との共犯性を見事に描出している点である(第1章及び第5章)。ちなみに,他章では筆者自身によって脱商品化する社会政策という理論的地平から福祉国家の変容と課題が詳述されている。
 第二に,「福祉国家の危機」が叫ばれた80年代の福祉国家に生じていたのは福祉国家の解体ではなく,調整と再編であったことを明示した後,危機管理システムとしての福祉国家という分析枠組から①フランスで見られたネオ・ケインジアン,②スウェーデンで典型的に顕現したネオ・コーポラティズム,③イギリスで典型的に現出した新保守主義の3つの調整・再編があったことを指摘し,概ね成功を収めた後二者を比較検討している点である(第2章)。
 第三には,80年代のネオ・コーポラティズム的再編と新保守主義的再編という対立軸は,90年代に入ると欧州モデルと英米モデルへと変移しつつも存続していることが剔出された上で,今日の福祉国家がより深層の水準において直面している①成長問題と②フレキシビリティ問題の2つが「商品化-脱商品化」「家父長的-脱家父長的」という基軸から分析される。加えて,成長問題として高齢化と地球環境問題に直面する現在において「持続可能な発展」に対する福祉国家の困難性と,ポスト・フォーディズムと呼びうる現在において高度化する生産ならびに消費のフレキシビリティの要求に対する福祉国家の困難性が描写される(第3章)。
 最後に,現在の福祉国家が抱える問題とその将来について労働の未来との関係で考察が為されており,雇用形態の多様化や家事労働の縮小化やボランタリー労働の拡大化等の情況の中で,人間活動のポートフォリオとポスト・フォーディズムと福祉国家の関係がいかなる社会的現実を作り出してゆくのかが丁寧に解読されている点である(第4章)。
 本書は,現在の社会政策学の課題や地平の概観というだけでも大変示唆的であるのだが,加えて「労働力の脱商品化=社会政策」を基軸概念にしつつ70年代半ば以降の福祉国家の変容を体系的に分析したという意味でも全ての読者にとって必読の書になることは間違いない。
 とは言え,やはり幾つか大きな疑問点が残ることもまた事実である。例えば,「危機管理システムとしての福祉国家」概念,あるいは「社会統合」としての福祉を筆者は前提にするが,それまでの社会・制度において排除/忘却されていた他者が声をあげ,既存の規範・構造に対して意義申し立てが可能となるための〈福祉〉もあり得るのではないか? また,人間活動のポートフォリオの変化は「意味としての労働」を追求する倫理的主体の形成化ではないのか? 更には市場におけるポスト・フォーディズム的主体を福祉国家が補完・強化する機制があるのではないか,等々の疑問が湧いてこよう。しかし,こうした様々な問いは,本書によって我々読者全員に追究すべき課題として与された問いとして了解するべきであろう。
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