立教大学社会福祉ニュース
第22号(WEB創刊号), 2002

2002年1月26日 第10回 家族援助技術セミナー

解決志向アプローチの技法
―ブリーフセラピーの演習―

所員・原宿カウンセリングセンター臨床心理士
田中ひな子氏 講義

報告者: 研究員 外川春美

 去る,2002年1月26日の土曜日の午後,対人援助技術セミナーが催されました。今回は「ブリーフセラピーの演習」として田中ひな子先生による「解決志向アプローチの技法」について講習となりました。これは以前にも開かれたものの続編のようでしたが,私は田中先生の講習を受けるのは初めてでした。それが,先生のスタイルなのか,講習のはじまる前に,先生は受講者に今日この会場にどのような気持ちで臨んできたのかを聞いていました。そして,田中先生ご自身の今日の講習が終わってこうなっていたらいいな,という希望として「(受講者から)質問がでること等返事が欲しい。解決志向アプローチに関する本を買ってみようかと思えるようになること」という思いを抱いておられることを聞かせていただき,そして受講生それぞれにも「この後どんなことが起こると,来てよかったと思えるか?それぞれの職場なりに戻った時どんな変化があったらいいか?」について考えるように指示がありました。この時すでに「解決志向アプローチ」の技法の演習は始まっていたのでした。このような質問はこの技法にとって大変重要で,「セラピスト(以下Th)はインタヴューの専門家」であることを学ぶための第一歩だった気がします。
 この技法の従来との違いは,「原因探しをしない」ことにあり,「解決志向」に対し従来の方法は「問題志向」だと言われ,なるほどなと思いました。例えば摂食障害の問題を持つクライエント(以下Cl)が来談し,Thは問題の原因を親子関係にあると気付いたとします。このように問題を次々に探ること,原因を探すことが「問題志向」であり,それらの原因を解決しないと本当の解決にならないとするならば,それには限界があります。一方「解決志向」による方法では,問題点を挙げるのではなく,問題なく過ごせた時である「例外」を探していきます。なぜその時その問題が起こらずに済んだのか,どんな方法をもって解決できたのかを探していくのです。その時必要なのが,Clへの質問でした。この技法では,「Clは,Clの人生の専門家である。Thはインタヴューの専門家である。」として,Clのことについて何も知らない者が専門家の意見を聞かせていただく,という立場で面接を進めていき,そのためにThは質問の技法を学ぶ必要があることがわかりました。これには,確かに聞く方としても気が楽だ,と思えました。問題点を探るのは,Cl自身も言いにくいことを聞くことが多く,こちらとしても気が引けることも本音としてありますが,解決についての質問ならば先が見えてきますし,お互い明るい気持ちになり,聞く方も気が楽です。
 このような講義の後に二人一組になってロールプレイが行われました。質問する側,される側をお互いで交代で行いました。私の場合,このような会でいつも思うのですが,たまには質問される側になり,こちら側の緊張感や自己洞察をさせられる感じ,などを味わうのも必要だなと感じていました。質問の技法は,何を聞き出すことを目的としている質問なのかによって,様々なパターンと名称が決められていて,それも面白かったです。面接が解決に導くように構築されるために無駄のない有効な決め技,といった感じでした。もちろんそれらの技法を使いこなすには,理論の修得と体験の熟練が必要なのは言うまでもありませんが,今までにないこの方法に大変興味が湧きました。今回はそのいくつか有る中で,「スケーリング・クエスチョン」(問題の程度を10段階で答える)と「ミラクル・クエスチョン」についてのロールプレイをしましが,後者の質問を抜粋しますと,以下のようになります。「ここでちょっと変わった質問をしたいと思います。今日の面接が終わった後で,家に帰ってお休みになったと考えて下さい。あなたが眠っている間に,奇跡が起こって,今日,ご相談にこられた問題が解決したとします。でも,あなたは眠っていたので奇跡が起こったことはわからないわけです。明日の朝になって,夜中に奇跡が起こって相談にこられた問題が解決したことをあなたに教えてくれる,最初の小さな事柄はどんなことですか?どのような違いに気付きますか?」これによって,目的が具体的となり,それを聞いてこそ例外の起こる場面=解決の場面がはっきりしてくるようです。問題解決の目的が具体的でないとどこから手をつけていいのかわからない,ともいえます。この質問を受ける側になった時は,少し楽しい気分でした。朝目覚めて奇跡が起きているなど,こんな質問でもされなけられれば考えてもみないことですが,考える側に希望を与え明るい気持ちにさせてくれるものだと私は感じました。
 また,会の始めの「ここに来て良かったと思えるにはどんなことが起こる必要があるのか」という質問は「アウトカム・クエスチョン」という問題解決後の状態について尋ねる質問の類であったと思いました。
 例外探し,という視点に目の前がぱっと明るくなった気持ちと同時に面白さを感じ,フットワークの軽い田中先生の講習に,あっと言う間に満足のいく楽しく体験ができた半日でした。感想ばかりで会の報告になっているかどうか心配ですが,この辺で締めくくりたいと思います。
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