2003年7月28日 第7回 対人援助技術セミナー 受講報告

カウンセリングマインドの体験レッスンPartV
—からだの感覚に気づく—

講 師:本研究所所員・学校社会教育講座助教授
逸見 敏郎

報告者:大阪市立介護老人保健施設
おとしよりすこやかセンター南部花園館
支援相談員  水上 然

はじめに
 今回,大阪からこの研修に参加させていただいた。早朝の4時過ぎに起き始発の新幹線のぞみで,それでも,キャンパスに到着したのは9時30分を回っていた。赤レンガのキャンパスやパイプオルガンの聞こえる教会は非日常の世界であり,それだけで気持ちの昂ぶりを感じる。
 私の日常は,高齢者の施設(大阪市西成区)で相談員をしている。「生きることとしっかりと見つめあいたい」と好きで選んだ仕事だが,死をかけた手術の選択をせまられた家族の隣にいるとき,脳梗塞で救急車を待つ家族といるとき,末期がんを知らされず「なんでこんなにしんどいんやろ」と本人に見つめられる時,ネグレクト・虐待を告げられる時,自分の無力を痛感しながら,また,一方で援助職としての関わりが何かできるはずと自分を鼓舞している。
 今回の研修への参加も,何かを気づき,援助職としてより適切に対応できるように少しでもなっていければという思いからである。

研修の概要
 参加者は若い女性を中心に20名ほどで,うち男性は3名ほどだった。援助職の参加は7名ほどだったそうだ。最初に講師の逸見敏郎先生より,この研修の目的が話された。おおまかには,以下のようなことだったと思う。
近年,拒食症などの相談が増えており,それらは自己のボディイメージと内的な心の問題が密接に関わっている。「身体とこころの感覚に対する気づき」や「自己の身体に対するイメージ」などは対人援助の中で重要な要素となる。一日を通したワークの中で「自分自身の身体とこころの感覚」を少しでも感じ取り,今後の援助にいかして欲しいと話された。
 具体的なレッスンは,午前・午後にわたり実施され前半は室内で「表情コラージュ」「自己の分身~紙粘土~」を4〜5名のグループでおこない,後半は体を動かすことを中心に「トラストサークル/触れる/押す」「身体ほぐし/声かけ」キャンパスの中庭に出て「ブラインド・ウォーク/天国への道」をおこなった。午前・午後ともに充実し中味のあるレッスンだったが,後半の体を使ったレッスンが特に印象深かった。

レッスンの内容
〈表情コラージュ〉

 自己紹介を終え最初に取り組んだ課題が表情コラージュである。あいまいな表情が描かれた紙に,各個人が自由に色づけや切り貼りをおこない一つの作品を仕上げてく。クレヨンや色紙という素朴な素材が子供のころの感覚を呼び起こし,なんとも言えない楽しさがある。泣き顔を書く人,笑い顔を書く人,全く別のものを書く人と様々だったが,不思議とテーブルごとの特徴があり「立体性や色彩性の強く出たグループ(写楽顔負けの作品が出来ていた)」「素朴な楽しさの出ているグループ」「切り取りで形を表現したグループ」「顔以外のものが半数を占めるグループ」などがあった。完成後は,グループ内で作成中の心の動きや,表現したかったものなどを言葉で表し,お互いに感想を述べた。

〈自己の分身—紙粘土—〉
このレッスンでは,他者の領域に入る・自己の領域に他者が入る感覚の体験,互いに安心できる距離(位置)を共同作業で見つけていく体験などをおこなった。
作業としては,まず,紙粘土で自分の分身を創る。生き物でも,物でも自由である。次に,自己の分身が安心して過ごせる空間を画用紙の中にさがし出す。二人でペアを組み,ペアは無言で自分の分身を動かし互いの空間に入りながら,互いが納得できる場所,安心できる場所を探していく。
そこでは,自分の特徴がよくでる。自分から積極的に相手の領域に入っていくのか,入ってこられるのを待っているのか,近い距離を好むのか,遠い距離を望むのか。互いの位置がすぐに決まるペアもいれば,時間内にどちらも相手の領域に入れず距離を保ったままのペアもいた。

〈トラストサークル/触れる/押す〉
次に,ふれられる(ふれる)感覚の体験。前半の活動で知りあった方とペアを組み互いの体にふれる。最初は,指一本から,三本,五本,手のひら,心をこめてと,互いに言葉で感覚をフィードバックしながらふれていく。手のぬくもりを感じながらふれられることと指先だけでふれられることの違いを語る。ふれられる体験はさらに続く。7名ほどが輪をつくり中心に1人が入る。中の1人は力を抜き振り子のように右へ左へ前へ後ろへ倒れる。それを外で輪をつくっている人が支える。最初はぎこちなくゆっくりと次第にリズミカルになる。残念ながら中心を経験することは出来なかったが,体験者のフィードバックを聞くと「最初はしっかりと支えてくれるかと不安な気持ちになったが,支えられている安心感があり最後はここちよかった。」と言う。同じ行為でも不安が安心感へ,不快感が心地よさへとかわる心と体の不思議さである。

〈身体ほぐし/声がけ〉
今度は,体をほぐし声を出す体験。体は上手く力を抜くことが出来ないと,力を入れることも出来ないそうだ。横になりゆっくりと地面に吸い込まれるような感覚で力を抜いていく。「人は,革の袋。中には水分があるだけ。体の中の水分が揺らいでいるような感覚になってごらん。」と言う先生の言葉を聞き気ながら力を抜いていく。ペアの一人が力を抜くことを手助けする。手首,腕,肩をゆすられ体がこんにゃくになる。両腕を相手にゆだね大きくゆすられると体の中まで大きく揺れジェットコースターか宇宙遊泳をしているような気分でしばらくは船酔い気分が残る。体の力が抜けたところで,今度は力を入れる体験。まず,体の力の入るポイントを確認する。おへその少し下に丹田という体の中心がある。そこに力が入れば体全体に力が入る。丹田を意識しながら腹式呼吸をおこない大きく体に酸素を取り入れ声を出す。大きくしっかりとした声だ。声を出しながら自分の意識がはっきりとするのがわかった。
力が入れば,次は声がけの体験。これが結構,難しい。まず,参加者はすわった姿勢で壁をむく。その中から,一人が指名され参加者全員の背後に立つ。指名された人は全員の中から一人を選び,その人,ひとりに向け「こんにちは。」と声をかける。参加者は声がどこに飛んだのか聴き飛んだ方向を指差す。自分に声をかけられたと感じた人は,手をあげる。「思いを込め声を届けること」と「感性を研ぎ澄まし聴く」という体験である。
初回は,偶然にも午前中のグループワークのメンバーが指名され私たちの後ろに立った。
彼女とは今日が初対面であるが,実は後ろに立たれた瞬間に自分に声がかけられるのではないかと思った。実際,声がけがされた時,自分のところに声が来ているように感じたが「もし,私ではなかったら。」と不安な気持ちがよぎり3度目まで手を上げることができなかった。これも,今日一日の彼女と私の心の動きである。彼女と交代し,今度は,声をかけるという体験をした。日ごろから声は大きくよく通る方だと思っていたが,自分が思った場所まで声が届いていなかった。声を届けるには,自分の思っているよりもより大きなパワーが必要であった。もしかして,普段,声をかけているつもりでも実は相手に届いていない!?恐ろしいことだ。 

〈ブラインド・ウォーク/天国への道〉
 ブラインド・ウォークは,目隠し歩行のことで過去に体験された方も多い。私が過去に経験したブラインド・ウォークと今回の違いは会話も禁止されたことである。情報の7割を占めるという視覚の遮断の上に,コミュニケーションをとることが出来ない。不安な上に(本当は一人ではなく案内係りがいるのだが)孤独感を強く感じる。周囲の人間の声は雑音に聞こえ恐怖の対象にさえ思える。ゆっくり,案内係の足音に合わせ共に歩く。本当は交わしてはいけない会話だが,歩行中にほんの少し交わした会話の安心感,声を聴くと「ああ,そこにいるんだ。」と確信できた。それも過ぎ,だんだん歩行に慣れてくると一瞬ではあるが足を動かす感覚以外,何も感じなくなった。別の空間にいるような錯覚すら感じる。目を開けると目的地についており,あっけにとられてしまった。
 引き続き,天国への道。なんとも恐ろしいタイトルであるが,これを経験しておけば亡くなったとき「必ず担ぎあげてもらえる」というお墨付きがもらえるそうである。7名ほどで一人の人間を腕をあげた高さまで持ち上げる。肩の高さではかなりの重さを感じるが上げきってしまえば,軽くなり女性の力でも短距離であれば運ぶことができる。担ぎ上げられると低い高さでは不安を感じるが,上まであげられてしまうと多くの人間の手で支えられる不思議な心地よさに変わる。落ち着いた赤レンガ造りのキャンパスの中庭で人々の手で支えられ緑のトンネルをくぐる気持ちは,まさに「天国への道」であった。

おわりに
 今日一日,体を使い本当に楽しく過ごせた。体の力を抜き大声で笑うことで,私自身の緊張が少しほぐれ体がやわらかくなった。よい経験が出来た。いつも,つい肩の力をはって相談を受けてしまう。共感,共感と思いながら,「張り詰めた緊張」を「張り詰めた緊張」で受けてしまっているように思う。肩の力を抜き「ふっと」深呼吸できること,思いつめている相談者の心の緊張をほんの少し解きほぐすこと,今日の研修でそんなことを学んだように思う。
 高齢者のボディイメージなんて難しいことも少し考え,課題としては出てきているが,それはしばらくよそへ置いておく。その代わり,宇宙遊泳をしたあの感覚,他者に支えられ宙に浮き体の力が抜けた感覚,なんとも言えない安心感,癒す,癒される感性を身につけていきたいと思っている。
 まとまりは悪いが,以上を研修のまとめとさせていただく。貴重な体験を感謝する。
 

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