立教大学社会福祉ニュース
第30号, 2009

2009年度 活動レポート 第一回研究例会報告

ノーマライゼーション原理誕生史と脱ノーマライゼーション――スウェーデンからの風
報告者:河東田 博(所員・コミュニティ福祉学部教授)、活動報告:深田 耕一郎(研究員・社会学研究科)

 去る7月28日、スウェーデンでの滞在研究を終えられた所員の河東田氏が1年間のご研究の成果を報告くださった。本報告は福祉国家・スウェーデンの“過去・現在・未来”を知ることのできるたいへん中身の濃いものだった。以下、報告のエッセンスをお伝えしたい。
その1つは、ノーマライゼーションの原点を明らかにされたことだ。一般的に受け入れられているノーマライゼーション原理は「いわゆるノーマルな人にすることを目的としているのではなく、その障害を共に受容することであり、彼らにノーマルな生活条件を提供すること」(バンク-ミケルセン)という1976年の定義だろう。しかし、近年の調査によって、1946年のスウェーデン社会庁の報告書にすでにこの原理が明示されていたことがわかった。この原理は当時の政策にすぐさま結びつくことはなかったが、その後、確実にスウェーデンの福祉をかたちづくる源流となっていく。1969年にはベンクト・ニィリエによってノーマライゼーション原理は確立・普及されることになる。
2つに、現在のスウェーデンの福祉においては「“ノーマライゼーション”から“脱ノーマライゼーション”へ」という動きが起こっていることを話された。1990年代以降、「参画・平等・自己決定」が新しい概念として登場しているという。この転換の背景には、ノーマライゼーション概念が(1)「人々をノーマルにすること」と誤って理解されることが多く、(2)知的しょうがい者に限った概念と考えられてきた経緯があり、(3)専門家が概念化したもので当事者が成文化したものではないことがその理由にあった。当事者の声の高まりによって、社会に“適応的な”原理から、個々人が違うことを尊重しあい“共生”をめざす考え方へと変化していったのである。2008年には性差・民族・信仰・障害・年齢などに対するあらゆる差別の禁止をうたった「新差別禁止法」が制定され、スウェーデンの福祉はさらなる深まりを見せている。
フロアからは質問が相次ぎ活発な議論がかわされた。なかでも興味深かったのは、ノーマライゼーション原理の現代的理解として、個々人が他者とあわせながら(=同化)ありのままでいられる(=異化)調和のとれた社会を実現すること、というモデルを示されたことだ。それから、スウェーデンでは社会保障制度が整っているため、そもそも「自立」の概念が必要とされないという。たとえば、知的なハンディをもった人でも、年金が充実しているので経済的な「自立」が求められることはない。公的制度による生活の保障がまずあって、その先に生き方の選択ができるということだった。また、ノーマライゼーション概念がスウェーデンで使われなくなっているといっても、「日本ではまだ20年は必要な概念」と明言されていた。
ご紹介くださった氏撮影の写真のなかにはスウェーデンの四季折々とともに、乳幼児のバギーを押す男性の姿が多く、印象深かった。今後もこの社会の実践から目が離せない。