キリスト教学校の形態・特徴と平和教育との関連

-2003年中等教育段階質問紙調査の分析(1)- 

I.はじめに

 本稿は、立教大学キリスト教教育研究所が2003年に行った質問紙調査の回答をもとに、日本のキリスト教学校における平和教育実践の趨勢を明らかにしようとするものである。調査は、全国のキリスト教中学校・高校を対象に郵送により行った。1)

 ここでいう「平和教育」とは、「反戦・非戦」といった狭義の意味に限らず、「開発」「いのち」「環境」まで含む広い領域を想定している。昨今、様々な内外の紛争や社会的事件・現象などから、こうした教育の重要性が再認識されてきた。特に宗教に期待される役割は小さくないが、管見の限りでは、平和教育への宗教の貢献についての研究はこれまでほとんど行われてこなかった。そこで研究所では、日本の宗教系学校の大きな部分を占めるキリスト教学校を対象に、平和教育の実施状況を調査する研究プロジェクトを2002年度から進めてきた。

 従来の平和教育研究は、個別の実践を事例として取り上げ、それに基づいて授業方法や教材を提言するものが多く、学校現場へ有益な示唆や刺激を与える一方、マクロな視点から全国の趨勢を示すものは少なかったように思われる。このためプロジェクトでは、キリスト教学校で平和教育が現在どの程度行われているか、または行われていないのか、実践にどのような特徴や傾向がみられるのかを明らかにすることを目指している。

 その一環として、質問紙調査の回答を集計した結果の一部を示し、若干の考察を加えることにする。質問項目は多岐に渡り、様々な角度から集計や分析が可能であるが、本稿では、学校の形態や特徴と、平和教育の実践との間にどのような関連があるかをみていきたい。

 

II.集計の結果

 質問紙調査では、学校活動を8つのカテゴリーに分け、そのなかで平和教育を行っているか、ないし平和教育と関連する内容があるかを尋ねた。回答した全92校の集計結果が図1である。2つ目の質問は通常の科目の他に平和教育を主な目的とした科目を設けているか否か、4つ目は修学旅行以外の校外学習で平和教育を目的としたものの有無、8つ目は保護者を対象とした平和教育活動の有無を尋ねた。
 

 予想通り、肯定の回答が最も多いのが修学旅行で、全体の7割にのぼる。礼拝、通常の科目、講演会が続き、半数前後となっている。一方、平和教育のための科目を設ける学校は4割に届かず、修学旅行以外の校外学習を行うのも3割程度、保護者を対象に何らかの活動を行うのも2割未満だった。

 質問紙ではこの他に、学校の形態や特徴について、中学のみ・高校のみ・中高一貫の別、男子校・女子校・共学の別、生徒数、教員に占めるキリスト教信者の割合、所在地(都道府県)をたずねた。また学校名を記してもらったので、カトリック系・プロテスタント系の別も知ることができる。これらの形態や特徴ごとでも集計を行い、全体の集計(図1)と比べて目立った傾向がないか、順にみていくことにする。

 なお、質問紙を送付した学校のなかでも、回答した学校の方がより熱心に平和教育に取り組んでいる場合が多いと予想されることから、図1をはじめここでの集計結果には一定のバイアスがかかっていると考えられ、数値をそのまま鵜呑みにすることはできない。しかし高等学校と一貫校との差など、相対的な比較を行う限りは、こうしたバイアスの問題はないと考えられる。ただし回答校数の少なさによる誤差は、つねに考慮しなければならない。

1.高等学校・一貫校の傾向

 92校のうち、高校が26校、中高一貫校が62校であるのに対し、中学校は4校と少なかった。2)キリスト教学校に限らず、私立学校全体の傾向を反映した結果といえよう。ここでは回答校数の少ない中学校は除外し、高校と一貫校の集計を行った。それぞれの結果が図2と図3である。

 平和教育のため通常外の科目を設けているのは、高校が、図1と比べて10%以上多い。学校制度上、高校の方が選択科目を開設しやすいためとみられる。中高一貫校の場合も高校の部分では同様なはずであるが、こちらには、いわゆる「進学校」が多く、カリキュラム編成で大学受験準備が優先されているのかもしれない。

 礼拝のなかで平和教育を行っているのも、高校が約20%多い。想像するに、中学と高校とでは礼拝のテーマに違いがあり、中学の方が身近な家族や友人関係が選ばれやすいのに対して、高校の方がより広い視野に根ざした社会的なテーマが設定されやすく、平和教育につながりやすいのではないだろうか。

 ただし回答した高校の総数は26校と必ずしも多くなく、図2にはある程度の誤差が想定されるため、これらの傾向が完全に確認できたとは言いがたい。引き続き調査を重ねるか、別な方法による検証が求められる。なお一貫校では、8つの学校活動カテゴリーのいずれも、図1との差が10%を超えることはなかった。回答全体の3分の2を占めることから、予想通りの結果といえる。3)

 

2.男子校・女子校・共学校の傾向

 最も多いのが女子校の52校であり、共学は28校、男子校は13校であった。現在のキリスト教学校の傾向を反映した結果といえよう。図4~6が、それぞれの集計結果である。

 

 男子校は全般的に平和教育に消極的なようにみえる。修学旅行、礼拝、講演会、生徒活動では図1と10%以上の差がある。男子校に「進学校」が多いことが関係しているのかもしれないが、やはり回答校数が少ないため、これらの傾向を完全に確認するためには、さらに調査が必要である。

 回答全体の過半数を占める女子校の傾向は、図1と大きな乖離がない。共学校もほぼ同じだが、礼拝のなかで平和教育を行うと回答した学校の割合だけ、全体より10%以上多く、したがって女子校よりも10%以上多い。なぜ礼拝にだけ差がみられるのだろうか。女子校の場合、礼拝に携わる聖職者(カトリック校のシスターなど)が、ときとして平和教育をはじめとする社会的な取り組みに消極的であることが関係しているのかもしれない。

 

3.小規模校の傾向

 学校規模、すなわち生徒数の大小によって何らかの違いがみられないか調べるため、生徒数の少ない学校に絞った集計を行ってみた。高校のみの場合と中高一貫校とでは、目安とする生徒数が異なるため、高校と一貫校とで別個に集計した。1学年1学級程度となることを目安としつつ、校数が少なすぎないように線引きをして、高校では生徒数100人未満の4校、一貫校では300人以下の4校を対象とした。集計結果がそれぞれ図7、8である。

 この校数では他の集計結果と同様な精度を期待することはできないが、高校では顕著な傾向がみられた。生徒の自主的な活動以外はすべて図1を上回り、通常科目、校外学習、礼拝、講演会では10%以上の差となった。礼拝と講演会では全4校が平和教育を行うと回答している。経営上のリスクをともなう少人数教育を選択している学校は、教育理念にとりわけ自覚的であると考えられ、平和教育への取り組みにもそれが現れているのではないかと思われる。一方、一貫校では同様な傾向をみることができず、逆に通常科目や、通常外科目、校外学習、生徒活動、保護者を対象とした活動では図1より10%以上少ない。校数が少ないため誤差も大きいと考えられるが、高校の場合のような傾向がみられないことは確かである。4)これらの一貫校には、少人数教育を方針とする学校だけでなく、いわゆる「定員割れ」の学校も含まれているのではないかと考えられる。学校経営が安定していないと、平和教育への取り組みは難しいのかもしれない。

.都市部の学校の傾向

 都市部に立地する学校と地方の学校とで、なんらかの違いがみられないかも調べようと試みた。「都市部」と「地方」を厳密に区別するのは難しいが、ここでは、立地する都道府県をもとにした。東京都、大阪府および福岡県に立地する16校について集計した図9

をみると、修学旅行では図1より10%少ない一方、保護者を対象とした活動では10%以上多い。経営上競合する私立学校の多い都市部では、差別化が求められるなか、修学旅行先に「定番」の広島などが選ばれなくなってきているのだろうか。もちろん、平和教育の可能な修学旅行先は、他にもあるのだろうが。また都市部の学校では、平和教育に限らず、保護者を対象とした活動が盛んなのかもしれない。5)

5.地域による傾向

 回答校が比較的多かった関東地方の26校と近畿地方の17校について集計したのが図1011である。関東では、通常科目で図1より多い他は、特に目立った傾向ない。一方近畿

では、通常科目、校外学習、生徒活動、保護者で図1より10%以上多い。また中国地方は5校と少ないが、広島を擁する地域という関心から、集計してみたところ、校外学習、講演会、生徒活動が10%以上大きかった。(図12)特に校外学習は、近畿・中国地方とも25%以上大きい。
これらの地域では、平和教育を実地に学ぶ機会に恵まれており、また学校の取り組む姿勢の面でも抜きんでているものと思われる。

6.プロテスタント系・カトリック系の傾向

 質問紙に記された学校名をもとに、プロテスタント系・カトリック系の区分を行った。両者の定義についての見解は一様でないが、ここでは、カトリック中央協議会発行の『カトリック教会情報ハンドブック』に載っている学校を「カトリック系」とし、それ以外は全て「プロテスタント系」とした。内訳はプロテスタント系49校、カトリック系42校となった。集計結果はそれぞれ図1314である。6)

 図1と10%以上の差がみられたのは、礼拝のなかで平和教育を行う学校の割合で、プロテスタント系では多く、カトリック系で少なく、両宗派の差は20%以上あった。平和教育に限らず、プロテスタント系学校で礼拝がより重視される傾向のあることが、要因の一つと思われる。

 

7.信者教員の多い学校の傾向

 質問紙では教員中の信者の割合をたずね、パーセントで記入してもらった。「不明」という回答も少なくなく、記入された数値にも誤差を含むものが少なくないとみられるが、そのなかでも高い数値を記した学校は、比較的信頼できるのではないかと思われる。90%以上の数字を記した学校は4校であった。これを集計したのが図15である。

 

小規模校の場合と同様、精度の点で問題はあるが、顕著な傾向がいくつかみられる。通常以外の科目と保護者を除くすべてで図1を上回り、校外学習と礼拝では40%以上であった。また修学旅行と礼拝では全4校が平和教育を行っている。小規模校の場合と同様、信者の教員を多く採用することは、固有の教育理念に自覚的であることの現れと考えられ、そうした学校の方が、平和教育にもより積極的に取り組むものとみられる。ただしこうした特徴がみられるのは、ほぼ全教員が信者の場合だけであった。この4校を含め、信者教員の割合が20%以上の学校は50校であったが、その集計結果には目立った傾向はなく、図1とほぼ同様であった。

III おわりに

 今回の集計作業のなかででみられた主要な傾向を、以下に整理しておく。

1)高校のみの学校では、通常の科目以外に平和教育のための科目を設けるという回答が多く、また礼拝の中で平和教育を行うという回答も多かった。

2)男子校では、平和教育を行うという回答が少なかった。

3)生徒数100人未満の小規模な高校では、平和教育を行うという回答が多かった。

4)都市部では、修学旅行のなかで平和教育を行うという回答が少なかった。

5)近畿地方と中国地方では、校外学習などで平和教育を行うという回答が多かった。

6)プロテスタント系の方がカトリック系よりも、礼拝のなかで平和教育を行うという回答が多かった。

7)教員の90%以上がキリスト教信者の学校では、平和教育を行うという回答が多かった。

本稿で取り上げた学校の形態・特徴だけに限って比較してみても、平和教育の実践はキリスト教学校のなかで一様でない。全般的な姿勢の差があるだけでなく、「得意」な領域や「手薄」な領域が学校形態ごとにあるようにみえる。こうした傾向をふまえることで、キリスト教学校の平和教育のためにより実効性のある提言が可能となるのではないかと思われる。

 ただし、すでに述べたように、回答校数や該当する件数が限られるため、これらの傾向が完全に確認できたとは言いがたい。さらに調査を重ねるか、別な方法での検証が求められる。

 質問紙調査ではこの他に、平和教育の領域やキリスト教教育との関連、平和教育との関連づけの度合いなどもたずねており、それらの回答ともクロスさせた集計を行えば、よりきめ細かく傾向を調べることができるかもしれない。今後の課題としたい。こうした調査・研究を蓄積し分析を進めることで、キリスト教学校における平和教育の特徴や課題が明らかになるのではないかと期待される。

 なお、データの集計結果についての本稿での考察は、論者の知識不足や視点の制約から、十分なものということはできない。背景の解釈や要因分析のなかには、偏りや不備も少なくないと思われる。今後さらに、異なる視点から考察・分析が加えられることが望まれる。関係する研究者・教育者からの助言・批判を待ちたい。

 


1)調査の実施概要や質問項目は、拙稿「キリスト教学校における平和教育の実態」『キリスト教教育研究』第21号、立教大学キリスト教教育研究所、2004年3月を参照。

2)学校段階についての質問に無回答の学校が1校あった。こうした場合、学校名をもとに調べて回答を補うことも可能であるが、今回の集計ではそうした補正は行わず、すべて回答の通り、選択肢ごとに丸のつけられた校数を合計した。本稿の他の集計でも全て同様な方針をとり、無回答や重複回答があってもそのままにした。このため質問項目によっては、全体の合計が92校より少ない場合も多い場合もある。

3)「中高一貫校」の形態は一様でない。管理職が中高で異なる場合も兼務の場合も考えられる。また教員も、授業担当や学級担任が中学か高校の一方のみに限られる学校もあれば、両方にまたがる学校もある。管理職や教員の線引きが明白な学校ほど、中学と高校とで教育方針が異なる可能性が高いが、今回の調査ではこうした点を汲み取ることはできない。

4)生徒数600人以下の高校17校で集計しても、修学旅行と保護者向けの活動以外は図1より低く、通常科目と礼拝では10%以上の差があった。

5)これに神奈川県を加えた27校では、どちらの傾向も縮小するが、それでも修学旅行は10%以上少ない。

6)学校名の記入がない回答が1校あり、ここでの集計から除外せざるを得なかった。

付記:本稿は、2002年度立教大学総合研究センター・プロジェクト研究「キリスト教教育における平和教育の研究」の成果の一部である。

 


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