第32回 社会福祉のフロンティア
「品格ある(ディーセント)社会に向けた新しいセーフティネットを構想する
- 『参加と連帯のセーフティネット』を語る」
田中聡一郎(立教大学経済学部助教・社会福祉研究所所員)
立教大学社会福祉研究所の第32回の社会福祉のフロンティアが、同志社大学社会福祉教育・研究支援センター後援を受けて、2010年12月17日に開催された。今回の開催報告では、そのシンポジウムの様子をお伝えするとともに、シンポジウムの聴衆のひとりである倉地さんに感想を寄せていただいたので紹介したいと思う。
○ 埋橋孝文 氏 (同志社大学社会学部教授)
「新たなセーフティネットの構築に向けて」
○ 菅沼 隆 所長(立教大学経済学部教授、社会福祉研究所所長)
「参加保障型社会保険の提案」
○ 山田篤裕 氏 (慶應義塾大学経済学部准教授)
「最低所得保障をめぐる課題-国際比較から「4層」のバランスを考える」
今回のシンポジウムの趣旨は、連合総研・埋橋孝文編(2010)『参加と連帯のセーフティネット』ミネルヴァ書房の新しい社会保障の総合的な構想・提言を議論するというものである。第1報告として、連合総研研究会の主査であった埋橋孝文氏から「四層構造のセーフティネット」という新しい社会保障体系についての報告があった。第2報告では、委員であった菅沼隆所長から、その提言の支柱をなす「参加保障型社会保険」についての具体的な提案がなされた。そして第3報告では、社会保障制度の実証分析と国際比較研究の第一人者である山田篤裕氏からは提言の意義と今後の論点について、コメントがなされた。
同書ではディーセントワーク(品格ある労働)の実現を基軸に、最低賃金、雇用政策、社会保険、給付付き税額控除、就労支援手当、住宅補助制度、地域セーフティネット、生活保護改革など具体的に提案しており、各報告後の報告者間の討論において、具体的な検証がなされた。特に、社会保険の適用拡大と社会手当の導入後の生活保護制度のあり方や、地方分権との関連、子ども手当をどのように考えるのか、さらにはこうした社会保障拡充に対する財源確保策(特に、保険料増大)に対する国民の意識等、活発な議論がなされた。
聴衆のアンケートを見ても、報告のレベルが高く、また討議においても活発な議論を呼んだことを評価していただけたようである。今後も、社会福祉のフロンティアでは、社会福祉に関する新たな課題を積極的に取り上げていきたい。
シンポジウムを終えて
倉地真太郎(慶應義塾大学経済学部4年)
2010年12月17日、立教大学にてシンポジウム「品格ある(ディーセント)社会に向けた新しいセーフティネットを構想する-『参加と連帯のセーフティネット』を語る」が開催されました。本シンポジウムの特徴は、昨今多くの課題を抱える日本の社会保障制度の現状を踏まえて、従来の個別的な社会保障の議論を超え、より体系的なセーフティネットとして具体的に提言を行う点にあります。様々な社会保障制度を総合的に捉えようとする試みは、社会保障論の本来の在り方であると実感をしたと共に、初学者である私にとって、今後の研究の礎となる貴重な機会を頂けたと考えております。以下では当日の討議を振り返って、勝手ではありますが、いくつか論点を私なりに整理させて頂きたいと思います。
当日のシンポジウムでは先生方のご報告を受けて、その後の討議では充実した議論が行われていましたが、それと同時に体系的な社会保障制度の在り方を考える上で、新たな課題が浮かび上がってきました。
第一に政策提言に伴う財源調達をどれだけの規模で、どこから財源を確保するかという問題は、昨今の日本の政治的状況も加味しなければならず、悩ましい点でもあります。もちろん提言された政策は社会保険を社会保障制度の支柱とすることで、保険料が税と比較して反対給付の性格を持つため、負担の増加に関して国民の理解が得られやすいという一定の配慮がなされています。しかし保険料引き上げにせよ増税にせよ国民の負担増は存在することから、一定の国民の反発は避けられないでしょう。
新たな社会保険制度の構築に向けて如何にして国民の理解を得るかという点は、第二の課題である社会保険制度における国民の「価値観」に密接に関連します。リーマン・ショック以降、派遣村を画期として労働者及び失業者の貧困問題が脚光を浴びるようになりました。しかし今なお、国民の中には「働かざるものは食うべからず」という価値観が根強く、様々な課題が山積している政治的状況を勘案すれば貧困問題の解決は国民のコンセンサスとは成り得ていない現状にあります。「価値観」の問題は政策デザインの枠外の話のように見えますが、政策提言が貧困問題の克服を前提にしている以上、今後も立ち向かうべき課題です。
以上のように財源問題と「価値観」の問題は、当日の討議でも中心となった論点でありましたが、これらは社会保障制度をトータルに捉えることで初めて現実的な問題として認識できたのではないでしょうか。その意味で、本シンポジウムは今後の社会保障論を議論する上で道標になったのではないかと、恐縮ながら述べさせていただきたいと思います。最後に、私のような若年者を本シンポジウムに参加させて頂き、さらにはこのような発言の機会を頂いたことを、この場を借りて心より感謝の意を申し上げます。
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