Home > 研究成果 > フィールド報告> 高原明生  「中国における都市コミュニティの形成―党・政府、市場、コミュニティの三位一体」

「中国における都市コミュニティの形成―党・政府、市場、コミュニティの三位一体

高原明生

 中国の都市では現在、「社区建設」が進行中だ。社区とはコミュニティの訳語で、その構成員が利益やアイデンティティを共有する地域社会を意味している。現 在の中国では、国有企業の資産売却と人員整理が進められ、その所有、経営していた学校や病院などが企業から切り離された結果、都市住民は職場であり多くの 場合生活の場でもあった「単位」との紐帯を失いつつある。中国人自身の表現によれば、計画経済体制下の「単位人」が次第に市場経済体制下の「社会人」に転 化しつつあるのだ。そこで単位に代わって社会サービスを提供し、管理を行なう主体として近年注目を集めているのが社区にほかならない。

 もともと中国の都市には、行政の末端に連なる住民の「自治組織」として、居民委員会なる組織が存在した。多くの都市において、居民委員会を合併させ、新 たに社区居民委員会を組織する方式で社区は形成された。そして基層自治を強化するという建前のもと、社区居民委員会のメンバーは民主的な選挙で選出される こととなった。しかし実際のところ、多くの都市で自治は名ばかりであり、相変わらず党の強いリーダーシップのもとに住民へのサービスの提供と住民管理が行 われているように見受けられる。

 そこで、今次出張では、都市社会の新しい状況下において、社区にせよ党にせよ、民意の集約と調整という役割を果たしえているのか否かについて検証するこ ととした。90年代末に始まった社区建設の実験は、その多くが沿海の都市で実施されたが、経済状況の悪い都市ほど市政府からの投入が不足し、社区の自治と 自助努力を強調する傾向が強かった。そこで、今回の現地調査は内陸都市で行なうこととし、中国人民大学の夏建中教授とサセックス大学のボブ・ベネウィック 教授の助力を得て、8月下旬の一週間、福建省龍岩市と河南省鄭州市を訪れた。

 その結果わかったことには、やはり訪れた社区のほとんどが資金不足に悩まされており、満足のいくサービス提供や住民管理が出来ていない。かつ、自治を強調 するどころの話ではなく、党と社区が一体になってなんとか任務を果たそうと努力するものの、党員を動員するのもままならない状況だった。しかし、現場の幹 部やソーシャルワーカーたちが、社会的弱者のため薄給で献身的に働いている姿は感動的であった。

 また、意外だったのは、少数ながら地方には逆に富裕な社区もあるという事実だった。つまり、都市化の進行により、農村の村民委員会が都市の社区居民委員 会に再編されることが増えている。そのような新しい社区居民委員会の中には、農村時代の資産(主には土地の使用権)を受け継ぎ、それを運営することで大儲 けしたところがある(写真参照)。そこでは、党と社区と(その運営する)会社が渾然一体となっている。これが中国式コミュニティなのだろうか。どこかで見 慣れた光景だと思ったら、市場経済体制下の「単位人」が生まれたのだとも言えそうだった。