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「タイにおける日本のNGO活動―平和・コミュニティ研究機構[SFR]海外調査報告」

五十嵐暁郎

   今回の研究調査は、3年前にアジア研究・学術フロンティアが主催したシンポジウム「グローバリゼーションと都市コミュニティ」において報告した「NGOの ベースとしての東京の都市コミュニティ」を基礎にして、NGO活動のネットワークとタイにおけるその活動現地のローカル・コミュニティとの関係を中心に、 その後の展開を調査、分析しようとしたものである。

  前回の調査では、JVC(Japan Volunteer Center)がバンコクの近郊のノンジョク自然農園において行なっていた有機栽培農業の普及活動を、ベースである東京の都市コミュニティと農園での活動 との関係を中心に調査した。今回は、JVCがタイ東北部(イサーン)の農村における流通改革に取り組んでいる様子を調査した。

 1960年代以来、タイの農村は市場経済やグローバリゼーションによる影響を強く受け、政府や企業、IMF、アジア開発銀行(ADB)が推進する輸出志向 型、資源収奪型の農業(麻、キャッサバ、サトウキビなどの栽培)に転換した結果、農家はトラクターなどの耐久消費財購入などのために借金が増え、深刻な経 済破綻に瀕している。

 JVCは現在、次のテーマを課題にしている。

  1. ODA改革(日本政府によるODAの問題点を指摘し、政府機関や市民に対して提言を行なう)
  2. 平和構築におけるNGOの役割と責任(市民、NGOの立場から、武力に頼らず、予防的観点から、かつ現地に固有の紛争予防の仕組みを強化するという観点から、国際社会における平和構築概念にもう一つの可能性を提示する)
  3. 農村金融と地域循環型経済の見なおし(グローバリゼーションの影響による農村経済の破壊を調査し提言する)

 村人が安定した生活を取り戻すためには、安定した売り手を確保しなければならない。JVCは、問題がマーケティングにあると考えた。具体的には農民たちが 自分たちの村で朝市を立ち上げ、自分たちが作った作物(野菜、果物など)や惣菜、加工品を村人相手に販売するのを奨励、支援し始めた(2000年)。その 結果、朝市での収入も少なからずあり、金や資源が地域内で循環し始めた。また、売り手が見えるために農薬を使わなくなり、有機・複合経営農業に熱心になっ た。

 朝市は朝市委員会によって運営されている。女性の参加が多いので、できるだけ多くの女性を委員にしようとしているが、まだ適任者が十分にはいないとのこと だった。朝市の活動によって、村に連帯感が生まれているという。朝市は地域的に広がり、遠方から見学に来た人たちがモデルにして自分たちの村でも立ち上げ るようになっている。

 これまでは村に外部からの製品が持ち込まれたために、村にあった朝市が消滅した村もあり、そのために朝市が持っていた意味が見失われていた。ある村では日 本政府による「宮沢基金」によって屋根つきの朝市のサイトが建設され、外部からの製品が大量に持ち込まれたために、村にあった朝市が消滅した。その教訓か ら、朝市では外部の業者の販売を原則的に禁止している。タクシン政権によるばら撒き型の補助金も継続性に乏しく、取り合いのためにかえって村の人間関係を 損なっている。タクシン政権は、竹下内閣の「ふるさと創生」や大分県などの「一村一品運動」をモデルにしているが、日本の例と同様に成功していない。日本 の政策もとんだところで影響しているものだと驚かされた。

 朝市プロジェクトのモデルとなったのは、日本の農村運動(大野和興、西沢留美子氏らや、山形県長井市の「レインボープラン」)だった。大野氏らのアジア農 村交流センター(AFEC)はタイの農業運動のリーダーを日本の農村へ招待し、現場を経験してもらっている。日本の生活クラブ生協(千葉の「アーシアン」 など)、NPO(WE21)がしばしば来訪し、交流が行なわれている。タイの他の地域(フィリピンなど)や東南アジアのグループ(イサーンオルタナティブ 農業ネットワークなど)との交流もあり、JVCなどの援助によってネットワークは東南アジアに広がっている。

 プロジェクトの次の段階は村と町を結び、マーケットを拡大することである(「むらとまちを結ぶ市場」)。私が早朝に訪れたポン町では、ポン郡の郡長がこの 運動に関心を持ち、郡役所の敷地内の一角を、この市場のために開放してくれたとのことだった。80人くらいの農民が自分たちで作った作物、惣菜などを販売 していた。有機栽培の作物だけを売っている農民は規則によってグリーンのポロシャツを着ることが許されている。委員が出店している農民に話しかけながら会 費を集めていた。

 この試みは、日本のNGO活動がグローバリゼーションによって経済的に破綻した現地のコミュニティに注目し、朝市を通じてその再興を図ろうとしているもの だと考えられる。さらに、個々のコミュニティにとどまらず、複数の同様なコミュニティのネットワークがタイ国内に広がり、国境を越えて東南アジアに広がっ ていることに、グローバリゼーションに対する対抗運動の広がりとして興味深いものがあると思った。