2017/06/28 (WED)プレスリリース

原子核を見る新型電子顕微鏡の完成
-不安定核の陽子分布測定という新世界の扉を開けた-

キーワード:研究活動

OBJECTIVE.

立教大学理学部物理学科の栗田和好教授が参加している共同研究グループは、不安定原子核を見るための新しい電子散乱実験装置(新型電子顕微鏡)を完成させ、同位体分離器から取り出された微量のキセノン-132(132Xe:陽子数54、中性子数78)原子核の電子散乱実験を行い、陽子分布を決めることに成功しました。
共同研究グループには、栗田教授のほか、栗田研究室の大学院学生4人と、2016年度まで本学助教を努めていた榎園昭智さん(理化学研究所協力研究員)や、2014年度まで栗田研究室に所属していた戸ケ崎衛さん(現:先端科学計測研究センター研究員)が参加しています。

理化学研究所(理研)仁科加速器研究センターRI電子散乱実験装置開発チームの若杉昌徳チームリーダー、東北大学電子光理学研究センターの須田利美教授、立教大学理学部物理学科の栗田和好教授らの共同研究グループは、不安定原子核を見るための新しい電子散乱実験装置(新型電子顕微鏡)を完成させ、同位体分離器から取り出された微量のキセノン-132(132Xe:陽子数54、中性子数78)原子核の電子散乱実験を行い、陽子分布を決めることに成功しました。

フェムトメートル(fm、1fmは1兆分の1mm)サイズという小さな原子核のありのままの真の姿を“見る”手段は、高エネルギー電子散乱という方法しかありません。電子散乱は、高エネルギー電子ビームを原子核に衝突させ、飛び散る電子を丹念に調べるという方法です。従来の電子散乱実験では、標的となる元素の薄膜を作り、それに電子ビームを照射します。この方法では、標的原子核の数が最低でも1020個必要です。人工的に作り出す不安定核では、実験室で大量に作ることは現在でも不可能で、たとえ作ったとしても寿命が短くすぐに壊変してしまいます。したがって、安定核では容易だったはずの電子散乱実験は、不安定核では全く不可能でした。

その問題を解決するために、共同研究グループは世界に先駆けてスクリット法(SCRIT法:Self-Confining RI Ion Target)という新しい手法を開発しました注)。SCRIT法は、標的イオンを細い電子ビームの通り道にトラップして集中させることで、自動的に電子散乱現象を引き起こさせる方法です。この仕組みを電子蓄積リングの中に作り込むことによって、わずか108個(1億個)の標的核数で電子散乱実験を可能にします。共同研究グループは、このSCRIT装置を装備した不安定核電子散乱実験施設を理研の仁科加速器研究センターに、2009年から約6年をかけて完成させました。今回この施設を使って、同位体分離器ERIS[4]から取り出されてきた約108個の132Xe原子核をSCRIT装置に流し込むことによって、132Xe原子核から散乱される電子を観測し、散乱の角度分布から132Xe原子核の陽子分布を決めることに成功しました。132Xeは安定核ですが、実験は不安定同位体の実験と全く同じ仕様で行われたので、ERISによる本格的な不安定核生成の開始により不安定核陽子分布測定が可能になります。

本研究により、不安定核の電子散乱研究という新しい研究領域の扉が開かれました。今後、不安定な原子核の陽子分布の測定が進み、本施設が原子核構造を包括的に理解する新しい原子核モデルを構築する拠点となることが期待されます。
本研究は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』に掲載されるのに先立ち、オンライン版(6月27日付け)に掲載されました。

SCRIT電子散乱施設建設にあたっては、日本学術振興会科学研究費補助金(東北大学:基盤S-22224004および立教大学:基盤B-24340057)、および文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業(立教大学:S1411024)の支援を受けて行われました。