おもしろ授業 [学部]

(掲載日2008.06.19)

立教生による講義レポート

レポーター : 葛野ゼミ3年次の学生のみなさん

授業風景・葛野教授(観光学部)

この授業は観光学部交流文化学科のゼミですが、研究・学習活動の焦点が観光現象だけに向いているわけではありません。むしろ、文化人類学のゼミといった方が良いかも知れません。何よりもフィールドワーク経験が重視されており、2年次の昨年はリトルワールド野外民族博物館へ研修旅行に出かけ、3年次の今年は、7月に「秩父川瀬祭り」の参加型の調査実習、秋休みにはフィンランド北極圏地域(ラップランド)でのゼミ合宿も予定しています。                 
私たちが交流文化学科の第1期生であり、何をするにも皆で試行錯誤しながら大胆に作っていけるのも魅力です。先生は真面目で熱意にあふれていて、私たちが多少「無茶」なことを言い出しても、決して「無理」とは言わず、それが実現できるように協力してくださいます。そんな先生のおかげで自由で充実したゼミ活動ができています。
(この授業紹介ページはすべてゼミ生が協働して作成しました。観光学部交流文化学科が重視しているフィールドワーク経験に関しては、観光学部が発行している雑誌『交流文化』の第5号「特集:フィールドワークが問いかけるもの」を御覧下さい。葛野先生の「フィールドワークと恋愛:北極圏ラップランドのサーミ人と私」 等が掲載されています。また『交流文化』の第6号では、私たちがリトルワールド野外民族博物館への研修旅行を記事として紹介しています〔観光学部のHPでも読むことができます〕。)




2年次の後期から、「日本文化に恋した外国人」というテーマでインタビュー調査を進めています。伝統的日本文化と呼ばれるものに本格的に取り組んでいる外国人の方からお話を伺うことで、あらためて日本文化を見つめ直してみようと、私たちが相談して決めた研究企画です。東京だけでなく京都や大阪にまで出かけて、大相撲、茶道、落語、日本画、木版画に取り組んでいる方々、計6名からお話を伺い、そのお話をテキストにしました。以下では、それぞれのお話の中から、私たちにとって興味深い内容を紹介します。

(1) あにでし、しんでし、でんとう

南乃島勇さん
(武蔵川部屋の大相撲力士:トンガ出身)

 
『最近なんかあんまり言っても全然返事しないから、あーこれだんだんこういう兄弟子新弟子の関係がなくなっていくのかなって。厳しくしなきゃなって。で、やっぱ厳しくしたらその新弟子のまた新しい新弟子が入ってきたら、その、兄弟子と新弟子の関係があるから、やっぱやらなきゃだめ。』


伝統が続いているのは、厳格なしきたりが守られているからこそ。世界選手権への出場を機に大相撲力士になった南乃島勇さんは、入門当初、兄弟子・新弟子関係や厳しい稽古に戸惑ったという。しかし、自分が新弟子を迎える側になると、伝統を受け継いでいくためには厳しさが必要だと感じた。大相撲が現在まで日本の伝統文化として受け継がれてきたのは、この「伝統のしきたりを守るべき」という意識が相撲関係者、観衆の双方にあるからなのだろう。南乃島さんの言葉からは、担い手としてその伝統の只中にいる人の責任感の強さが感じられた。

(2) からだ いちごいちえ

ランディー・チャネル宗榮さん 
(京都にお住まいの茶道家:カナダ出身)

 
『素晴らしさは、その、やっぱり人間の出会い。私が毎日自分でお茶を作って飲んだら、それはお茶じゃない。「ちゃどう」じゃない。相手がいないと茶道にならない。それはただ練習だけ。お茶を作るだけ。It is not 茶道。その時間を一緒過ごすことがすごく特別。だから、よく一期一会と言うけれど、その意味だけじゃなくて、その時間をこの人と一緒に過ごすことは、普通のパーティーより大事。』


訪れてくれたお客さんをもてなし、楽しませることがランディさんの考えるお茶の精神である。一期一会。その時、その人とのつながりを茶室で大切にすること。はじめは柔道などの武道に取り組んでいたが、文武両道の精神から、文を極めようと思って茶道に出会った。武道と茶道との間には、身体の使い方に共通性を感じているという。
お話を伺っていて、身体と文化の結びつきについて深く考えてみたいと思った。

(3) じょうげかんけい あじ

グレッグ・ロービックさん 
(大阪にお住まいの落語家:カナダ出身)

 
『ものすごく上手の素人の落語家も見たことある。例えば、有名な役者は、賑わいする立派な寄席で、有名な役者が落語をやると、役者だからすごい上手。おもしろい。うけてるし。もうちゃんとやってるから、落語家に教えられたかも知れないし、稽古してやってるけど、なんか違う。多分あの、3年間いじめられっぱなしにしないと、その・・・なんか味が出ない。わかんないけど、わかるの。それだけじゃないけど、でもやっぱり毎日師匠に会うと、もう・・・それから本当にいろいろ学ぶことができる。』


9年前、歌舞伎や能楽に興味を抱いて来日し、アコーディオン漫談を経験した後、落語の世界へ飛び込んだ。現在は、桂三枝氏の下で修行中。落語家の面白味は師弟関係にある。落語の世界では、弟子入りしなければプロとは言えず、弟子入りは落語家としての成長のきっかけとなる。厳しい上下関係の中に入ってこそ、落語家としての「味」を身に付けることができるという。

(4) そうぞう げい

ダイアン・オレットさん 
(大阪にお住まいの落語家:イギリス出身)

 
『最近想像を使わなくていい世界になってるから、落語すごくいい。イマジネーション使う。景色がない、衣裳もない。一人だけになってるけど、想像できるようになる。お客さんから見たら今誰が話してる、今何人くらいいるとか、想像できなかったら失敗だと思う。』


日本に来てから数年経った頃、桂枝雀さんに出会ったことをきっかけに趣味で始めた落語が、いつの間にか仕事になっていた。本を読まなくなり、パソコンで何でもわかる時代になっている今、想像力を使う落語の良さを語ってくださった。お客さんに楽しんで帰ってもらえるよう、少しでもわかりやすく、想像力を働かせやすくするために、声色・動作・目線・単語一つまでに気を使う。落語を始めた頃は、外国人だから、女性だから、落語の真髄を極めるのは無理だろうとも言われたが、逆にそれが芸を追究する原動力になった。外国人がやっているからという見方ではなく、一人の落語家としておもしろいと思ってほしいという。

(5) にほんてき? にほんじん?

アラン・ウエストさん 
(東京にお住まいの日本画家:アメリカ出身)

 
『うわーすごい日本的。これほど日本的なところってなかなか見かけないな。こういう絵っていうのは素敵だね。って、それで奥から出てきて、こんにちわって言うと、必ずあっ、でも何か違うんだよねって、日本人じゃ描けないよねって。なんだろうか、そういう反応の奥にあるものが非常に嫌ですね。ゴッホはオランダ絵を描いていたわけでもないし、フランス画でもないし、ゴッホはゴッホの絵ですよね。で、そういう分けなきゃいけないという精神が失礼にあたるというか。』


兎膠、天然顔料、光を駆使して描く日本画。ボランティアの為に訪れた日本で、自分の絵にしっくりとくる、探し求めていた顔料に出会って日本画を始める。途絶えてしまった狩野派筆法の復興に挑む。絵を描くこと、絵を観ることに、その人の国籍を問おうとは思わないアランさん。そして、アランさんの創り出す日本画を、どうしても「純粋な日本文化」としては見ることのできない私たち。その両者の違いを前にして、何か不安で落ち着かないような奇妙な気持ちが湧き上がってきた。

(6) ひかり Wake up !

デービッド・ブルさん 
(東京にお住まいの木版画家:カナダ出身)

 
『僕の好きなことはこの国の人たちが忘れた、小さな社会の中のことの一つのことを、将来まで守る考えはないですが、自分が好きですから自分がやるんですね。それからもちろん人に紹介すると目がえーっ、とかするのが嬉しいんですね。外国の人、海外からの人が、いやー知らなかった、とかももちろん嬉しいですね。だから今日のインタビューにこれよりない、これしかないですよ。 I came from another country, I discovered nice part of Japanese culture you forgot about it, I'm saying "Hey! Wake up, wake up! Please remember" これはwe can't destroy the house, we can't destroy. We can't go back to this. 印刷はもうみんな木版画に戻すことはできないですが、この美しさをちょっと、bring it into yourself.今日はこれで終わり。後はほんと細かいこと。光です、光。だからすごい材料もすごい。和紙、岩絵の具、道具、ばれんとか何百年も前から職人が考えた道具。いい材料で、いい道具で、職人の腕、もう素晴らしいですが、その力全部合わせて、きれいなものになるんですよ。』


何枚も彫って刷り重ねることで、一枚の紙にオブジェのような存在感を吹き込む木版画。昔の灯りのように横から光を当てることで、木版画の本来の魅力が引き出される。もともと日本文化には興味はなかったが、カナダで偶然立ち寄った画廊で木版画に出会い、その存在感や芸術性に圧倒され引き込まれてしまったという。日本人が忘れてしまった木版画の美しさを、再び思い出してもらいたいと熱心に語ってくれた。お話を伺っていると、デービッドさんが「日本人が忘れてしまった」と語るものを、私たち(日本人)は本当に「日本文化」とまとめてしまって安心していて良いのかどうか、深い疑問に出会ってしまった気がする。




【今回のレポートを作成してくれた葛野ゼミ3年次の学生のみなさん(敬称略)】

安達 薫、石井 希、稲野邉 早紀、稲福 秀哉、小島 千明、

辻井 文男、中村 由衣、野沢 仁美、舟橋 祐子、古市 裕子、

星野 久子、三股 恭子、宮本 真帆、村上 智彦、室屋 りえ

授業風景:インタビュー内容の整理・検討作業(報告書作り)

取材日 2008年5月9日(金)10:40~12:10
教室 新座キャンパスN341教室

授業概要(2008年度シラバスより)

■授業の目標
観光現象や文化・社会の変化・交流・創造現象に関する小研究の実践,発表,ディスカッションを通して文化人類学・観光人類学的研究の視点を磨くこと,現地調査・聞き取り調査と報告書作成の実習を通して実践的調査研究能力を身につけることを目指す。
■授業計画
1.文化人類学・観光人類学の研究領域で各人が関心を持つ現象やテーマに関して,それぞれ小研究を行い,それをレジュメにまとめて発表し,皆でディスカッションを行う。この作業を通して,4年次の卒業論文研究のテーマを模索する。
2.「演習(2年)」で実施した聞き取り調査「日本文化に恋する外国人」の報告書作成。
3.夏季に,祭りに関する現地訪問調査・後日の聞き取り調査の実習を実施し,報告書を作成する。この作業を通して,4年次の卒業論文研究に耐えうる調査能力と報告書作成能力を身につける。
4.秋季に,北欧北極圏ラップランドへ研修旅行に出かけ,北極圏観光の現状・課題・展望を視察すると同時に,フィンランド国立ラップランド大学経営観光学部の学生との議論を経験する。

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