「ちがい」を知り、「ちがい」を超え、「ちがい」の共生する社会へ—複眼的思考を養う、多様性に満ちた学び

異文化コミュニケーション学部開設10周年(後編)

2019/01/15

トピックス

OVERVIEW

グローバル化に伴い多文化化・多言語化が進む社会の中で真に活躍できる人物の育成を目指し、2008年に誕生した異文化コミュニケーション学部は、今年で開設10周年を迎えました。立教大学のグローバル化を牽引してきた特色ある学部教育と、拡充を進めている取り組みについてご紹介します。後編の今回は、授業や研究をご紹介します。

授業紹介「通訳翻訳実習」:プロジェクト管理から実践まで、実際の現場で通訳・翻訳を体験

松下 佳世 准教授 専門:通訳翻訳学、メディア研究

学内外で通訳・翻訳を行い学びを実践の場で生かす

同時通訳実習の様子。後方にある通訳ブースを使用した練習も行う

学部から大学院まで、一貫性のある通訳・翻訳者養成プログラムを設置している異文化コミュニケーション学部。学部の段階から、通訳・翻訳の各分野についての理論と実践を学び、幅広い知識と技能を身に付けていく。その最終段階で取り組むのが「通訳翻訳実習」授業だ。担当する松下准教授は、ジャーナリスト・会議通訳者としての経歴を生かし、学生の指導にあたっている。
「履修する学生は、サービスラーニングプログラム『立教コミュニティー翻訳通訳(RiCoLaS)』にも参加し、学内外から寄せられる実際の通訳・翻訳依頼に対応します。学生自らプロジェクトを管理し、依頼者とのやりとりから事前準備、当日の実践、振り返りに至るまで、全て自分たちで行うのが特色です」
依頼内容は、留学生対象の講義の通訳、学院展示館の資料和訳などさまざま。学外インターンシップも推奨し、2017年度はWebメディア「BuzzFeed」の記事翻訳を手掛けた学生もいたという。

必要なのは語学力だけではない

イベントで通訳する RiCoLaSの学生 (手前)

「通訳・翻訳の現場では、教室でのシミュレーション通りにいかないことが多々あります」と話す松下准教授。通訳を例にとると、街中では周囲の騒音で自分の声が届かない場合もある。話し手との事前協議が十分でないと、期待された役割を果たせないケースもある。実践を通してさまざまな壁にぶつかることで、学生が自主的に改善方法を考えていくという。
さらに、「単に語学力が高いだけでは、通訳・翻訳は務まらない」と松下准教授は力を込める。
「例えば通訳だと、忠実に訳すだけでは不十分な場合も多く、訳出には工夫が必要です。言葉を表面的に変換するだけでは、話し手の真の意図は伝わらないからです。受け手が求めている情報を察知する力、メッセージやテクストを深く理解する力が非常に重要。このような通訳・翻訳の奥深さに触れてほしいと思います」
松下准教授は、現在も大学の夏季休業期間等を利用して会議通訳や法廷通訳の実践を続け、現場での新たな気付きを学生にフィードバックしている。
「現代は医療や司法、行政の場における『コミュニティ通訳』が不足している現状があり、一方ではAIの登場によって通訳・翻訳者に求められる役割も変化しつつあります。その中でどんなスキルを身に付け、どんな価値を提供していくべきか。現場での実体験も踏まえながら、学生に伝えていきたいです」

研究紹介1:紛争は人々にどんな影響を与えたか。 メディアが報じない現実に迫る

石井 正子 教授 専門:紛争研究、国際協力、地域研究

フィリピンの紛争地帯で 声にならない声を聞き続けて

フィリピン・ミンダナオ島でのフィールドワーク(2017年)

紛争研究と国際協力を専門とする石井教授。その原点になっているのは、フィリピン南部のムスリム社会における地域研究だ。1970年前後に始まったムスリムを中心とする解放戦線と政府との武力紛争は、この地に甚大な被害をもたらした。石井教授は、大学院在籍中に現地で13カ月間のフィールドワークを行い紛争体験者にインタビューを重ねた。
「つらい記憶なので、普段人々は紛争の体験を胸にしまっています。紛争で夫を亡くした野菜売りの女性と出会った時は、半年間一緒に地面に座って野菜を売り、少しずつ話を聞いていきました。夫に先立たれてから、彼女はどんな人生を送ってきたのか。メディアでは報じられない、声にならない声を聞くことで、紛争の違った側面が見えてきたのです」
紛争では、多くの一般人が犠牲になっている現実がある。人々の暮らしに紛争が与えた影響を知り、当事者の視点を通して研究を掘り下げるため、現在も現地を訪れて多様な声を聞き続けているという。

支援を受ける側の視点に立つ

石井教授はこうしたフィールドワークの経験を踏まえ、国際協力において重要なことは「支援を受ける側の視点に立つこと」だと強調する。
「日本では、どうしても支援をする側の視点に立つ場合が多い。しかし、受け手側の立場に立ったとき、外からの支援がどう映るのかを考えることも大切です。現地社会の実情や人々の感情のひだを理解しないと、一方的な支援になりかねません」
さらに、その先に目指すのは、双方向支援の枠組みづくりだという。
「特に日本は支援を受けること、いわゆる『受援』に慣れていない。互いに支援し、支援される仕組みを構築することで、双方の視点を融合させた細やかな支援が実現できるのではないかと考えています」
NPO法人に籍を置き、国内外で人道支援にも携わる石井教授。
「研究の知見を実践に生かすことも課題の一つ。今後もさまざまな試みを続けていきたいと思います」

研究紹介2:スピーチが浮き彫りにする社会問題とは?「説得コミュニケーション」を批判的に

師岡淳也 准教授 専門:コミュニケーション学、説得コミュニケーション(レトリック)研究

社会において 何が「説得力」に結び付くのか

大統領の演説や政治家の発言、社会運動におけるスピーチ。不特定多数に向けて意見を主張する、「説得コミュニケーション(レトリック)」と呼ばれる行為が師岡准教授の研究対象だ。理論や歴史を研究するほか、特定の演説や発言に対する批判的分析も行う。「説得」を個人のスキルとして捉えるのではなく、「社会において何が説得力を持つのか」「その背景にある要因は何か」に着目して考察する点が特色だ。
「例えば、オバマ前アメリカ合衆国大統領は、選挙期間中の演説で人種問題についてほとんど語りませんでした。それは黒人の利害の代弁者というレッテルを貼られることを避けての行動であり、白人中心のアメリカ社会の姿を映し出していると考えられます。説得力に結び付く作用や要因を分析することで、一つの社会問題が浮き彫りになるのです」

日本のスピーチ教育が歩んだ 「脱政治化」の歴史を追う

岡准教授が、現在取り組んでいるのは、戦後日本におけるスピーチ・コミュニケーション教育の変遷を明らかにする研究だ。その背景には、現代のコミュニケーション教育に対する問題意識がある。
「近年注目を集めている若者によるデモや集会でのスピーチと、学校でのコミュニケーション教育は別のものとして捉えられています。教育現場における『話す力』は、大学や組織で成功するための自己変革のツールではあっても、市民による社会実践や社会変革の手段ではないのが現状です」
この風潮はいまに始まったことではなく、日本のスピーチ・コミュニケーション教育は、絶えず政治から切り離されてきた歴史があるという。師岡准教授は、こうした「脱政治化」の歩みを追い、歴史的な視点で現状を捉え直すことに挑んでいる。
「過去を知ることで現在のあり方を問い直し、未来につなげていきたい。公共性や市民性を持ったスピーチ・コミュニケーション教育の実現に向けて、一つの示唆を与えるような研究になればと考えています」

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