イギリスの『EU離脱』から考察するグローバリゼーションの真の意味は何か

経済学部経済政策学科教授 櫻井 公人

2016/12/22

研究活動と教授陣

OVERVIEW

2016年6月にイギリスで、イギリスの欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票が実施され、離脱派が51.9%と過半数を上回りました。その背景や今後の影響について、経済学部の櫻井教授に伺いました。

この結果に至った背景をどうご覧になっていますか。

多くの市場関係者にとって予想に反した結果となりました。直前の世論調査では残留派が優勢であったこともあり、経済にも動揺が走りました。

今回の結果は、国民の不満が離脱派の票につながったことが一因といえます。EUに規制・支配されることに抵抗のある、かつての大英帝国としての誇りを持つ高齢者層。EU諸国からの移民に職を奪われていると感じる労働者層。金融危機後に自分たちの社会保障費が削られ、その予算が移民に使われているという疑念を持つ低所得者層。離脱派のリーダーたちは、こうした不満を持つ国民たちの怒りを吸い上げ、その矛先をEUに向けたのです。

しかし国民は、離脱のメリット・デメリットを正しく理解していたといえるでしょうか。残留派に多くいた若い世代は、イギリス以外のEU諸国でも職を得るなどグローバルに活動できるという、EUにとどまることのメリットに目を向けていました。また、かつて移民は貴重な労働力でした。それが不景気となった現在、移民が失業問題の原因とされているのです。

私は、この結果はそれぞれの立場(地域・世代・階級)や環境、社会情勢によってさまざまな論点があるにもかかわらず、ある一部に争点が偏ってしまったことや、国民の声に対する国の不作為がもたらした、グローバリゼーションの中の出来事だと考えます。これはイギリスだけの問題ではないのです。

世界や日本にどのような影響を及ぼすと考えられますか。

イギリスの国民投票直後から為替相場に大きな変動があり、円高傾向へと向かいました。これからイギリスは、離脱通告後2年をかけ、今後の在り方について協議を重ねることになりますが、どういった選択をするのか。それにより、欧州のみならず、日本を含めた世界にはさまざまな影響が及びます。今後少なくとも2、3年は非常に不透明な状態が続きます。このような不確実性の中で経済活動を続けなければならないことになるのです。

現在、多くの日本企業がイギリスを欧州の拠点としています。これまではEU諸国全体で、業界ごとに承認制度や規制の内容が統一されていました。そのため、EU全体を対象に、しかも英語でビジネスを行うことができ、日本企業に好都合だったからです。しかし、離脱後はイギリスが独自の制度やルールを採用することも考えられるため、欧州との貿易ルールが統一されず、イギリス以外に拠点を移動する必要が生じるかもしれません。ところが、2017年にオランダ・フランス・ドイツなど主要国で行われる選挙でEU離脱派の躍進も予想されます。結局、動くに動けない状況が続くかもしれないのです。

今後一層グローバル化の中で、日本はこうした出来事をどう捉えるべきでしょうか。

今回の出来事を、遠いイギリスでの話と考えるのではなく、日本でも同じ問題を抱えていないかと、私たちの社会を見直す契機にすることが大切です。例えば、日本では移民問題を身近に感じられないかもしれませんが、非正規雇用者に置き換えるといかがでしょうか。規制緩和により非正規雇用者が増えた結果、雇用や格差の問題が生じています。このように違う視点で考えてみると、さまざまな現象や課題が見えてきます。

グローバリゼーションが進展し、ヒト、モノ、カネが比較的自由に往来できるようになりました。しかし、同時に麻薬や銃などの武器、そしてテロリストなど、私たちの生活を脅かすものも往来する可能性があることを忘れてはいけません。グローバリゼーションが転換期を迎えた今、グローバリゼーションには表と裏があることを改めて認識し、裏の面、つまり負の部分から受ける影響も同時に考えてみる必要があります。

櫻井教授の3つの視点

  1. どの論点にフォーカスするかで見え方が異なる
  2. グローバリゼーションには表と裏の面がある
  3. 世界で起こった問題を日本の問題と照らし合わせる


(写真:読売新聞社)

プロフィール

PROFILE

櫻井 公人

経済学部経済政策学科教授

静岡県生まれ
1987年3月 京都大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得満期退学
阪南大学教授を経て、2003年4月より、立教大学経済学部教授。
2015年4月より、立教大学経済研究所長。
専門領域は、国際経済学、世界経済論、国際関係論、グローバリゼーション研究。
著訳書に『現代世界経済をとらえる Ver.5』『現代国際金融─構図と解明』『マッド・マネー』『国家の退場』『1冊でわかるグローバリゼーション』など。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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