立教グローバル・フォーラム
「スポーツを通じた国際協力」

立教大学主催 公開講演会開催レポート

2016/01/14

イベントレポート

VOL.28

OVERVIEW

立教大学では、学外の方にもご参加いただける講演会やシンポジウムなどが毎日のように行われています。このカテゴリーでは立教大学で開催されたイベントの模様をお届けします。

はじめに

「立教グローバル・フォーラム」が11月25日、立教大学で開催されました。
スポーツを媒介とした国際協力の現状や課題、今後一般市民を加えた多くの人々がどのように国際協力に関わっていくべきか、広い視点から語られました。

第一部 特別講演「スポーツが果たす役割 ~国際交流の第一歩~」

元陸上選手・一般社団法人アスリート ソサエティ代表理事 為末 大 氏

為末 スポーツというといわゆる競技スポーツをイメージされる方が多いと思いますが、実はもっと広い範囲で捉えることができます。皆さんは、将棋はスポーツだと思いますか。

以前、アジアでは囲碁をスポーツ競技としたことがありました。ルールがあり、時間や空間など一定の制限の中で勝敗が決まるものをスポーツと定義したためです。それに基づけば、将棋も十分スポーツと言えるのではないでしょうか。

そもそもスポーツの語源はラテン語の「deportare」と言われており、詩を詠むことや音楽の演奏も含まれていたそうです。また歴史家のヨハン・ホイジンガは遊びの中にスポーツが含まれると定義しています。スポーツの範囲を「遊び」まで広げれば、国際協力はもっと広がっていくことでしょう。

私は今ブータン王国で唯一の外国人スポーツアンバサダーを務めています。ブータン国内でスポーツを広めること、スポーツを目的にした観光客を増やすことが私の役目ですが、「幸せの国」といわれるブータンにも、近年は犯罪など様々な問題が生じています。

そこで、ブータンの子どもたちがまっすぐ成長する支えとなるよう、スポーツ文化を浸透させることが求められています。

スポーツの多面的役割を国際協力につなげたい

為末 私はスポーツが果たす役割は大きく三つあると考えます。一つ目は「学習」です。人間は身体のあらゆるセンサーを通じて情報を得て、それを元に感情を持ったり判断したりします。「身体知」とも言われます。例えば私たち選手は朝起きた瞬間に、いつもより心拍数が高いと察知すると、そこから自分自身の緊張や不安などの心理状態を感じ取ることができます。その意味でスポーツは、自分自身の身体を通じて身体感覚や知性を磨くことができる優れたツールだとも言えます。

二つ目は「共感」です。私たちは特に国外に出ると、国籍や人種など、様々な前提の下に他者と対峙します。しかしスポーツの世界では、スポーツ選手であることが前面に出て、共感を持ちやすいフラットな関係が生まれます。私にもスポーツ選手の友人がいますが、大会ではライバル心と共に、互いに頑張ってきたことへの尊敬の念を感じるものです。スポーツを長らくやってきた人間同士の共感。それはスポーツの大きな可能性ではないでしょうか。

三つ目は「文化」です。スポーツを通じて文化が醸成されます。例えば日本には相撲という国技があります。相撲をスポーツに入れるべきかどうかという議論はありますが、それが日本の精神性を象徴していることも事実です。スポーツはプレイヤーだけでなく観戦する側も一体感を持ち、文化やアイデンティティーを感じることができるのです。

これまでスポーツの多面的な要素についてお話ししましたが、この後のパネルディスカッションでは国際協力との接点を皆さんと見つけていきたいと思います。

第二部 パネルディスカッション「スポーツがつなぐ国際協力の現状と課題」

公益財団法人日本ユニセフ協会 広報室長 中井 裕真 氏

公益財団法人日本ユニセフ協会 広報室長 中井 裕真 氏

松尾 まずスポーツを通した国際協力の現状についてお聞きします。

中井 ユニセフはスポーツを「遊び」の一つであり、子どもたちが育つために欠かせない「日常」だと考えています。1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」にも、生きる権利や教育を受ける権利などと同等に、「遊ぶ権利」が認められています。多くの子どもたちが平和を知らないソマリアなどの紛争地で、ユニセフは、暴力や対立ではなく、話し合いと協力で問題を解決する力を身に付けてもらうための支援をしていますが、スポーツが重要な役割を果たします。サッカーやバレーボールなどのチームスポーツは一定のルールの下でみんなで協力して物事を進めるメンタリティーを育てることができるのです。

安松 日本サッカー協会はアジア各国から来たコーチに指導者養成をするなど、アジア協力事業を展開しています。1999年にスタートし、指導者の派遣74件、日本での合宿や試合45件が行われました。70年代にセカンドクラスだった日本が強くなった理由をアジア諸国は知ることができ、アジア全体のレベルが上がることが日本サッカーのレベル向上にも寄与すると期待しています。

国際機関や政府とも連携して活動を広げる

ユニセフが緊急支援の現場で使用する 「Sports-in-a-box」を囲む登壇者。 ボールやネットなどのスポーツ用品が 詰まっている。

松尾 企業やスポーツ関連団体にはそれぞれ得意分野に紐づく人材や物資などの資産があります。そこに国際機関が協働し、より大きなムーブメントを生み出せるのではないでしょうか。

中井 ユニセフは2007年の中国「FIFA 女子ワールドカップ」の際、FIFAと共同で女子教育推進キャンペーンを行いました。国際的なイベントと組むことで、ユニセフは女子教育問題に対する国際社会の関心を高められました。このような連動により、事業者側も社会貢献の姿勢を前面に押し出すことができるでしょう。

松尾 日本のスポーツ界においても他組織との連携が広がっています。例えば日本体育協会はアジア近隣諸国との交流を目的に1991年からアジア14の国や地域から関係者を招待しています。2015年からは政府が推進している「スポーツ・フォー・トゥモロー」というプログラムの一つに認証されました。これは開発途上国を始めとする100か国以上の国を対象としてスポーツの価値を広げる活動です。他にも日本スポーツ振興センターと青年海外協力協会が実施組織となって、マラウイやグアテマラで「UNDOKAI」を開催しました。為末さんは「スポーツアジア」というプロジェクトを単独で実施していますが、活動を広める上でどのような課題がありますか。

為末 海外に派遣する選手をどう集めるかが課題です。そのような支援団体があるとよいのですが。私はトップ選手やコーチを多く知っていますが、途上国で指導する気持ちを持つ人は多くありません。引退後も国際協力に取り組む人は限られるのが現状です。

松尾 今後どうしたらよいでしょうか。

為末 海外には一定の割合で、自国外への人的な貢献をする選手や基金を立ち上げて支援する選手がいます。選手の啓蒙が進み、日本のスポーツ団体においても選手を後押しする仕組みや環境ができると海外協力も広がるのではないかと思います。例えば日本は教育とスポーツが非常に近く、指導者を生みやすい土壌があります。スポーツによる人材育成は、世界からも注目されるのではと感じています。「日本人が教えた選手が何人五輪に来たか」など新しい指標を世界に示してはどうでしょう。

持続可能な国際協力に必要な視点とは何か

本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科 松尾 哲矢 教授

本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科 松尾 哲矢 教授

松尾 国際協力を行う際に援助側が持つべき視点について教えてください。

中井 支援を受ける側のニーズが起点であるべきです。さらにその国の文化・習慣も前提に考えなくてはなりません。例えばイスラム圏の女性は親族以外の男性に手と顔以外、自分の体を見せることを禁じられています。男女に等しくスポーツの機会を提供しようとしても難しい。そこで男性の目に触れないスポーツ環境を整備することを考えるわけです。先方の理解を得ることで活動の持続性が高まります。

松尾 イスラム圏の女性に向けたスポーツ支援に関しては、「ムスリム女子競技大会」が4年おき(’93年〜’05年)にイランで開催されています。文化背景を知ることで、国際協力への導きもできるのですね。

広がり始めた国際協力の輪

本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科 安松 幹展 教授

本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科 安松 幹展 教授

松尾 実は学生や一般の方が海外協力に取り組むチャンスも広がってきています。JICA(国際協力機構)の青年海外協力隊に参加している本学大学院学生・長谷直樹さんの活動について紹介します。彼はブータン初の器械運動公園を現地の人と一緒に開設しました。現地で手に入らない物は代用し、遊具を作ったそうです。ブータン初の駅伝大会も開催しました。彼は「一番大切なことは共に作り上げること。現地の人たちの自助努力を促進することが必要。それが継続的な効果を発揮する」と言っています。特別な技能を持たなくても国際協力の門戸は開かれているのです。

安松 世界のサッカー人口は英語を話す人口よりも多いです。言葉が通じなくても、共通のルールの下にボールを蹴れば仲間になれる。それも国際協力の第一歩になり得るでしょう。

中井 今世界には22億人の子どもがいますが、遊ぶことさえできない子も少なくありません。今後開かれる国際的スポーツイベントが、世界中の子どもたちにスポーツや遊びを提供するきっかけとなることを期待します。

松尾 日本では2019年の「ラグビーワールドカップ」から2021年の「関西ワールドマスターズゲームズ」まで、3年連続でスポーツの国際大会が開催されます。このようなイベントでは市民ボランティアが数多く必要とされます。この機会に国際協力の取り組みに一般の方も参加してみてはいかがでしょうか。

インフォメーション

INFOMATION

立教グローバル・フォーラム「スポーツを通じた国際協力」

日時 2015年11月25日(水)18:30~20:30
会場 池袋キャンパス タッカーホール

講演者
【第一部】 特別講義「スポーツが果たす役割~国際交流の第一歩~」
為末 大 氏(元陸上選手・一般社団法人アスリートソサエティ代表理事)

【第二部】 パネルディスカッション「スポーツがつなぐ国際協力の現状と課題」
《パネリスト》
為末 大 氏(元陸上選手・一般社団法人アスリートソサエティ代表理事)、中井 裕真 氏(日本ユニセフ協会 広報室長)、安松 幹展(本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授)
《コーディネーター》
松尾 哲矢(本学コミュニティ福祉学部スポーツウエルネス学科教授)

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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