ESD研究所主催公開講演会 開催レポート

鈴木 敦也 さん(社会学部現代文化学科3年次)、樽田 清香 さん(社会学部現代文化学科3年次)

2016/01/25

研究活動と教授陣

OVERVIEW

ESD研究所主催公開講演会

水と自治(1)-技術にも自治がある?-

日時 2015年10月16日(金)18:30~20:00
会場 池袋キャンパス 太刀川記念館3階 多目的ホール
講演者 大熊 孝 氏(新潟大学名誉教授、NPO法人新潟水辺の会顧問、新潟市潟環境研究所所長、水の駅・ビュー福島潟名誉館長)
【略歴】
1942年台北市生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、新潟大学工学部助手に着任、講師、助教授、教授を経て、2008年3月定年退職、同4月より現職。専攻は河川工学、土木史。1987年より「新潟の水辺を考える会」(後にNPO法人新潟水辺の会となる)の代表を務め、地域と積極的にかかわり県内の河川・湖沼の再生浄化や景観保全に尽力した功績により第61回新潟日報文化賞(2008年)を受賞。
 

講演会レポート

高度経済成長期から現在に至るまで、人々の暮らしを「よく」するために行われたダムの建設や堤防の設置は、私たちと川の関係を変えてしまいました。今回の講演会は、長年にわたり新潟県内の河川・湖沼の再生浄化、景観保全に尽力された大熊孝先生にお話いただき、生活の中にある「川」をめぐる「技術」の在り方、「自治」の在り方について考える機会になりました。
はじめに、大熊先生は、良寛さんの「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候。死ぬる時節には死ぬがよく候。是はこれ災難をのがる妙法にて候」という言葉を引用し、自然と付き合ってきた人々の根底には、この自然観が流れていると紹介されました。日本の自然は両義的であり、恵みだけでなく時として大きな災害をもたらしますが、人々はこうした自然と上手く付き合いながら生活していました。筑後川水系の城原川や信濃川支流の渋海川においては、かつて流域に住んでいた農民が話し合いを行い、越水させる場所を決めるなど、水防活動にも参加していました。行政や事業者が「大技術」によって治水の在り方を決めるのではなく、「中技術」「小技術」を用いて住民も治水に参画し、堤防などの維持管理の一端を担ってきました。これが「技術の自治」です。自然との関係を保持していくうえで、「技術の自治」は大変重要なことでした。
次に、大熊先生は、技術から得られる恩恵が、都市に収奪されてしまっている現状を指摘されました。たとえば、新潟県・福島県を流れる阿賀野川・只見川には数多くのダムがつくられ、今や「発電のためだけの川になってしまった」と言っても過言ではありません。それにもかかわらず、地元川沿いのJR磐越西線の一部区間や只見線は電化されていません。地方のダムで作られる電力は、東京などの大都市の供給を賄うもので、必ずしも地域に供給されるものではありません。河川管理のシステムは依然中央集権的であることから、地域に還元される川を考えていくために、地域が積極的に川の在り方に関与していく必要があります。
ダムから川を取り戻す取り組みのひとつに、ダムからの維持流量を増やす試みがあります。信濃川の宮中ダムでは、2010年に川の維持流量を7㎥/sから40㎥/sに引き上げ、5年間サケの試験放流を行い、最終的に夏は60㎥/s、冬は40㎥/s、ダムから水を放流することになりました。こうした動きにあわせて、大熊先生は、NPO法人新潟水辺の会の活動のなかで、ダム化されてしまった川にサケの稚魚を放流し、サケの遡上を成功させています。

さらに、新潟市の萬代橋に住民からの寄付などで橋側灯が設置された例では、行政・企業・NPO・市民といった「共異体」の参画の可能性が語られました。もちろん、国や県との合意を形成する難しさは依然として残っています。しかし、川づくりや街づくりをする際、「橋」や「水辺」を、どう住民に身近なものにしていくか、より楽しいものに変えていけるかが、これからの「技術の自治」を形成する上でのポイントだと思います。
私たちの生活様式が変化するにつれ、川とのかかわり方も変化してきました。一度ついえた川との関係性を修復することは難しいかもしれません。それでも、その変化の中で行政・民間・地域の役割を折り合わせて、自然の脅威をうまく受け止め、地域に恩恵が還元される「技術の自治」を取り戻していくことが必要だと学びました。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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