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  4. コッツウォルズ地方と観光(観光学科教授:杜国慶)
教員紹介

コッツウォルズ地方と観光

図1 コッツウォルズの範囲と交通網(Cotswolds
Conservation Board資料により筆者作成)

 約30年前の大学時代に、授業で「田園都市」という概念を学んだ。概念の提起者エベネザー・ハワード(Ebenezer Howard)がイギリス人であることから、イギリスでは田園風景がどこまでも広がっているというイメージを勝手に抱いた。イギリスで始まった産業革命は人類に大きな影響を与え、社会と都市の様子を大きく変えた。実際のところ、「田園都市」は重工業の発達によって引き起こされた環境悪化と貧困に対する反省でもある。その一方で、産業革命と縁がなかった地域は時代遅れで当時の世間からは忘れられていたかもしれないが、第二次産業の蹂躙を逃れた田園風景は現代の人々を魅了する存在となっている。ロンドンの西側に位置するコッツウォルズ(Cotswolds)地方がその良い事例である。

写真1 Gloucester大聖堂の
花飾り回廊は映画「ハリー・ポッター」にも
登場した(2014年4月撮影)

 丘陵が広がるこの地方は、鉄道建設が容易ではなかったことから、産業革命の時代には開発が進まず、農業地域として取り残されてきた。しかし、20世紀に入ってからは自然豊かな桃源郷として注目され、観光開発が進められてきた。

写真2 屋根には藁ぶきと石の板がよく使われる
(2014年4月撮影)

 コッツウォルズの範囲は明確に定められているわけでない。一般的に、東はOxfordから西のGloucester(写真1)まで、北はStratford-upon-Avonから南のBathで囲まれる地域を指す(図1)。この地方は、羊毛の貿易で富を得ていたが、17世紀のはじめに紡績業が発達したのに伴って地域が豊かになり、教会と荘園、邸宅、養老院が建てられていった。建物は背が高く、切妻屋根、マリオン式の縦仕切り窓、高い煙突を持ち、そのすべてが現地の黄色い石灰石を利用した石造りの建物であることが町の特徴となっている。これにより20世紀に入ってから観光業が発展した。藁葺き屋根の村落(写真2)、蜂蜜色の石づくりの建物(写真3)、草を食(は)む羊の群れ(写真4)、遠くから見える教会の尖塔などなど、これがコッツウォルズのイメージである。

写真3 時間の流れが止まるように感じられる
Castle Combes村落(2014年4月撮影)

 コッツウォルズにおいて観光業が発達してきたのには、以下の理由があると考えられる。まず、美しい田園風景と豊かな自然環境が人々を魅了する最大の観光資源となっている。石灰岩を覆う草地とブナ林、豊かな植物相が評価され、コッツウォルズは1966年に1,507㎢の大規模な範囲で「傑出自然美地域」AONB(AONB: Area of Outstanding Natural Beauty)に登録され、1990年にはさらに範囲を2,038㎢まで拡大し、イングランドとウェルスにおいて最大規模のAONBになった。

写真4 Cleeve Hillにみる夕景(2014年4月撮影)

 第二に、この地域は豊かな自然環境に加えて、歴史性を兼ね備えた地域でもある。この地域の東西南北に位置する4都市はいずれも歴史のある町である。Oxfordは13世紀から高等教育が発達した大学の町、Gloucesterはローマ時代からの歴史をもつ町、Bathはローマ時代の温泉郷、Stratford-upon-Avonは文豪シェクスピアの故郷で、いずれもイギリスの歴史と文化を理解するためには重要な意味をもつ都市である。そして、Bath市街地とBlenheim(写真5)宮殿はUNESCO世界遺産にも登録されている。この地域の美しさと静けさは、ヴィクトリア朝の詩人であると同時にデザイナーでもあった「モダンデザインの父」と呼ばれるウィリアム・モリス(William Morris)の「アーツ・アンド・クラフツ」(Art and Crafts)にもインスピレーションを与えたと言われている。

写真5 チャーチル首相が生まれたBlenheim宮殿
(2013年9月撮影)

 第三に、コッツウォルズは科学的にも価値の高い地域である。ジュラ紀の地層が拡がっていることで、恐竜の化石が多く発見され、植物相もブナ林などがあり非常に豊かである。コッツウォルズAONBには、5つのヨーロッパ特別保護地区(European Special Areas of Conservation)、3つの国立自然保護区(National Nature Reserve)、80以上の特別科学興味地(Site of Special Scientific Interest)が指定されている。

写真6 地域に多く存在するファーム
(2014年4月撮影)

 現在、コッツウォルズAONBには約139,000人が居住している。うち、16.5%が定年退職者で、60歳以上の人口は26%を占める。農地は176,393haで総面積の86%を占め、地域の重要な構成部分である。ファーム(写真6)は3,434軒もあり、小さな町と村落とともに広大な地域に点在している。

 観光学の視点から見ると、この広大な地域には莫大なキャパシティと多様性に富んだバラエティが存在し、移動手段も自家用車とバス、自転車、徒歩など多岐に渡る選択肢がある。そして、ロンドンに近いというメリットもあり、観光者が訪れやすい観光地となっている。毎年230万人以上の観光客が美しい自然景観と田園風景、文化遺跡を求めてレクリエーションのために訪れ、その経済効果は10億ポンドにも及ぶ。こうして観光は就業機会を増大し、サービスと施設の維持に寄与するだけでなく、投資の増加と環境管理などで地域にメリットを与えている。しかしながら、その一方で観光業の発達に伴って浸食、混雑、ゴミ処理、土地の乱開発、汚染などの問題が発生する。そのため、持続可能な観光(サステイナブル・ツーリズム)が地域において重要な課題となる。

文・写真・図
観光学科教授・杜 国慶(と こっけい)

2013年秋より英国にて在外研究中

※文中の写真・図は下記フォトギャラリーにて大きなサイズでご覧いただけます

フォトギャラリー(写真1~6・図1)

(2014年8月UP)


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