2020/05/26 (TUE)

共生研センター メール・インタビュー(8) 
立教大学共生社会研究センター 石井正子 副センター長

はじめに

いよいよ、東京も緊急事態宣言が解除されることになりました。
センターについては、スタッフが出勤して勤務する(わざわざこう書かなければならなくなるなんて、数か月前には想像もできませんでした…)のは6月1日からとなりました。その後様子を見ながら通常開館のタイミングをはかっていくことになります。

こうした状況下でどうするか、に関する判断などを含め、センターとしての重要な意思決定を担う運営委員会は、現在センター長1名、副センター長2名、運営委員4名で構成されています。

運営委員へのメール・インタビューも4人目。今年の春に副センター長に就任された石井正子先生(立教大学異文化コミュニケーション学部教授)のインタビューを掲載いたします。

メール・インタビュー 石井正子・副センター長 ー 日本もフィリピンも、権力濫用のチェックが必要

- まず、先生の研究テーマについて教えてください。また、いまいちばん関心を持っていることは何でしょう?

フィリピン南部の武力紛争です。
目下、最大武装勢力のモロイスラム解放戦線(MILF)とフィリピン政府とのあいだの和平交渉が進展し、2022年にフィリピン南部に新自治政府が設立される予定です。そのプロセスを追っています。

- 先生が「研究の道に入ろう」と決めたきっかけは何ですか?

と、学生さんにもよく聞かれるのですが、「飲まないと話せません」と お答えしています(笑)・・・というのは半分冗談ですが、自分の意志とは関係のないところで人生のテーマに出会う、ということは皆さんはありませんでしょうか。私の場合、フィリピンとの出会いは、天安門事件がきっかけでした。
1989年の夏、中国に行く予定を立てていたのですが、その6月に天安門事件が起きてしまい、中国に行くことができなくなってしまいました。それでフィリピンへのスタディ・ツアーに参加したのがきっかけです。それからも、研究の道に入ろうと思ったというより、導かれて今にいたっています。

- これまでのインタビューでも、あまり最初から研究者になろう!と思っていてなった、という方は少ないようですね。先生も出会いとタイミングが大きかったということでしょうか。では研究者になろうと決めてからの道のりはいかがでしたか?

気が付けば、周りに助けられてなんとかこの道を進むことができました。

博士後期課程を満期修了し、その後大阪の万博記念公園のなかにある国立民族学博物館で任期付研究員と助教をつとめました。
その後、京都大学の助教、大阪大学の任期付准教授などを経て、2015年に立教大学に移りました。
その間、国際NGOにお世話になりながら、アフガニスタン、東ティモール、南スーダンなど人道支援の現場から学ぶ機会もいただきました。

- 研究には様々な資料を使われると思いますが、いつも、どんな資料を用いて研究を組み立てておいででしょうか?


私の場合にはフィリピンでの聞き書きをベースに組み立てています。(公表されているインタビューの一例)

資料には現れない個人の体験を大事にしています。その後、資料で個人が体験した社会現象について調べます。資料と現場の往還を続けていきたいです。

- それでは、センターとの関わりについて、少しお話していただけますか?

センターには鶴見良行文庫があります。鶴見良行さんは多くの名著を残していますが、その一つが『バナナと日本人:フィリピン農園と食卓のあいだ』(岩波新書、1982年)です。これは50刷りを超える岩波新書のなかのベストセラーです。日本輸出用バナナの生産地はミンダナオ島であり、私がミンダナオ島でフィールドワークを実施していることもあり、センターと関わることになりました。

- センター所蔵資料、あるいは広く社会運動の記録との出会いや、そうした資料・史料を用いたこれまでのお仕事などについて、教えていただけますか?

鶴見良行文庫の資料を参考にして、編著書『甘いバナナの苦い現実』(仮題、コモンズ、近刊)を執筆中です。同文庫には鶴見さんの手書きのフィールドノートも残され、一部はデジタル化もされています。それを見ると、鶴見さんの緻密な現地観察の様子や人びとへの温かいまなざしが伝わってきて、頭が下がる思いになります。

- センター所蔵資料に限らず、アーカイブズを大学での教育に使ったご経験があれば、そのご経験について教えてください(使い方、学生さんの反応など)。また、「今後使ってみたい」というご希望があれば、どんな風に使おうとお考えか、お伺いしたいのですが。

センターのアーキビストの平野泉さんにご協力いただき、「国際協力概論」の授業でセンター所蔵の国際協力NGOの資料を読む授業を実施しました(詳しくはPRISM No.12を参照)。1970年代、80年代の日本の国際協力NGO活動に資料を通じて向きあうことで、国際協力に込められた当時の人びとの思いを感じ取ることができました。

- 大人数の授業に資料を持ち込んで、どうなることかと思いましたが、学生さんたちが真剣に読んでくださったのでほっとしました。ところで現在、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、様々な機関が所蔵する資料へのアクセスが制限されています。センターも閉館を余儀なくされていますが、そうした状況で、今後をどう考えていくべきか、まずは副センター長としてのお考えをお聞かせください。また、一研究者としての立場から、「こんなサービスがあれば助かる」ということがあれば、教えてください。

コロナ後の社会を想定して、どのような新しいサービスを展開することができるか、虎視眈々としているのがいいのかと(笑)。私自身、デジタルには疎いほうですが、コロナ禍を機にオンライン上でできることの可能性の大きさに驚いています。

- 東京にいながらにして、学生がフィリピンにいる先生とやりとりするような授業も可能になりますよね。では最後に、現在の社会状況、そしてコロナ以降の社会について、何かお考えがあれば教えてください。

日本においても、フィリピンにおいても、コロナの影響で、監視が強められている部分と、監視が行き届かない部分が出てきています。いずれにおいても権力が濫用されていないか、コロナ後にチェックする必要があると思います。


(以上、メールへの回答(2020年5月14日)を一部編集して掲載)

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