立教大学の社会連携教育 ~座談会~

「立教サービスラーニング」のこれまでとこれから

2016/09/27

トピックス

OVERVIEW

立教サービスラーニングに関わる5名にお集まりいただきました。

【プロフィール(左から)】

大前純一さん

特定非営利活動法人ECOPLUS理事
2014年度に開講したRSLパイロットプログラム「RSL-2『雪掘りと農村交流を通して持続可能な社会を考える』」の受け入れ先であるエコプラスの理事・事務局長。

山本有華さん

RSLパイロットプログラム受講生、文学部文学科4年次
2014年度から始まったRSLパイロットプログラム全3科目を受講。

西原廉太

文学部長、同教授
立教大学総長補佐として、2007年にRSLの正課科目化を提案。2010年には社会連携担当副総長として「立教大学の社会連携方針」を策定し、自身もパイロットプログラムに参加。

原田晃樹

立教サービスラーニングセンター長、コミュニティ福祉学部教授
2016年4月、立教サービスラーニングセンター長就任。

藤枝 聡

司会・総長室社会連携教育課

社会に貢献し、社会から学ぶ

藤枝 立教サービスラーニング(RSL)が正式にスタートしたのは今年ですが、山本さんは昨年、一昨年のパイロットプログラムの段階から熱心に受講されていましたね。

山本 実をいうと、それまでは熱心な学生ではなかったのですが、座学だけではなく、いろいろと経験し、学びたいと思い、埼玉で生活保護受給家庭の中学生に勉強を教える科目や新潟県南魚沼の農村で除雪のお手伝いをする科目、そして正課外でしたが、フィリピンの貧困地域の子どもたちを支援するプログラムなど、全ての科目やプログラムを受講しました。

藤枝 山本さんも参加された南魚沼のプログラムで本学の学生を受け入れてくださっているNPO法人「エコプラス」の大前さん、実際の活動について、お伺いできますか。

大前 私たちは2007年から、過疎化が進む農村を舞台とした学びの場づくりをしてきました。一昨年、立教大学と一緒に始めたのは栃窪という集落での除雪作業「雪掘り」を中心としたプロジェクトです。豪雪地帯なので、「雪かき」ではなく「雪掘り」と言います。何日か作業したところですぐにまた雪が積もってしまうのですが、高齢者が多い栃窪では、若い人が何人もやってきてくれるだけでも気分が明るくなります。学生もこの土地のお米を東京でもっと売るにはどうしたらいいかと、自分たちで考えて、都内の米穀店に勉強に行ったり、大学のホームカミングデーで販売したりと主体的に動いてくれていて、地元の方々の励みになっています。

西原 このような活動が可能になったのはエコプラスさんが地域の方々と長期にわたって信頼関係を築いていらっしゃり、そこに学生を迎え入れてくださったおかげです。雪掘りの経験の無い学生が行っても現実的にはさほど役に立たないはずですが、学生は農村で多くを学ばせていただいて帰ってきていると思います。

山本 私は首都圏で育ち、なんでも簡単に手に入るこの生活が当然のように思っていたのですが、栃窪に行ってみて、こうした都市の生活は都市以外の地域があって初めて成り立つということに気づき、ごく当たり前のことなのに、胸を突かれるような思いでした。

社会の現場に立ち新しい「視点」で世界を見る

屋根の上で雪掘りをする山本さん (右から3人目)

西原 そうした複数の視点を持つこと、そしてその視点をずらして世界を見ることを学ぶこと。これはRSLを通じて学生に身に付けてほしいと願っていることそのものです。キリスト教ではよく「悔い改めよ」と言いますよねギリシャ語では「メタノイア」と言いますが、この語には反省するという意味だけではなくて、「視点を変える」という意味があるのです。RSLは、現場に出ることでそれまでとは異なる視座を与えられ、自分たちのありようを振り返るプログラムとも言えます。

原田 それは私たち教職員にも当てはまることです。一つでもよいのでRSLを経験してもらいたいですね。大学の運営は、ともすれば官僚的なルールや慣例に縛られがちですが、社会のリアルな問題に否応なく直面することで、「問題解決のために自分は何ができるか」という思考が芽生え、そうした意識で現場に関わることで、大学のさまざまな専門知が社会に生かされるのです。それこそが、「大学と社会との連携」の狙いなのです。

大前 それは私たちにとっても非常にうれしい一言です。私たちの協力が地域への貢献や学生への教育のみならず、研究にも生かされようとしている。NPOが大学と連携する意義を改めて実感します。

遠かった「社会の問題」が「自分の問題」に

藤枝 山本さんはRSLを受講して、日常生活や将来についての考え方に変化はありましたか?

山本 一番大きな変化は、どこか遠くにあった「社会の問題」が「自分の問題」になったことだと思います。授業や単位のためという枠を越えて、現場で自分に何ができるのかを考えながら向き合ううちに、「自分は社会を構成している一員で、社会に対して責任がある」と考えるようになりました。受講前までは、将来は教員になれるといいなと思っていたのですが、今は、社会的に弱い立場の人を支える仕事に就きたいと思っています。ただ、必ずしもそうした仕事でなくても、RSLで学んだことは無駄にはならないし、したくないと思っています。

西原 RSLを受講した学生の全てが直接的に社会貢献をする仕事に就くことはないでしょうし、その必要もないと思います。しかし、例えば金融業界に就職したとしても、栃窪の人々の生活が思い浮かべば、金融商品の設計や融資の検討をするというときに、日本の農村地域の問題を組み入れて考えることができる。そういう回路を組み込んで社会に巣立ってもらうことがRSLの狙いでもありますよね。

原田 その通りです。RSLの成果は科目数や受講者数の多寡ではなく、受講者のその後の意識変容や活動の変化、卒業後の生きざまという点から評価されるべきです。RSL組織はまだまだ脆弱(ぜいじゃく)ですが、科目数を増やすことには限界があるので、今後は、大学組織─学生─社会をつなぐ中間支援としての機能を拡充する必要があると考えています。

西原 RSLの受講者数は全学生数からすればごく一部。しかし、このプログラムが受講者の人生の指針や転機になり、また、彼ら彼女らが大学内でのアンバサダーとなって周りの学生にいい影響を及ぼすことを願っています。

大前 RSLは立教大学の宝物だと思いますね。これからも「第二のキャンパス」として協力させていただき、学生と共に地域も活性化していきたいという気持ちがより強くなりました。

藤枝 現場と大学をつないでくださるNPOは、RSLにとってもっとも大切なパートナーだと考えています。ぜひこれからもよろしくお願いいたします。われわれ大学スタッフも、学生、現場、NPO、教員と共に、RSLを育て、支えていきたいと思っています。本日は、ありがとうございました。

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