最強のチームに変える—タテわり・タコツボからシェアド・リーダーシップへ

立教大学

2017/06/06

研究活動と教授陣

OVERVIEW

もはや、一人のカリスマリーダー頼みでは生き残れない——。
組織改革に悩む企業や自治体などがいま、「シェアド・リーダーシップ」論に熱い視線を注いでいる。職場やチームのメンバー全員がリーダーシップを発揮する状態を指すのだという。
なぜカリスマ頼みではいけないのか、チーム全員がリーダーシップを発揮すると組織はどう変わるのか。それは、大改革を求められている大学にも活用できるか? シェアド・リーダーシップ論を提唱する経営学部長、石川淳教授に聞いた。(聞き手:読売新聞専門委員 松本美奈)

シェアド・リーダーシップの効果

  • 職場の業績アップにつながる
  • 創造的なアイデアが出やすくなる
  • メンバーが主体的に動くようになる

クリエイティブなアイデアが出やすい職場づくり

(左)松本美奈氏 (右)石川淳経営学部長

——まず、シェアド・リーダーシップ(以下SL)の説明からお願いします。
石川 職場やチームのメンバー全員がリーダーシップを発揮している状態です。リーダーシップとは、職場やチームの目標を達成するために必要な他のメンバーに対する「影響力」です。リーダーシップは、マネジャーなど権限を持つ人が発揮するものと考えられ
がちですが、影響力ととらえれば、平社員でも発揮するものです。そして全員が発揮すれば、職場やチームを強くします。
——「強くする」というのはどういう状態ですか。
石川 まず職場やチームの業績が上がる、いままでなかったようなクリエイティブなアイデアが出やすくなる、チームのメンバーがやりがいを持って仕事に取り組める。「強くなる」とはこういう状態です。仕事への満足感が高まります。
——1人のリーダーが牽引する、従来型のリーダーシップではなぜだめなのですか?
石川 取り巻く環境の複雑性や不確実性が高まり、どれほど優秀なリーダーでも、1人だけの意思決定ではうまく対処できなくなっています。それぞれが持つ仕事が専門分化し、1人のリーダーがすべてを把握した上で指示したり仕切ったりするのが難しい側面もあります。さらに、高度経済成長時代のような、欧米に追い付き、追い越せといった明快な目標が見つけにくいことも大きい。
カリスマの代表例といえば、例えば、ダイエー創業者の中内功氏。神戸の一小売店から全国展開を果たし、一時代を築きました。あるいは、スカイマークの西久保愼一氏。私財を投じてスカイマークを立て直そうとしました。けれども、いずれも最後は……。ご存じの通りです。

タコツボから新しいアイデアは生まれない

——時代の変化に、カリスマリーダーの成功体験が通用しなかった、という教訓を読み取れそうですね。
石川 そうです。大事なことは、変革の種は現場にあり、カリスマリーダーではその種を拾いきれないという現実を直視すべきだということです。そもそも、大きな組織で上に立つ人が、現場に落ちている種をいちいち拾えるわけがない。ならば、現場に任せればいいわけです。私が関わった事例をご紹介しましょう(CASE1、CASE2)。
——ここから学ぶべき教訓は?
石川 現場にいるエキスパートの力を使うことの重要性です。エキスパート、専門家というと、研究者を思い浮かべがちですが、行員も教員もエキスパートで、その力を最大限に引き出せなかったことが、職場を強くできなかった原因の一つです。エキスパートが自分の専門分野、「タコツボ」に入って出てこないことはよくあることですが、タコツボでは新しいアイデアは生み出せないことを忘れてはいけません。

「自分にとって損か得か」を超える

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——SLで職場やチームのミッション、目標を達成するとなると、職場やチームがミッション、目標を持っていることが前提です。このこと自体が難しいと感じています。
石川 そうです。しかも、単に掲げるだけでなく、共有されていることが大切です。共有とは「知っている」ではない。「そのために貢献したい」とチーム全員が思うことです。
——ミッションが共有されていれば、目標は立てやすいですね。
石川 そうです。企業ならば長期計画を立て、ブレークダウンしていく。例えば3年後にこうなるために、1年後にはここまで、1年後にこうなるためには半年後に……と。どんどんブレークダウンすれば、今日1日何をするかがおのずと決まってくるのです。
——なるほど、目標が近ければ行動しやすいですね。脱線しますが、その発想法を学生にどう伝えていますか。
石川 ゼミ生にはよく、「死ぬときを考えてみようよ」と話しています。何歳まで生きたいか。そのときにどんな人生を送りたいか。例えば、定年が65歳だとしたときに、50代、40代、30代とさかのぼって、いまが決まってくるわけです。どんな人生を送りたいか、そのためにどんな働き方をするかが決まってきます。
とにかく、学生はとても視野が狭くなりがち。だから、就活の時も、コマーシャルで名前を知っている会社にしか行きません。自分の人生に1本の筋を通して考えるという作業が大事だと思っています。
——視野の広さ、社会的な視点は、SLにも必要ですね。
石川 そうです。現場の視点は当然大事ですが、現場の視点しかないのはだめ。自分の役割は職場の中で何を担っているのか、職場は組織全体から何を期待されているのか、組織は社会全体から何を期待されているか。「視点の変化」が大切です。SLでは、一人一人が正しい意思決定をすることが求められます。正しいというのは、自分の仕事にとっても正しいし、職場にとっても、組織にとっても、社会にとっても正しい。そういう決定をしなくてはいけないので、社会的な視点は必要です。
——SLには、チームのメンバー相互の信頼感も大切です。醸成するために大切なのは?
石川 一つは違いを認める勇気です。自分と違うことを否定せずに、受け入れ、なおかつ自分の主張もきちんと言い、その違いの中から新しいものをつくり出そうとする勇気です。
もう一つは、「損得」を超え、「正しいかどうか」で行動を決められることでしょう。子どもの行動決定基準は、「好きか嫌いか」。すこし大きくなると、自分にとって「得か損か」になる。学生もそうですよ。けれども、本当の大人は、「自分にとって損だけれども、正しいからやる」と言えなきゃだめです。もうかればいいという会社を経営するとか、自分さえ良ければほかの人はどうなってもいいという経済人ではなく、自分にとっての損得を超えて判断ができる人。そういう人を育てることは、キリスト教の大学にある経営学部としてのミッションです。

日本の大学全体を「強く」する

著者:石川淳 出版社:中央経済社 発行:2016年12月 価格:2,400円(税別)

——SLが必要な組織、その筆頭は大学ではないかと感じています。
石川 二つの視点から同感です。長年、日米欧の研究者の比較研究をして分かったことは、欧米の研究者は、自分の専門以外にも興味関心を広げ、専門以外の人ともネットワークを築き、クリエイティビティに結び付けるのが得意です。これに対して日本の研究者は、専門分野に閉じこもっている人が多い。専門以外のことは何も知らない研究者が優れていると考えている人もいるようです。
もう一つは、日本の学者は、大学の一員であることを理解していないようです。リーダーシップは組織のミッション、目標に到達するための影響力であって、それも理解せずに自分勝手にやっているのでは真の意味のリーダーシップとは言えません。
——立教大学の経営学部は2006年に開設されました。SLは経営学部で共有されていますか。
石川 ミッションやビジョンを共有することが大事だと教授会で合意ができています。学部としてPDCAを回していくための取り組みも行っています。経営学部では、それぞれの教員が得意分野で力を発揮しています。BLP(Business Leadership Program:自分なりのリーダーシップを育成するためのプログラム)、学部間の交換留学(学費相互免除で単位交換可能な半期もしくは1年間の留学プログラム)、大学院のMIB(Master of InternationalBusiness:すべての科目が英語で展開され、世界中から学生が集まる修士プログラム)など、ユニークなプログラムを、いずれもその分野を得意とする教員がリーダーシップを発揮して進めています。SLが発揮されていると考えています。
一学部、一大学だけでなく、日本の大学全体を見渡した役割分担も必要です。立教大学が重視しなければならないのはやはり教育です。もちろん、いい教育をするためには、その前提となる優れた研究も大事です。逆に、研究に特化した大学は、立教大学のように
教育が優れた大学に、学部教育を任せれば良いと思います。
——日本の大学全体でシェアド・リーダーシップ、いいですね。
石川 研究メインの大学がエラくて、教育はだめ、なんてつまらない序列を排除して、お互いにリスペクトすればいいのです。それぞれが得意を生かし、次世代を育てる。SLで新しい日本、いや世界をつくれるはずです。

(2017年3月2日取材)
体育会や職員のリーダーシップ研修

テニス部(男子・女子)でのリーダーシップ研修

立教大学のリーダーシップ教育は、体育会や職員の研修にも取り入れられています。

体育会からの要請を受け、部員やOB・OGに対するリーダーシップ研修を実施しています。これまでに、女子ラクロス部、テニス部、アイスホッケー部で実施しています。また、2014年には、立教学院人事部の職員研修の一環として「リーダーシップワークショップ」を実施しました。

プロフィール

PROFILE

石川 淳、松本 美奈

右:石川 淳(いしかわ じゅん) 
経営学部長・経営学部教授
慶應義塾大学経営管理研究科博士課程修了。帝国臓器製薬(現・あすか製薬)、山梨学院大学専任講師などを経て2003年4月、立教大学社会学部助教授着任。
2014年4月から現職。著書に「シェアド・リーダーシップ」(中央経済社)。博士(経営学)。

左:松本 美奈(まつもと みな)
読売新聞専門委員
2008年から読売新聞「大学の実力」調査を担当。偏差値や知名度に頼らない進路選択のための情報提供を目指した調査で、2016年度の調査は『大学の実力2017』として中央公論新社より出版。共著に『特別の教科 道徳Q&A』(ミネルヴァ書房)ほか。社会保険労務士。

※記事の内容は取材時点のものであり、最新の情報とは異なる場合がありますのでご注意ください。

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