立教大学出版会

採択作品


『ワイマール期ドイツ労働組合史―職業別から産業別へ』

枡田大知彦 著

 

 

 本書は、ワイマール期ドイツにおける労働組合運動、ひいては労使関係を、「組織問題」という視角から見つめ直してみようとする試みである。数多ある労働組合運動に内在する問題の中から、「組織問題」という問題、視角を選び取った理由は複数あるが、その一つを記せば、以下のようなものとなる。
  第一次世界大戦後のドイツでは、労使関係制度のあり様が激変し、それに伴い労働者、被用者の間の連帯感、ドイツ語で言うゾリダリテート(Solidarität)という目に見えないものが大きく揺れ動いた時期にあった。そうしたものの変容、それをめぐる議論の展開の過程を詳細に辿れば、当該期の労働組合運動の特質が見えてくるのではないか。言い換えれば、連帯感、編成原理といったものの「揺らぎ」がワイマール期の労働組合のありかたをよりよく表すものではないか、と考えたわけである。
  そこには、ひとびとが集う基準、個人と個人を結びつけるつながり、連帯感のようなものが、どのように生み出され育まれていくのかを知りたいという、筆者のそもそもの関心がある。そうしたことを具体的にいえば、ゾリダリテートの歴史を、敗戦と革命を経て帝政から共和制への移行がなされ、かつ大衆文化が開花したワイマール期ドイツを舞台に考え描いてみたかった、というのが、正直なところ、本書を著した大きな動機である。
  ドイツの労働組合は、職業別に組織されたクラフト・ユニオンを主たる起源とするが、第一次大戦直後は、それらを産業別に編成し直そうという抜本的な大改革が行われようとした。このことに起因する諸問題こそが「組織問題」である。本書で登場する労働組合の指導者たちは、それぞれ目的をもち、さまざまな「旗」を掲げ、労働者・被用者を、組織化し、あるいは組織し直そうとし、また動かそうとした。そうした「旗」、およびその正当化をめぐる諸議論の展開過程が本書の中心的な対象である。
  まさに現在、「雇用危機」という問題、とりわけ非正規雇用者と正社員の関係、分裂に関する諸問題に表れるように、わが国において被用者間の連帯感の「揺らぎ」は顕著である。現在の状況を明確に想定し準備されたものではもちろんないが、こうした現状に対し本書が提示できるものはあるのか、あるとすればそれはなんであるのか。この点のご判断は、本書を手にとっていただいた皆さんにゆだねるほかないが、その考察の一助となればこれにまさる喜びはない。


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