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教員紹介

先住民族サーミを伝えること
~伊勢丹クリスマス・キャンペーン2014『Life is a Gift』に協力して~

交流文化学科教授 葛野浩昭

学術的な研究と社会的な広報:先住民族に関わる作業とは?

 ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北極圏地域の先住民族であるサーミ(北サーミ語でSápmi)の社会・文化を対象として私が続けてきた文化人類学的な研究は、今年2015年でちょうど30年目になります。

 サーミは人口が約8万人の民族で、その広大な居住地域(Sámi Eatnan、通称ラップランド)は「ヨーロッパ最後の大自然」、サーミも「ヨーロッパ最後の遊牧民」と呼ばれて、広く人々の関心を集めてきました。1996年にはスウェーデン北部地域の自然環境とサーミのトナカイ遊牧文化とがセットでユネスコの世界遺産(自然・文化複合遺産)に登録され、テレビや雑誌などのマスメディアで取り上げられる機会も少なくありません。観光の文脈でも同様で、オーロラや白夜の大地として、またトナカイやサンクロースの故郷として、世界中から数多くの観光客が訪れています。ごく最近の話題に触れるなら、ディズニー映画『アナと雪の女王』の舞台としても人気が高まり、たとえば、この冬2月に私はゼミ生たちと一緒に北欧北極圏地域へ出かけますが、北欧へ向かう国際便や北極圏へ向かう国内便は例年以上に混雑して手配が難しくなっています。

 このようにサーミは各方面で注目度の高い民族であるためか、以前から私には、一般書・一般雑誌への記事執筆やテレビ番組の監修・出演など、本業として身を置く学術業界や大学業界の外側で、サーミ(やトナカイ、あるいは関連してクリスマスやサンタクロース)を広く社会へ紹介する作業が期待されてきましたし、私自身、こういった「社会広報」的な作業の方を学術的な作業よりも意識的に優先して引き受けてきました。

 と言うのも、苛烈な抑圧の中で生きることを強いられてきた、そして今も現に強いられている先住民族を研究する私たち文化人類学者は、自らの学術的な研究を、先住民族自身の政治的な復権運動から切り離した形で、学術至上主義的に行なうことの理不尽さを実感し反省しているからです。もちろん学術の発展も大切ですが、先住民族の復権はもっと切実な人類全体の社会的課題です。学術的レトリックを駆使することで自らの研究活動に「価値中立性」や「客観性」を漂わせることも可能で、そういったことは研究者にとって必要なスキルでもあるのでしょうが、先住民族社会に長期間、そして何度も繰り返して居候をお願いし、人々のお世話になりながら研究を進めているフィールドワーカーにとって、それは決して好ましい姿勢ではありませんし、そもそも「人の生き方」としても後ろめたさ無しに選択できる姿勢ではありません。先住民族研究においては、学術的な研究と「社会広報」的な作業との間に優劣の差などなく、肝心なのは、まずは先住民族の利益や未来のために、先住民族について何を、どのように広く社会へ伝えるか、を自省的に判断・実践し続けることの方でしょう。

 そんなことを考えながらサーミの研究を続けている私に、昨年の初夏、伊勢丹グループから、新たなクリスマス・キャンペーン「Life is a Gift」「文化多様性の旅」の第1回目をサーミ文化の紹介で始めたいとの協力依頼が届きました。百貨店のキャンペーンに本格的に関わることについては、正直言って、当初は大きな戸惑いと逡巡がありました。単純かつ身勝手に想像してしまうと、キャンペーンがサーミの商業的消費(他者の人生を勝手に商品化してしまうこと)に繋がりかねないと危惧したからです。それは長い間、多くのサーミが拒み、厳しく批判してきたところでもあります(たとえば、1981年に北欧サーミ会議で採択された「サーミ政治プログラム」は、「サーミ人以外の人びとが、われわれの土地やその自然資源、および、われわれの伝統文化や文化物を、自分たちの商売目的に利用することを、われわれは決して認めない」と宣言しています)。

 しかし、この企画を立案し形にしようとしていた(株)日本デザインセンターの人々も、主催する(株)三越伊勢丹ホールディングスの宣伝部等の人々も、サーミが経験してきた抑圧の歴史に関して、ある程度のリサーチは進めており、それゆえに、サーミの文化を表現し社会へ伝えることには、きわめて慎重な配慮が必要であることも理解していました。誤解を恐れずに言えば、サーミとしっかり対面してサーミを表現することに関して、「まっとうな臆病さ」を持ってくれていました。私が最終的に総合監修という協力、言い換えると、キャンペーン内容の全体的なチェックの責任を引き受けることにしたのは、それゆえです。

 今回のキャンペーン(2014年11月6日~12月25日)は、

(a) サーミのヨイク(詩歌)を素材とした、伊勢丹新宿店本館およびメンズ館のウインドウ・ディスプレイや店内装飾 (および、それを簡易な形にした全国各店舗での展示や装飾)

(b) サーミを伝える小冊子(全36ページ)の発行

(c) サーミを伝えるウェブサイト(日本語版・英語版)の公表

(d) サーミを伝えるパネルや物質文化の展示

(e) サーミのヨイクのコンサート

等々、多岐にわたる内容を含む巨大な企画で、そのすべての準備作業に私が直接に関わったわけではありませんので、ここでキャンペーンの全体像の詳しい紹介はできません。上で述べた「サーミについて何を、どのように広く社会へ伝えるか」という課題へ向けて、私自身が行なった対応の概要についてのみ、以下、

(1) サーミ文化の<特質>を伝える

(2) サーミ文化の<多様性>を伝える

(3) サーミ文化の<現在>を伝える

の3点に分けて具体的にお伝えしてみたいと思います。

 

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