2018/12/12 (WED)

第31回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」受賞者決定

キーワード:その他

OBJECTIVE.

第31回「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」の受賞者が以下の通り決定しました。

【受賞者氏名】
岩谷 秋美(いわや あきみ)氏
(東京藝術大学大学院美術研究科・大学院専門研究員)

【受賞対象業績】
『ウィーンのシュテファン大聖堂——ゴシック期におけるハプスブルク家の造営理念』(中央公論美術出版、2017年)

「辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金」は、故・辻荘一名誉教授(音楽史)および故・三浦アンナ元教授(美術史)のキリスト教芸術研究上の功績を記念し、キリスト教音楽またはキリスト教芸術領域の研究者を奨励するため、1988年に設置されました。

「音楽史」部門および「美術史」部門の研究者に対し1年ごとに交互に授与されますが、本年度は「美術史」部門が対象となります。

授与式:2019年2月2日(土)11時から
立教学院諸聖徒礼拝堂(池袋キャンパスチャペル)

レセプション:同日 12時15分から
池袋キャンパス セントポールズ会館2階
選考理由
岩谷秋美氏は、ドイツ・ゴシック建築の代表作であるウィーンのシュテファン大聖堂を研究対象とし、複雑な造営過程の綿密な考察を通じて、キリスト教建築の審美的問題に意欲的に取り組み、その理解に大きな貢献を果たした。これまでのゴシック建築研究ではフランスの聖堂が考察の中心であり、ドイツ・ゴシックは地方色の濃い、一般化の困難な分野として見なされてきた。また、とりわけ日本国内では工学系の研究手法が主流を占めてきたが、岩谷氏の研究では、聖堂空間の荘厳な視覚的効果に着目した造形分析、および建築形態が示す建築図像の解釈が行われ、当時の人々のキリスト教的世界観に果たした聖堂建築の意義が生き生きと論じられている。

今回の受賞対象となった業績は、岩谷氏が2011~2013年のウィーン大学美術史研究所での調査研究を経て、2014年に東京藝術大学に提出され、博士号を授与された学位論文を発展させたものである。ウィーンのシュテファン大聖堂は、現在では司教座聖堂として重要な位置を占めているが、元来は一教区教会にすぎなかった。前身となった旧聖堂では、都市の宗教上の優位性を確立するために司教座の設置が目論まれ、中世を通じて造営・改築が進められた。それは最終的に1480年、ハプスブルク家のフリードリヒ3世(皇帝在位1452-1493年)時代に大聖堂の昇格へと結実する。

本著は、聖堂の外観と内部空間に関する二部構成からなる。序論において豊富な先行研究が整理された後、第Ⅰ部では、12世紀から15世紀後半に及ぶ聖堂外観の推移について、彫刻、絵画も踏まえた考察が進められる。まずはバーベンベルク家と、次いで君主となったハプスブルク家による造営状況が前史として確認される。続いて、ルドルフ4世(在位1358-1365年)が付加した建築図像の分析がなされた上で、ハプスブルク家の分裂期に市民主導で進められた部分については都市聖堂という新しい特徴が指摘され、最終的にはフリードリヒ3世が再びハプスブルク家の造営主として建造させた新要素と、以前から存在していた建築との調和に意図的な創意を読みとり、そこに「皇帝大聖堂」という理念を明らかにした。

第Ⅱ部は、殊に造営の最終局面に着目し、フリードリヒ3世が内部空間で試みた、宗教的高揚感を促す「荘厳空間の創出」に焦点を当てる。具体的には段形ホール式という特殊な建築タイプと独創的なネットヴォ—ルトの導入により、それまで受け継がれてきたゴシック建築の伝統的諸要素に、ルネサンスへと移行していく新たな息吹が与えられ、両者を宗教建築に期待される秩序と機能の中へ取り込むことによって、シュテファン大聖堂をウィーンの新しい時代の幕開けを告げる記念碑と位置づけた。

こうした結論は、中世ゴシック聖堂を一つの完成体としてではなく、むしろ為政者の政治的意図に敏感に反応し、都市の歴史的変遷とともに転生していく空間芸術として総合的に捉える、きわめて独創的な視点を含んでいる。あわせて本著は、宗教感情が造形化されてゆく過程を解明するとともに、中世末期におけるキリスト教的世界観とその中心としての聖堂建築の役割を明らかにしている点でも意義深い。

辻荘一・三浦アンナ記念学術奨励金運営委員会は、以上のような成果を高く評価し、2018年度の学術奨励金授与を決定した。

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