ニュース

葉緑体分裂のしくみ解明:分裂ナノマシン本体の遺伝子(KUSANAGI)発見

2010.09.02

立教大学理学研究科極限生命情報研究センターの吉田大和博士研究員と黒岩常祥特任教授らの研究グループは、山口大学などと共同研究を行い、地球上のほとんど全ての生物の生存を支えている植物の葉緑体分裂の分子機構を解明しました。当グループは単細胞藻類シゾンの細胞から葉緑体装置(ナノフィラメントの束からなる分裂マシン)を取り出し、ポストゲノムの解析手法を駆使して、分裂の主役となるフィラメントとその構築に関わる遺伝子(KUSANAGI)を発見しました。研究の成果は米科学誌『Science』(2010年8月20日電子版)に発表され、単離された葉緑体の分裂マシン(リング)の免疫電子顕微鏡写真は、「表紙」を飾りました。

葉緑体は太陽の光エネルギーを使い、光合成によりCO2を固定して温暖化を防ぐとともに、O2を放出し、食料、医薬品、燃料などを作りだし、全ての生物の生存を支えています。葉緑体は、20億年ほど前に宿主生物の細胞に共生したバクテリアの子孫と考えられ、独自のDNAを含み植物細胞内で分裂・増殖しています。当グループはほとんどの植物の葉緑体が独自の分裂マシンを使って分裂・増殖することを発見しておりましたが、その分子機構は分かりませんでした。その理由は、高等植物・藻類では細胞当たりの葉緑体の数が多いこと、それらがランダムに分裂することでした。

この問題を解明するため、当グループは葉緑体を1個しか含まない単細胞紅藻シゾン(Cyanidioschyzon merolae)を使って次のように研究を進めました。

まず葉緑体分裂を光の明暗で同調化させます。次に細胞から葉緑体の分裂マシン(直径5-7ナノメートル〔1 nm = 0.000001 mm〕のフィラメントの束)を、従来の方法(Science 2006;Curr Biol. 2009)を改良して取り出します。取り出した分裂マシンに含まれる超微量の全タンパク質を、ゲノム情報(Nature 2004)やマイクロアレイを主体とするポストゲノム情報(Plant Cell 2010)を駆使し、高度MALDI TOF-MS (質量分析装置)を使って分析し同定します。解析結果を総合し、分裂マシンの本体となるナノフィラメントを合成するタンパク質(PDR1)とその遺伝子を同定しました。また今回同定されたPDR1タンパク質には、植物の要である葉緑体を二つに分断する様子から、古事記に登場する日本武尊の草薙の剣にちなんでKUSANAGIの愛称をつけました。さらにKUSANAGIタンパク質が分裂マシン内に局在していることを蛍光・免疫電子顕微鏡法で確認し、その機能は遺伝子を破壊した時に葉緑体の分裂が停止することで証明しました。分裂マシンを主に構成するナノフィラメントはグルコース(糖)のポリマーでできていることを最後に確認しました。

以上の結果から、葉緑体分裂マシンは30種あまりのタンパク質から構成されており、その本体はKUSANAGIによって合成された糖のナノフィラメントの束であること、これらのフィラメントがGTPaseであるダイナミンタンパク質と相互作用を行い、滑り込むことによって、収縮し、最後に葉緑体が分断し、二つの娘葉緑体ができることを突き止めました。

黒岩特任教授は、「生命科学での研究が著しく進み、従来の方法の枠を超えて高度な技術を持つ皆さんの協力を得て、新規な現象を解析しなければ論文発表が難しくなりました。今回の成果は、吉田大和博士研究員による解析を中心に、ポストゲノムは藤原崇之博士研究員、MALDI TOF-MS解析は吉田昌樹博士研究員、遺伝子破壊は大沼みお博士研究員、そして表紙を飾った免疫電子顕微鏡写真を含む顕微鏡解析などは特別嘱託職員の黒岩晴子博士研究員の協力を得てなされました。この他にも糖の分析においては山口大学やその他の方々の協力を得ました。」と述べています。

今回の成果により葉緑体分裂の全貌解明が進むことが予想されます。葉緑体のナノフィラメントの束による分裂マシンは、20億年前に共生した光合成をおこなうシアノバクテリアの分裂・増殖の制御にも使用された可能性も高く、真核生物の誕生機構の解明に大きく貢献すると思われます。また論文でも明らかなように、シゾンの分裂マシンのKUSANAGI遺伝子は比較ゲノム解析の結果、高等植物にも保存されていることが分かっており、従って、葉緑体の分裂マシンの制御が可能となり、高効率な二酸化炭素固定藻類・植物の生産による環境問題対策、高生産性の作物の作出など食料問題の解決に貢献することも期待されます。また、類似の分裂マシンはミトコンドリアの分裂や脳の小胞形成の際にも現れることから、KUSANAGIに類似した遺伝子がこれらにも関与していることが予想されるため、今回の成果が生命科学全般に影響を与え、医療などの応用への展開が期待されます。

本件に関するお問い合わせ先

立教学院広報課 TEL:03-3985-2202 FAX:03-3985-2427 email:koho@rikkyo.ac.jp

ニュース一覧へ

ニュース検索

ページの先頭へ戻る

立教学院デザインガイド モバイルサイト
池袋キャンパス(広報課)
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
TEL:03-3985-2202
新座キャンパス(新座キャンパス事務部)
〒352-8558 埼玉県新座市北野1-2-26
Copyright © Rikkyo University. All Rights Reserved.