2009.04.07
理学研究科極限生命情報研究センター黒岩常祥特任教授との共同研究により、名古屋大学院理学研究科の東山哲也教授と佐々木成江准教授らは、高等植物の受精に必須な花粉管を助細胞へと誘導する物質2種(デフェンシン様タンパク質)を同定しました。伸長する花粉管の先方にこの物質を滴下すると、花粉管の先端はその滴下方向を向き追尾します。その様子は、まさにマスが疑似餌「ルアー」を追う軌跡に似ていることから、この誘導物質は「ルアー」と名付けられました。この成果は、140年前に現象が発見されて以来の謎が分子レベルで解明された画期的な発見であり、先日英国の権威ある『Nature』誌(458, 357-361 2009)に発表され、ルアーを追う花粉管で“N”と描いた画像はその表紙を飾りました。
高等植物では、花粉がめしべの先(柱頭)に受粉し、そこから花粉管が二つの精細胞を運びながら、根元の珠皮につつまれた胚嚢に達し、一つの精細胞は卵細胞と、もう一つは中央細胞と受精します(重複受精)。黒岩教授らは、これまで受精に関しては母性遺伝現象の解明、性決定遺伝子「オトコギ」(Nozaki et al. Curr. Biol. 2006)や精細胞と卵細胞の受精誘導遺伝子「ユイノウ」(Mori et al. Nature C.B.2006)の発見をしてきました。しかし、40年余り形態学的研究を続け、受精に助細胞が関与している示唆を得ましたが(Kuroiwa, H. Bot. Mag. Tokyo, 1989)、多くの植物では胚嚢が胚珠層の奥にあるため、物質の同定には至りませんでした。
そこで、胚嚢が胚珠から突出しているトレニアを研究材料とし、体外受精系を確立し解析を進めたところ、柱頭を通過した花粉管の先端が胚嚢を目指して伸長し、胚嚢の先端から進入することが分かりました(Higashiyama et al. Plant Cell 1998)。では、花粉管はどのような物質に導かれて胚嚢に到達するかです。胚嚢内は助細胞、卵細胞など7-8個の細胞からなります。そこで、光レーザーでこれらの細胞を順に破壊し、花粉管の受精能を調べました。その結果、助細胞を破壊した時のみ花粉管の誘導が起こらず、助細胞が誘導物質を分泌していることが明らかとなりました(Higashiyama et al. Science 2001)。それから8年間、東山博士らは沢山の助細胞を集め生化学的実験を繰り返しましたが、物質の同定には至りませんでした。しかし名古屋大学に移り、新たな研究室を立ち上げ、分子生物学的な解析法を導入することによって、世界で初めて花粉管誘導物質の正体を明らかにすることに成功しました。
【黒岩教授のコメント】
苦労して助細胞を集め生化学的実験を繰り返したが、どうしても物質の同定に至らなかった頃、独創的な技術を開発し研究を進める東山助手を、名古屋大学理学研究科が評価して34歳の若さで教授に招聘してくれました。そこで、分子生物学的解析とユーモアのセンスある佐々木博士、奥田君をはじめ根気ある学生、PDそして多くの共同研究者の協力を得て、今度は助細胞の遺伝子発現の方向から解析を進め、ついに「ルアー」の同定に至ったのです。この知見は、今後、更に多くの画期的発見を生み出す第一歩となる歴史的な成果だと思います。
私は若い彼らを連れてしばしば海や川などに釣りに出かけました。湖水でルアーを使ってマスを釣った経験がこうして生かされるのを大変嬉しく思います。
新年度を迎えた今、新入生は希望に満ちて入学してきていると思います。是非、自由の学府で知的好奇心の赴くままに学び・研究し、個性を発揮して楽しい大学生活を送って欲しいと思います。
『Nature』 19 March 2009
(最初のLURE滴下(緑)と二度目の滴下(赤)に注意)