通訳者は「何も足してはならない、何も引いてはならない」透明(“invisible”)な存在か、それとも、インターラクションになんらかの影響を与える“visible”な存在か。これまで様々な議論がなされてきました。本講演でアンジェレーリ氏は、ご自身が医療通訳者達を対象に行った調査をもとに、通訳者がいかに“visible”な存在であるかを示されました。
このお話の内容に、私は強く共感を覚えました。アンジェレーリ氏によれば、医療通訳者は、医師と患者との間で、2者の「信頼関係を築く」「文化の溝の橋渡しをする」など、「会話の交通整理」という役割も担っており、医療通訳者達自身もこれを意識しているということでした。私も、通訳訓練の授業の中で、通訳者にこのような役割があることを実感していました。例えばニュース放送を通訳する際には、“President Bush said on Wednesday that . . . ”などという部分を「水曜日」とせず、「21日」というように、日付を用います。日本の報道ではそれが慣習だからです。
このように、通訳者は単に言葉を別の言語に置き換えるだけではなく、通訳をする状況や、聴いている相手を考慮し、時には「足したり引いたり」することで、等価性を実現するのだということを、私は今回の講演を通じて再確認しました。