2008年度
連続公開シンポジウム
未来の声を聴こう

女性が社会でどれくらい活躍しているかを示すGEM(Gender Empowerment Measurement/ジェンダー・エンパワーメント指数)という指標がありますが、日本はOECD加盟国のうち下から4番目です。政治家、企業の管理職などに占める女性の割合は、10%に過ぎません。女性の賃金水準は男性の3分の2とあまりに低く、是正の勧告を受けています。
わが国で女性が働きづらい最大の理由は、日本人の労働生産性の低さにあります。生産性がOECD平均の8割、アメリカの7割ということは、逆に言えば、日本人は同じお金を稼ぐのに、欧米人より2、3割余計に働かなければならないことになります。その結果、正規社員なら10時間労働は当たり前。しかしこれでは、子どもを持つ女性が働き続けることは不可能です。
第一子を出産した女性の7割が離職してしまうのは、そのためです。企業からすれば、辞められると社員として育てるためにかけた費用はムダになりますから、女性の採用を一般職に限ったり、派遣社員に切り替えたりします。しかしそれが、さらに女性への投資効率を下げる結果になっているのです。
教育費をはじめ、子育てにかかわる家計の負担が大きいわが国では、特に所得の低い若い夫婦が子どもを持つには、共働きしかありません。ところが、子どもを持った途端に、労働時間が壁となり、女性はまともな収入を得られる仕事ができなくなります。働く女性の出生率が、わずか0.5である事実はこのパラドックスをはっきりと物語っています。
働く女性が子どもを産める環境を整えない限り、少子化を食い止められないことは明らかです。そのためには、保育施設の拡充はもちろん、過剰労働の解消など、労働環境の改善にも重点的に資源配分を行う必要があります。
これは結果的に、働き過ぎの男性をいたわることにもつながります。ただし、男性にはもっと、子育て・家事への参加をお願いしたい。労働時間が長いことを差し引いても、日本の男性はあまりにも家庭を顧みません。夫の非協力のせいで第一子の育児が過酷過ぎたために、2人目を産まない女性が多いことは、実証されています。
男女共同参画というと、女性が男性並みに働くイメージがありますが、これは違います。男女の働き方のバランスをとり、双方がもっと楽に暮らせる社会をつくるということなのです。

若い世代が子どもを産み育てるためには、希望と時間とお金が必要だと考えています。
そして、日本の若者に希望も時間もないことはすでにお話ししました。最後はお金です。
先ごろ、厚生労働省がわが国の相対的貧困率(所得が中央値の半分に満たない世帯の割合)を発表しました。15.7%と、大変高い数字です。
最も大きな要因は年代別賃金格差で、若年層ほど貧困率は高くなっています。またシングルマザー世帯の貧困率は58%と極端に高く、これには早急な対策が必要です。
現民主党政権は、「子ども手当て」の支給をマニフェストでうたっています。予算規模はGDPの1%程度ですから、まだまだ潤沢というほどではありませんが、1歩前進と言えるでしょう。
私は昨年出版した『日本を変えよう』という本の中で、15の提言を示しました。その中には、ワーキングプア対策や家族省の創設など、本日のテーマに大きくかかわるものが含まれていますが、中でも効果的と思われるアイデアを、最後にご紹介します。
それは「総労働時間の規制」。例えばヨーロッパでは、週40時間程度に制限されています。これが日本でも実現すれば、過度の競争がなくなり、自然にワークシェアが行われます。女性の働く場が増え、正規・非正規の不均衡も改善されるでしょう。
これまでバリバリ働いていた男性は、収入が減るかもしれませんが、その分妻が働ければ、家族全体の収入はより安定し、子育てにかけられる時間の余裕もできます。つまり、さまざまな問題が、一気に解決される可能性があるのです。
少子高齢化は、環境問題同様、数十年後に大きな危機をもたらしかねない深刻な問題だということを、まず認識していただきたいと思います。その原因は私たちの意識に深く根差しているだけに、解決は容易ではありません。国民一人ひとりが、地道に少しずつ行動を変えていくこと。そして、上げ続けた声が広がっていき多数派となったとき、変化が生まれ、解決への道が開けるのです。
※2009年11月14日に行われた講演を基に、要約、加筆・訂正の上掲載しています。