2008年度
連続公開シンポジウム
未来の声を聴こう

寺田 私もにおいや風、紫外線など、その場所を五感で感じられたらいいなと思いつつ、結局は視覚にとらわれた旅をしているように思うのですが……。
角田 一番印象に残るのはやっぱり視覚ですよ。私の言う五感は、もしかしたらその場で感じているのではなくて、そこで書いた短いメモを頼りに、後から追体験、再構築しているのかなと思うことがあります。この景色を見ていたとき、実は肌がジリジリしていた、という具合に。
中西 においについては、僕にも経験があります。二度目にホーチミンに降り立った時に、においで「あぁベトナムに帰ってきた」と懐かしい思いがしました。そして似たにおいを日本で嗅ぐと、フラッシュバックしてしまうんです。
角田 私も、例えば明け方に突然、「あ、バンコクのにおい」と感じて、光景がフラッシュバックすることがあります。
村上 カナダで暮らしていた時に、針葉樹のヤニのにおいが清々しかったのですが、秋田に行ったら秋田杉の森もカナダのにおいがしたんです(笑)。においは記録できないので、突然記憶がよみがえるんですね。
チャトウシカ 一人旅の場合、そこの国の人の話を、そのまま信じることはできますか? 外国人だからと、いい加減なことを言うかもしれませんよね。
角田 一人旅なら全面的に信じるかもしれないです。ただ最近、宗教や性格によって、言うことが随分違うのではないかと思えてきました。
チャトウシカ 留学生として日本に住むようになって、自分の国について、今まで考えてなかったことも考えるようになりました。角田先生は、旅をしている間にそうしたご経験はありますか?
角田 旅をして、日本はこうだったと改めて気付くことは多いです。例えば、成田に戻った時「日本人はしゃべらない」と気付いたことがあります。海外なら、誰かが列に割り込んだら言葉で注意するけど、日本だとみんなでギロッとにらみますよね。つくづく念力の世界だとびっくりしました(笑)。
中西 人類学者も、若い時と今と、10年先で、研究の仕方が違ってきます。角田先生の場合、将来どんな旅をしたいとお考えですか?

角田 もうバックパッカーは、体力的に無理ですが、セレブ旅行は自分には向かないし…と模索中です。経験の中から何を取り入れて、そこに年齢を加味して、いかにオリジナルな旅を創るかがこれからの課題だと思っています。
村上 男女で旅に対する感覚の違いがありますよね。男の旅行者にこうあってほしいということはありますか?
角田 未知の場所に行って、口をポカンとあけて、こんなところがあるんだと感動できる人がかっこいいと思います。
モンゴルの、360度見渡す限り何もないすごい景色のところで、スケッチ旅行をしていたおじいちゃんが平然と一言、「北海道と似てるなぁ」と(笑)。自分はいろいろなものを見てきたから、すごい景色に驚いたら恥ずかしいという気持ちがあったんでしょう。でももったいないですよね。
村上 反対に、女性におすすめする旅の仕方があれば教えてください。
角田 旅をする上で、女性であることは不利だと思っていました。例えば、男性のように気軽に野宿もできないですし。でも最近、考えが変わりました。
女性には慎重な一人旅をぜひおすすめしたいと思います。どんな国でも、親切にされることが多いですから。それも性的な意味ではなく。
親切にされた時に私たちの中に信頼が生まれます。女性は女性なりの感じ方で、「人は信じてもいい」とか、「世界はこんなに秩序立っている」とか気付くはずです。旅でしか、それも女性にしか学べないことがきっとあります。
村上 先日観光に関する大きな国際会議があり、そこで「観光は国と国、社会と社会の関係ではなくて、人と人の信頼だ」と言っていたのを思い出しました。本日は興味深いお話をありがとうございました。
※2009年12月5日に行われた講演を基に、要約、加筆・訂正の上掲載しています。