2009年度 第5回 連続シンポジウム 未来の声を聴こう

渋滞を分野横断的に考える「渋滞学」

写真提供:JAF Mate
写真提供:JAF Mate

私は、渋滞という現象の仕組みや解消法を数理科学の力で研究しています。渋滞と聞くと、皆さんは車の渋滞のことだと思われるでしょうが、今日はもっと抽象的に「渋滞とは何か」について考えてみたいと思います。

まずは車の渋滞から始めましょう。一般道の渋滞の原因は第一に信号機、交差点です。第二に違法駐車。車線が狭くなり、通常なら通れる車が通れなくなってしまうからです。では、信号機も違法駐車もない高速道路で、なぜ渋滞が起こるのか…。同じ渋滞でも、メカニズムが違うのです。

スクランブル交差点も一種の渋滞です。人がいろいろな方向に向かって交差して進んでいると、密集度が低くても不快に感じます。逆に密集度が高くても、同じ方向に進んでいるとあまり不快に感じません。

コンピュータの世界にも渋滞があります。日本のインターネットは、夜11時ごろから深夜0時頃までが一番渋滞しています。

また、メーカーが製造工程で仕掛品(作りかけの製品)を溜めてしまうのも、渋滞です。ある工場のラインに、塗装・乾燥の工程があるとします。塗料を塗ったら10分乾かさなければいけないため、時間を短縮できない。これを「ボトルネック」と呼びます。ある企業が工場の生産性を上げようと、ボトルネックの前の工程に数十億円かけて最新の機械を入れた。すると、ボトルネックに仕掛品がどんどん溜まり、倉庫や倉庫番、仕掛品を運ぶフォークリフトまで必要になってしまった。どこにボトルネックがあるかを見抜いて、それに合わせて生産しないと、無駄が無駄を生んでしまいます。現在多くの企業が無駄取り活動に取り組んでいます。私は「ムダどり学会」の会長も務めています。

組織にも渋滞があります。決裁の印鑑が早くほしいのに、なかなか書類が社内を回らない。原因を探ると“ボトルネック部長”の机の上に、稟議書が溜まっています。また、人事の渋滞もあります。社長というトップの座はひとつですが、新入社員はたくさん入ってきます。車線がどんどん減っていく道路と同じです。

良い渋滞、悪い渋滞

西成 活裕氏

これまで挙げた例は悪い渋滞ですが、お店の行列は良い渋滞です。人が並んでいると、この店はおいしいだろうと思って並ぶ。適度な渋滞はビジネスチャンスになります。しかし、あまり行列が長いと客に帰られてしまう。調査したところ、どの店でもほぼ14分が待ち時間の限界だということが分かりました。12~13分だと期待感があって良いのですが、15分ぐらいになるとイライラして帰リ始める。これを応用して、セールスの説明を12~13分程度に決めている保険会社もあります。

バブル崩壊もお金の渋滞、経済の渋滞です。山火事は、木から木へ火が燃え移りにくい密度で植林すれば、防ぐことができます。木を人に、火をウイルスに置き換えれば、インフルエンザの流行を防ぐ研究にも応用できます。

世の中には実に多くの渋滞があり、それらを相似的に扱えば、ひとつの分野で解決したアイデアを他の分野にも応用することができるのです。

渋滞の理論を抽象化する

百年ほど前、電話が開通したばかりの頃、通話が集中して回線の渋滞が発生し、いつかけても話し中の状態が続きました。この時、数学者が話し中になる確率を計算したのが渋滞理論の始まりです。

では、渋滞はなぜ起こるのでしょうか。スーパーで買い物する時のことを想像してみましょう。レジの前にお客さんが溜まってしまうのは、例えばレジ打ちが遅いなど、来る人よりも出る人が少ない時です。入って来る量と出る量とのバランスが崩れるのが、渋滞なのです。行列の長さは「リトルの公式」に当てはめて求めることができます。行列の長さ、つまり待っている人の人数は、待ち時間(自分が来てから自分の番が来るまで何分待つか)×到着率(1分間に何人来るか)である、という公式です。

混んでいない時、混んでいる時
[図1]

この公式が当てはまらない場合もあります。行列の先頭の人が出ていった後、次の人が携帯電話に夢中になっていたりして、前にすぐに進まない場合です。そこで、より精密に渋滞の予測をするために、人がいない場所を「0」、いる場所を「1」として、前が空いている時はある確率で前に進む、という理論が生まれました。人間や車のリアルな動きに近い理論です。私はこれを「前が詰まっていたら動けない、空いていれば動ける」というように抽象化して、いろいろな現象を束ねて扱うことを考えました。

マス目に区切った箱と玉を使い、検証してみましょう。マスひとつに玉を1個ずつ入れて、前のマスが空いている時だけ前へ動かしていきます。玉の数が少なければ、途中でちょっと渋滞していても、しばらくすると流れるようになる。玉を増やすと、次から次に後ろから入ってくるのでずっと渋滞が伸びてしまう。ある一定量を越えてしまうと、渋滞はいつまでも続くのです。また、渋滞は進行方向と逆方向に進むこともこれで分かります。[図1]



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