2009年度 第5回 連続公開シンポジウム 未来の声を聴こう

代表チームをまとめるフィロソフィー

岡田武史氏

そして、日本代表のチーム・フィロソフィーを6項目作りました。本当は代表に選ばれない限り誰にも聞かせないのですが、今日は特別にお教えします(笑)。

一つ目は「Enjoy」。子どもの頃はみんな、ボールを蹴ること、ゴールすることが楽しくてサッカーをやっています。特に後々プロになるような子は、お山の大将で、いつでも「俺にボールを回せ」と叫びながらプレーしていたはず。ところが、日本代表のレベルになるとボールをもらうのが怖くなる。チャンスにも知らん顔をして、自分を守りに入る。でもそんな選手が、うまくなったためしはありません。

自分の責任でリスクを負ってプレーする。それが本当の「Enjoy」なんです。

二つ目は「Our team」。監督のチームでもない、キャプテンのチームでもない、自分のチームなんだという意識。

自分は役割を果たせていようが、チームが負けたら一緒。誰かが何とかしてくれる、ではなく、自分のチームなんだから自分自身が何とかしろ、ということです。

三つ目は「Do your best」。チームのためにベストを尽くせ、そして勝つことにこだわれ、ということです。

これは選手だけではなく、トレーナーやチームドクターなども含めての話です。言われたこと、決められたことをやるだけではダメ。チームが勝つためにその時自分ができる最大限のことをやってもらいたい。

四つ目は「Concentration」。今自分がやるべきことに集中する。

僕は「勝負の神様は細部に宿る」と言っています。戦術も大事だけれど、本当に勝敗を決めるのは、本当に小さなこと。たった1回の「まあいいだろう」が勝敗を決めるんです。だから、試合中に声を出すとか、約束の時間を守るとか、どんな小さなことだろうと、おろそかにせず、今できることにベストを尽くせということです。

五つ目は「Improve」。人間は誰でも、確実にやってくる死に向かって一歩ずつ進んでいます。だから、常にチャレンジして、自分を高め続けてほしいのです。

最後は「Communication」。選手一人ひとりを部屋に呼んでじっくり話すなんてことは、僕はめったにやりません。練習の合間や宿舎で会ったときに、「昨日のシュート、よかったな」などと、ちょっとした声をかけるだけで十分だと思っています。

大事なのは、お前の存在、力を認めているぞと、相手にきちんと伝えること。これは選手同士でも一緒です。1チーム約30人の男たちが仲良しグループなんてことはありえない。しかし、たとえソリが合わなくても、お互いの力を認め合い、また、それをお互いが承知していれば、チームワークはうまくいくのです。

見えかけてきた「秘密のカギ」

岡田武史氏

こうして、のた打ち回って苦しみ、開き直りを経てとにかく前進しているうちに、どんなに勉強しても見つからなかった、指導者としての「秘密のカギ」が、何となく見えてきました。

少し難しい話ですが、人間の脳には動物として脈々と受け継いできた「旧皮質」と、人間となって発達させた「新皮質」があります。新皮質は論理的思考に優れている反面、旧皮質に比べて情報処理速度が圧倒的に遅い。だから、例えばサッカーの試合中に、受けたボールを右にパスするか左にパスするか、あるいはドリブルで運ぶかを、新皮質で論理的に導き出していたらとても間に合わない。つまり、スポーツ選手は、瞬間瞬間の適切な動作を、旧皮質で判断できるように訓練する必要があります。そして、完全に旧皮質回路でプレーできたとき、自分でも驚くようなパフォーマンスが生まれるのです。

詳しくは説明できませんが、さまざまなプレーを効率的に選手の旧皮質回路にすり込んでいく方法が、僕にはだんだん分かってきました。これがうまくいけば、選手たちは単に指示されたプレーをそのまま実行するロボットになることなく、さまざまな選択肢を持つ中での判断を、自ら瞬時に下せるようになる。ここに、「秘密のカギ」があったんだと思います。

今、代表チームの意識はものすごく高く、このままあと7カ月、本気で練習に取り組んだら、すごい結果が出ると思います。もちろん、そういう意識をなえさせることも、たくさん起こるに違いありません。それを乗り越えさせて、本気をキープさせていく、それが僕やコーチたちの仕事です。

最後に、みんなには可能性が山ほどあります。スポーツでも文化でも勉強でも仕事でも、生き生きと目を輝かせて、何か新しいことにチャレンジして、それを続けてみてください。たとえ小さなことでも、これまでなかった気づきや達成感が、君たちの遺伝子に変化を起こしてくれると思います。

■プロフィール

岡田 武史(おかだ たけし)
1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。現在、サッカー日本代表監督。2003年、2004年に最優秀監督賞を受賞。1980年に古河電工入社と同時に古河電気工業サッカー部入団。1992年、ドイツへのコーチ留学後、ジェフ市原のコーチに就任。1997年に代表監督(代理)に指名される。コンサドーレ札幌監督(1999年~2001年)、横浜Fマリノス監督(2003年~2006年)を経て、現在に至る。

※2009年11月6日に行われた講演を基に、要約、加筆・訂正の上掲載しています。



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