立教大学2006年 新学部・新学科開設記念 連続公開シンポジウム <未来の声を聴こう>
写真 立教大学は今年、2つの新学部(経営学部、現代心理学部)と7つの新学科(経済政策学科、メディア社会学科、交流文化学科、コミュニティ政策学科、文学科〈文芸・思想専修など5専修に再編〉、国際経営学科、映像身体学科)を開設しました。これは、時代の大きな変化に対応すると共に、新たな知の創造をめざす教育改革の一環です。
2007年4月には、法学部の「国際・比較法学科」を「国際ビジネス法学科」に名称変更し、グローバル化するビジネス社会で求められる人材育成のための教育プログラムを拡充します。
これらを記念して、昨年度に引き続き、各分野における先端的な課題をとらえた連続公開シンポジウム<未来の声を聴こう>を開催します。

採録
『グローバリゼーションと法―日本企業の海外ビジネス展開と法的リスク―』 写真
八代 英輝 氏(弁護士)   二宮 正人 氏(サンパウロ大学教授)瓜生 健太郎 氏(弁護士)
 
日時:2007年1月20日(土) 14:00-16:00
場所:立教大学 池袋キャンパス 11号館 AB01教室
>>キャンパスまでのアクセスはこちら
本シンポジウムでは、立教大学法学部の国際ビジネス法学科の教育内容や特徴をイメージしていただくために、米国・南米・中国における日本企業のビジネス展開に対して法的支援を行っている弁護士の方々をパネリストに迎え、日本企業が海外でビジネスを展開した際に陥りがちな法的諸問題について具体的なエピソードを交えながら語っていただきます。各国の法制度の差異に起因する様々な問題や、グローバリゼーションの急速な進展の中で法学が直面している課題が、わかりやすく解説されました。
■八代英輝氏
弁護士
慶應義塾大学卒。裁判官の経験を経た後、ニューヨーク州の弁護士資格も取得し、米国の法律事務所に勤務。現在は独立して八代国際法律事務所を開設し、米国における日本企業のビジネス展開を法的に支援している。なお、近年においては4本のTV番組にレギュラーを持つなど、国際的な法律問題に関するコメンテーターとしても活躍している。

■二宮正人氏
サンパウロ大学教授
サンパウロ大学卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了(東京大学法学博士)。サンパウロ大学法学部博士教授として教鞭をとるかたわら、東京大学法学部客員教授、慶應義塾大学法学部客員教授を歴任。また、弁護士として、サンパウロの二宮正人法律事務所を拠点に、南米における日本企業のビジネス展開を法的に支援している。

■瓜生健太郎氏
弁護士
早稲田大学卒。日本政府から派遣されて、ベトナム政府の法律顧問として活動した経験も有する。現在は、弁護士法人キャスト糸賀の代表弁護士として、国内外M&A、グループ企業の組織再編、事業再生等の他、中国やその他のアジア諸国における日本企業のビジネス展開を法的に支援している。

それぞれの法制度と法文化


立教大学教授 早川吉尚
早川 立教大学法学部は、本年4月、国際・比較法学科を「国際ビジネス法学科」と改称するとともに、文部科学省平成18年度現代GPに採択された新しい教育プログラム「国際ビジネスにおける知財活用人材の養成」をスタートさせます。本日は、同学科、そして新プログラムが目指す教育の内容の一端を感じていただくべく、それぞれアメリカ、ブラジル、中国と日本を結ぶビジネスを法律の面でサポートしていらっしゃる3人の先生方にお話をうかがいます。

  まず問題提起をかねて、日本と最も異なる法制度を持つと思われる中国について、 実例を交えてご紹介いただけますか。

瓜生 日本の企業が中国の株式会社を増資、つまり新規株式を引き受ける形で買収しようとした。ところが途中で、中国の法律では増 資が年に1回しか許されておらず、しかも直前に増資が行なわれていたことが判明。社会主義国で株式会社はむしろ例外的な存在ですから、日本では考えられない規制がある上、われわれ専門家も扱い慣れていないのです。計画は1年間凍結かと頭をかかえた時、驚くべきことが起こりました。町の有力者である先方の社長が市長に、そして市長が内務大臣にかけ合い、1週間ほどで、なんと直前の増資は登記上なかったことになってしまったのです。

 ここで私たちは、この措置が再びひっくり返ることがないのか、自らの株主への責任を負う日本の企業として、買収を実行してよいのか、慎重に検討しなければなりません。

  このように、中国では法律と実務の乖離が非常に大きい。したがって、まず法律をきちんと理解、把握した上で、どのように実務が行なわれ、それがどの程度安定的かをよく調べる。さらに、実務に合わせて法律が頻繁に変わりますから、政策の動向も押さえておく必要があるのです。

早川 それは主に制度の問題でしょうか。

瓜生 一つは、議会一極集中で三権分立・司法の独立という考え方がない社会主義体制に起因しているでしょう。しかしもっと大きいのは、あえてわかりやすい言葉を使うなら、途上国型のシステムを維持しているということ。法律や契約といったものに対する意識がわれわれと大きく違うのは事実です。

早川 その点、アメリカは日本と同じ資本主義体制で、先進国型ですが……。

八代 日本は「制定法主義」ですから、基本的に六法全書を見れば何でもわかります。これに対しアメリカは「判例法主義」。法律には大雑把なことしか書かれておらず、こまかい部分は裁判所の判断を積み重ねていくのです。しかも「合衆国」ですから、法律は州ごとに憲法から違っており、さらに裁判所も、州裁判所と連邦裁判所の2種類が並存している。その結果、判例は州ごと、裁判所ごとにバラバラで、最高裁まで行くケースはまれですから、それらが統一されることがありません。そのため非常に複雑な法体系になっており、学ぶのは大変です。

 また、刑事・民事ともに陪審制度をとっていますから、法律家は知識だけでなく、一般の人を説得するプレゼンテーション能力が問われる。いきおい、裁判は「劇場型」になりがちです。

早川 つまり、法律的にはAが有利だけれど、結果はアピールに成功したBが勝つということも……。

八代 そして、地元当事者に有利な判決、いわゆるホームタウン・ディシジョンも出やすい。この傾向は特に州裁判所で強いので、日本企業と地元の当事者が争う裁判では、何とか連邦裁判所の方に持ち込む方法がないかを考えることが重要なのです。

  このように、一方で最先端の制度やシステムを生み出しながら、他方ローカルで前時代的な部分が残っていることも、アメリカの法文化の一つの特徴といえるでしょ う。

早川 一方、ブラジルの法制度で特徴的なことは何でしょう。

二宮 実はブラジルは、日本とよく似た法体系を持っています。ブラジルは日本が開国する少し前に独立し、日本とほぼ同時期に、同じドイツ法をもとに法制を整備した。ですから、とくに民法については、02年に全面改正されるまで、章立てなども同じでした。ただその運用ということでは、中国ほどではないにしても、実務との乖離が少なからず見られます。

 しかし一方で、ブラジルはアメリカに似た訴訟社会でもあります。弁護士は約60万 人、これは人口比でアメリカを上回っている。そして現在係争中の裁判は3600万件、50年たっても判決が出ないものもあるといわれています。とくに労働関係の裁判が毎年150万件と非常に多く、実際には適当なところで和解するのが通常です。

早川 日本企業がかかわる案件も多いのですか。

二宮 ブラジルには、日本では考えられないような労働者優遇の法律があります。たとえば有給休暇についてはまず憲法に、そして労働法に規定されており、判例によって、1年働けばILOの基準を上回る年間30日が保障されている。休暇の時期は会社の都合で決められるけれど、2年とらせないと倍額の手当てを支払わなければならない。こうしたことを理解せずに日本国内のように働かせてしまうとトラブルになり、会社は負けることになります。


海外での雇用をめぐる問題

早川 雇用の話が出ましたが、これは企業の海外進出における最初のハードル。そのあたりアメリカではどのような問題が?

弁護士 八代英輝

八代 アメリカの雇用関係の原則は「アット・ウィル」、つまり意思に基づいて、たと えばその日のうちにも従業員を解雇することができます。だから、契約の内容が重要であることは言うまでもありません。

  また、多民族国家ということもあって、差別の問題に対して非常に敏感です。採用に際して、国籍や普段使う言語などを尋ねること、あるいは年齢制限を設けて求人したり面接で年齢を聞くことなど、すべて憲法違反です。

 でもやはり大きいのはセクハラの問題でしょう。あちらでは賠償金額も莫大ですから、日本企業ももちろん非常に気を使うようになっているのですが、なかなか減らない。

  調べてみると、相手が白人や黒人ということはほとんどありません。見た目から外国人だと、感覚の違いを意識して気をつけるんですね。ところが、アメリカ在住だけれど見た目も言葉も日本人という従業員に対しては、価値観も共有してもらえるように錯覚して、つい国内と同じ感覚で接してしまう。それが問題になるんです。

早川 その点では、二宮先生ご自身を含め、ブラジルは日系人の多い国ですが、そこから生じる問題は?

二宮 ブラジルの日系人は、あまり日本企業で働きたがりません。彼らの多くは、現地の一流大学を優秀な成績で卒業したエリート。それにもかかわらず、日本企業の雇用体系の中では、現地採用の社員は責任のある仕事を任されることはあまりなく、日本から来た年下の上司の顔色をうかがいながら働かなければならない。だから、能力のある人材ほど、欧米系の企業に行ってしまいますね。

早川 社会主義国の中国で雇用をめぐる問題というと?


弁護士 瓜生健太郎
瓜生 ブラジルと似た問題は中国でもあります。中国は格差社会ですから、中には高学歴のきわめて優秀な人材がいる。しかし日本企業は、マネジメントを日本人だけで固め、彼らに出世の道を開かない。だからどんどん転職していってしまいます。その点、欧米の企業は、本国の幹部のポストも見せてモチベーションを高める。植民地支配の知恵かもしれませんが、学ぶべきものは多いと。

 雇用に関する日中の大きな違いは、中国では有期雇用契約が原則だということ。うっかり日本式に期限を定めずに雇うと、解雇する時トラブルのもとになります。

 待遇をめぐって労働紛争もよく起きますが、人口の多い中国では労働者の価値は相対的に低いんですね。だから、代わりの労働者を確保して強気に交渉することができる。

 ここで興味深いのは、労働組合のあり方。社会主義は労働者による支配が建前ですから、資本家との対立は本来ありえない。そのため組合は、会社ごとに労働者の利益を守るというより、地域全体の労働関係を調整するような組織なんです。だからむしろ、紛争解決の助けになってくれる。


グローバリゼーションの意味を今一度

早川 会場から、会社法が改正されて、企業買収がさらに自由化されるけれども、そのような日本が海外からどう見られているのかというご質問をいただきましたが… …。

瓜生 そもそも日本は、政治がわかりにくいという声はよく聞きますが、法制度の面では、特にユニークでやりにくいという見方はあまりないと思います。ただ、法律以外の障壁、たとえば日本の消費者のレベルが非常に高いので、なかなか競争に参入できないといったことはありますね。

  会社法改正については、株式交換による会社買収が可能になると、米国企業に比べて時価総額に割安感のある日本企業が、少なからず海外の手に落ちるのではないかと いう懸念があります。それで、経団連を中心に税制などによる防衛策を講じられないかという動きはあったのですが、功を奏しませんでした。今後実際に、案件が出てくると思います。

  ここで考えなければいけないのは、株価が果たして適正なのかということ。たとえば日本では、知的財産権などが株価において過小評価されることがありますが、アメリカでは逆に期待を生んで株価を押し上げる。だからどうしても、日本株は割安に、米国株は割高になる傾向があるのです。このように、文化、考え方が違う国で、違う根拠に基づいて値段をつけられた株同士を交換することが本当に正しいのか。これは真剣に議論する必要がありますし、日本人も言うべきことはきちんと言わなければならないと、私は思います。

早川 今のお言葉を瓜生先生からのメッセージと受け取らせていただいて、お二人からももう一言ずつ。

サンパウロ大学教授 二宮正人

二宮 かつてブラジルには、日本から25万人が移住した。現在はブラジルから日本に、30万人が働きに来ている。両国の間には「血縁関係」があると言ってよいでしょ う。

  一流企業で働けるという触れ込みにつられて日本に来たブラジル人たちは、すぐに 雇用条件の壁に直面します。実際に働けるのはせいぜい一流企業の下請け、それも正社員ではなく、パートか契約社員。社会保険などの補償もありません。

 それでもブラジルで働くより収入はよく、彼らは長期滞在、時には永住を望む。では、彼らの将来の生活をどうするのか。日本の行政は全く動こうとしません。

 私はこの状況を、大変憂慮しています。なぜなら、私の両親を含め、ブラジルに 渡った日本人たちは、ブラジル政府から温情あふれる待遇を受けているからです。

  朝鮮半島系、中国系を筆頭に、日本に住む外国人はいまや200万人。彼らは皆さんの周りで生活しているのです。この身近なグローバリゼーションについて、まず考えていただきたいですね。

早川 行政だけでなく、私たち一人一人が彼らを受け入れ、応援する心を持っているのかどうかが問われている。今までのように、島国根性の一言ですまされる時代ではありませんからね。

二宮 一つ付け加えさせてください。

 ブラジル人が最も多く住んでいる東海地方で、彼らを取り巻く空気はあまりよくない。それは、彼らが引き起こす犯罪が増えていて、しかもそのうち86人の犯罪者が、逮捕前にブラジルに逃げ帰ってしまっているという事情があるからです。日本とブラ ジルの間には犯罪者引渡し協定がなく、仮にあったとしても、ブラジルは自国民の不引渡し原則を法律で定めています。最近ようやく、日本での交通事故の加害者の一人が、代理起訴という形でブラジルの裁判で裁かれるところまでこぎつけました。

  しかしこうしたことは、グローバリゼーションが進む中で、残念ながら避けられな い試練だと思います。多文化共生が、よいことばかりをもたらすものではないのは言うまでもありません。

八代 グローバリゼーションとは、海外に出てはじめてぶつかる問題ではなく、日本にいても、外から押し寄せる波を、いかに批判的に受け止め、取捨選択して取り込むかという形で、つねに直面させられているのだと思います。

 外から日本を見ているために、余計にそう感じるのかもしれませんが、日本はあまりにも無反省に、アメリカから様々なものを取り入れすぎているように思います。とても日本ではうまくいかないと考えられるものまでも。

 たとえば会計システム。アメリカはそれを世界最高と誇っていましたが、エンロンやワールドコムの事件を防ぐことはできなかった。そしてそれを取り入れた日本も、ライブドア事件を防げなかった。会社法についても同じで、仮にそれが優れたものであったとしても、日本でそれが有効に機能するとは限りません。

  そして、これから取り入れようとしている法律家養成のシステム、裁判員(陪審員)制度も、果たしてこれでよいのか。

 とくに法律家を目指す皆さんは、これから世界のさまざまな制度、システム、そして人を相手にすることになります。自分の価値基準を見失うことなく、批判的な目を 持ち続けていただきたいと思います。

早川 他国の法文化や意識を知るということは、自分自身の意識、島国根性のよう なものをあぶりだす作業でもあるということを痛感しました。多岐にわたるお話でしたが、内容の濃いものだったと思います。ありがとうございました。
立教大学法学部の教育が文部科学省の優れた教育プログラムに 選ばれました
文部科学省は、これからの時代を担う人材の養成を推進するために、社会的要請の強い政策課題に対応した大学・短期大学等における優れた教育プロジェクトを、「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」として選定しています。国際ビジネス法学科への名称変更を契機として展開される立教大学法学部の教育プログラム『国際ビジネスにおける知財活用人材の養成~法学部の知的財産教育における「コンパイル式授業」と「知財教育教材の開発と実践」~』が、平成18年度の現代GPとして文部科学省に採択されました。経済のボーダレス化にともない、日本企業にとってもグロー バルなビジネス展開の必要性がますます高まっています。そのためには「リーガルマインド」「ビジネスセンス」「国際的な素養」の三つを兼ね備えた人材が、一定の規模でビジネス社会に供給される必要があります。そうした人材育成のための立教大学法学部の教育が、この度高い評価を受けたのです。
2006年度開催一覧
ホームへ サイトマップ 交通アクセス

ページの先頭へ戻る

立教学院デザインガイド モバイルサイト
池袋キャンパス(広報課)
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
TEL:03-3985-2202
新座キャンパス(新座キャンパス事務部)
〒352-8558 埼玉県新座市北野1-2-26
Copyright © Rikkyo University. All Rights Reserved.