伝統文化を現代に生かす日本が世界の模範に
ただ今私が頂きました名誉に深く感謝いたします。
立教大学は私にとって「輝く太陽」です。30年以上幸せに連れ添っている妻の偕子の父は、この大学のチャプレンであり、偕子自身もここでドイツ文学を学びました。そして息子も立教英国学院を卒業しています。ただ一人「よそ者」であった私が、今日こうして仲間に入れていただきました。多くのリーダーを社会へ輩出しているこの大学に、さらに近づくことができて大変光栄です。
偕子と日本を訪れるたびに、この国に生まれたことを誇りに思うべきだと話しています。東京で初めてマクドナルドを見た時、これで日本の文化も失われてしまうのかとショックを受けました(笑)。でもそれは無用の心配でした。日本は、時代遅れになることなく、伝統文化を守り続けている数少ない国の一つだと思います。
いつも感心するのは、日本人の文化的生活のレベルの高さ。戦争や宗教観の対立、金儲けなどを離れて、心や魂の豊かさを求めることで、人生がどんなに美しいものになるかを、実感させられるのです。
日本人は、子どもを育てることへの責任感も強い国民だと思います。子どもたちは健康と幸せに満ちて生まれ、母親の歌を聞く。そうして音楽を感じることは、花々やおとぎ話、遊びに触れることと同様、人生で最も美しい体験です。それは、将来その子の役に立つ、大切な贈り物となるのです。
息子が幼いころ、母親に泣きながら「なぜ人間は死ななければならないの?」とたずねました。答えはこうでした。人間はその限られた人生を意味のあるものとするために、周りのすべてのものに役立つよう、自分が与えられるものを贈りものとして与えながら生きることが大切なのだと。
その時、私はあるお医者さんが私にした質問を思い出しました。彼は、音楽家でなかったら何になりたいかと聞いたのです。私は答えました。「人を助け、もっと幸せにしてあげたい。たとえば医者となって人を健康にしてあげたい。」すると彼は言いました。「それなら医者より音楽家の方がずっと効果的です。音楽を人々にもたらすことは、彼らを癒すだけでなく、病気を予防することにも役立ちますから。」
大切なことは、子どもたちに、どのように人生を組み立てるかだけでなく、いかにそれを楽しむかを教えることではないでしょうか。
日本は、西洋文化を100年以上も前に積極的に受け入れました。今は反対に、ヨーロッパの人々が日本人の魂や考え方、誇りの感覚などを理解してくれることを願っています。私は日本が、とくにその文化的教育が、アジアをはじめ他の国々の将来への模範になると信じているのです。
私をこの国に迎え入れてくださったことに感謝します。そして、日本から、また私の素晴らしい妻から頂いたすべてのものに対して、できる限りのお返しをしていくことをお約束いたします。
どうもありがとうございました。
クルト・マズア氏プロフィール
1927年、シュレジエン地方ブリーク(現ポーランドのブジェク)生まれ。ライプツィ ヒ音楽院で学び、1948年から指揮活動を始める。旧東独各地のオーケストラの常任指 揮者を歴任した後、ヨーロッパ屈指の名門オーケストラ、ライプツィヒ・ゲヴァント ハウス管弦楽団の音楽監督を1970年から1996年まで務め、国際的な名声を確立した。 1991年にはニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団の音楽監督として招かれ(~2002年)、 現在は、ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団首席指揮者(2000年~)、フランス 国立管弦楽団音楽監督(2002年~)を務めるとともに、世界各国の主要オーケストラ に客演している。 |