立教大学2006年 新学部・新学科開設記念 連続公開シンポジウム <未来の声を聴こう>
写真 立教大学は今年、2つの新学部(経営学部、現代心理学部)と7つの新学科(経済政策学科、メディア社会学科、交流文化学科、コミュニティ政策学科、文学科〈文芸・思想専修など5専修に再編〉、国際経営学科、映像身体学科)を開設しました。これは、時代の大きな変化に対応すると共に、新たな知の創造をめざす教育改革の一環です。
2007年4月には、法学部の「国際・比較法学科」を「国際ビジネス法学科」に名称変更し、グローバル化するビジネス社会で求められる人材育成のための教育プログラムを拡充します。
これらを記念して、昨年度に引き続き、各分野における先端的な課題をとらえた連続公開シンポジウム<未来の声を聴こう>を開催します。

採録
若者チャレンジ キャリアシンポジウム Career Symposium 写真
~悩むチカラから始まる。見えない可能性と出会う。~
山田 昌弘 氏(東京学芸大学教育学部教授、「若者の人間力を高めるための国民会議」委員)石田 衣良 氏(作家)
日時:2006年12月2日(土)13:00~15:00
場所:立教大学 立教大学池袋キャンパス タッカーホール
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■趣旨:
「若者の人間力を高めるための国民運動」は、社会が大きく転換する今、若者を巡り様々な問題が生じている中で、若者自身も含めた経済界、労働界、マスメディア、地域社会、政府が一体となって「若者」について考え、応援し、支え、その輪を広げていくという考えのもと2005年度よりスタートした運動です。今回の「キャリアシンポジウム」では、作家の石田衣良氏をゲストにむかえ、若者のキャリア形成について考えます。
■コーディネーター:
小島 貴子 (立教大学コオプ・コーディネーター、「若者の人間力を高めるための国民運動」実行委員会委員
■対象:
学生、教職員、一般、校友
■主催:
若者の人間力を高めるための国民会議、立教大学
■詳細情報:
http://www.rikkyo.ne.jp/grp/kohoka/info/koenkai/ippan2006/koenkai12-02.pdf
大橋英五総長あいさつ
 社会が若者をどう受け入れ、若者が社会にどう働きかけるか・・・両者の関係が、近年あまりしっくりいっていません。これは、将来を考えると、当面、わが国最大の課題といっていいでしょう。

 この問題を正面から取り上げる今回のシンポジウムでは、学生も交えた実り多い議論を期待するとともに、その成果を大学として今後の教育に大いに生かしていきたいと思います。

今若者に必要な力とは――大学生によるプレゼンテーションと対談
小島 今日の主役は若者。でもそのようにひとくくりにとらえず、それぞれ「私」という主語で問題を提起してもらい、われわれ大人が一緒に考えていきたいと思います。お招きした石田さんは、ここ池袋を舞台にした作品「池袋ウエストゲートパーク」の作者で、この作品に感銘を受けた本学教員も大変多く、ぜひ学生に生のお声を聞かせたい、「本物」が持つ力を実感させたいと思っていました。そして1年越しで、ようやく念願がかないました。

 第一部は、学生たちが、今自分に必要だと考える「力」について発表、それを受けて石田さんと私が対談する形で進めていきます。

「主体性」和田
  主体性には、自分の意思で判断し、それに基づいて行動し、そのことに対して責任をとるという3つの要素が不可欠です。常に主体性を意識し、それを養う機会を積極的に利用し、とった行動を反省することで身についていくと思います。

「心を動かす力」金
 感受性は私たちをはぐくむ「土」のようなもの。耕さずにいると、固まって肥料すら受け付けなくなります。でも実は、私たちの周りは感動させてくれる出来事や人々であふれているのです。積極的に出会いを求めて、自分の可能性も広げていきたいと思います。

石田 率直に感想を言わせていただくと、最初の「主体性」の発表は、今一つ主体性が感じられませんでした(笑)。言葉を正確に使う努力はわかりますが、オリジナリティも大事。「心を動かす力」は確かにすごく大きいですね。どうしたら身につけることができるか、学校で学ぶだけでなく、恋愛でも地域活動でもいい、いろいろ体験して掘り下げてほしいと思います。

小島 授業の中で学生に、どんどん恥をかくように言っているんですが、今日は石田さんから直接厳しいコメントをいただけて、彼らも喜んでいると思います(笑)。

「バカになる力」駒井
 「利口」な人の人生には意味のあることしかないけれど、「バカ」な人の人生には思ったことすべてがある。そしてその方がずっと楽しいし、学ぶことも多いはずです。「バカ」になって、意味など考えずに何事にも挑戦し、楽しく生きていきましょう。

石田 大賛成です。でも、「利口」と「バカ」は対立項にせず、「バカ」な人が「利口」になったり、「利口」な人が「バカ」になるという往復ができるともっといいですね。

小島 彼の話はとても正直でストレート。思ったことをそのまま言葉にするとやはり伝わりますね。

「回り道する力」大藤
 忙しい現代社会で、私たちはつい効率ばかりを考えて行動しがちです。でも、回り道をして苦手なことにもチャレンジすれば、視野も可能性も広がります。大切なのは、未知の領域に足を踏み入れ、失敗しても後悔しないでいる「勇気」だと思います。

石田 僕自身も、大学を出てすぐには就職したくなくて、20代は棒に振っても視野を広げようと思っていました。でも口で言うほど簡単ではなく、当人にはすごくプレッシャーがかかります。そのつらさに耐える力も必要です。

小島 道を歩きながら「よそ見をする力」もあるといいですね。行く先がわからず立ち止まっている若者をよく見るのですが、とりあえず歩いて周りを見れば、いろいろ見つかるはずです。

石田 自分の将来を考えるのはとてもしんどいけれど、バタバタしているうちに何となく形がついてしまうものでもあります。ですから、皆さんのお話には理想がたくさん入っていますけど、そうでないカッコ悪い自分を受け止めてあげることも大切だと思います。

「現実的に夢を見続ける力」安松
 なりたい自分になるのに、半年程度の就職活動期間は短すぎます。将来について考え続けることで、夢を追いかけつつも視野や選択肢が広がり、結果的にそれを実現できるのでは…。小中高大と一貫してそのための時間を設けてほしいと思います。

石田 そのまま文部科学省に言ってもらったら(笑)。ただ全体を通して一つ気になるのは、大学生だからでしょうけど、就職がゴールととらえられていること。就職はスタートラインで、その後も夢を見続けてほしいですね。大学での勉強はつまらないかもしれませんが、仕事の中で自分を伸ばす勉強は、びっくりするくらい面白い。とくに20代での勉強は将来を左右しますからがんばってください。

「内面からの喜びを感じる力」広部
 今の若者の行動は、成績や評価といった外的要因に左右されすぎている気がします。学ぶこと、働くことの本質に立ち返り、その成果だけでなく過程を重視することで、やりがい、充実感といった内面の喜びを感じることが大切だと思います。

石田 この問題はかなり深刻。担当している人生相談でも、人を好きになることがわからない、仕事の意味がわからないと、自分の気持ちを全く読めなくなっている例がとても多いんです。情報が氾濫する中、こう生きるのが正しいと頭ではわかっているけれど、心が動かない。

小島 人間の行動の前には、感情、思考という二つのステップがありますよね。でも親は子どもに、つい行動だけを命令してしまって、内面の過程を待つことができないでいます。

石田 そもそも日本の社会全体が、流通をはじめとして、中間の過程をとばして効率を上げようという傾向が強い。ものを調べるのもネットを使えば一発。

小島 だから私は、学生に問いかけるのに「思う」という言葉を大切にしているんです。「どう思う?」それから「どうしたい?」と、事実・感情・未来という手順をふむ。そうすると結構本音が出てきます。実はみんな内面をもっているんだけど、笑われるとか恥ずかしいとか、抑えてしまっています。

石田 うちの子の学校のクラスなどを見ると、今の子どもは自分が傷つくことと、損をすることにとても敏感なんです。そんなこと、もういいじゃないかと思いますけどね。

「対話力」諸沢
 ネットや携帯電話を通したコミュニケーションは、感情や思いが伝わりにくい。面と向かうと言いづらいこともあるし、会うには労力も必要ですが、表情や身振りの見える対話だからこそ伝わることも多い。とくに聞き方が大切だと思います。

石田 恋愛においても仕事においても、モテる条件はコミュニケーション力。だから、どちらか一方だけがモテるということはありません。

小島 対話の際、「察する力」も持っていると、さらに会話が面白く、心地よい空間になりますよね。

 さて、7人の発表をお聞きになっていかがですか。

石田 自分の内面に、より深くおりていこうという方向性を感じました。それは、外の情報にあまりにも振り回されているという不安からきているのかもしれません。

小島 ありがとうございました。

第二部
パネルディスカッション「新しい職業観とキャリア力」
小島 第二部は、学生から質問を受けてお二人に答えていただく形で進めていきます。

小島 貴子

学生(齋田) 現在やりたい仕事に就かれているお二人は、大学時代どんなことを考えて過ごしていらっしゃいましたか。

石田 社会や仕事は牢獄のようなもので、大学の4年間はその執行猶予期間。だから少しでも長くそこでブラブラ遊んでいたいと。小説家になるために自分で本を読んで勉強はしていましたが、大学生としてはひどいものでしたね。

山田 大学を出さえすれば就職できる時代だったので、私は「子ども会」のボランティアにのめり込み、大学に5年通いました。今思えば、社会には様々な子どもがいるという現実をそこで知ったことは、後々、役に立っているかもしれません。

小島 人生にムダなことは何一つないということ。人はよく過去を振り返りますが、今は未来から見た過去を生きているのだと考えると、「今」という時間の大切さが違ってくるかもしれません。

学生(竹内) 小説家か脚本家を目指して勉強中なのですが、小説家になるには何をすればいいですか。

石田 近道はありません。まず普通の生活を、勉強も恋愛も、できれば就職もきちんとして、いろいろな経験を積みながら書く技術を磨く。30歳になって書きたいことがあったら、その経験をすべて注ぎ込んでみたらどうでしょう。20代デビューはなかなか生き残れないので、お勧めしません(笑)。

山田 もともと漱石も教師、鴎外は軍医、どちらも実生活はあまり幸福ではなかったとか。やはり、苦労も含めて体験を重ねることが大事だということでしょうか。

学生(洪原) お二人は職業というもの、そしてご自身の職業をどうとらえていらっしゃいますか。

山田 実は講義の前に「やりたくないなあ」といつも思います(笑)。でも終わると爽快感があるんです。プロテスタント(キリスト教)では職業を「コーリング(召命)」と言いますが、自分の能力を使って人々の幸せを少しだけ増やすために社会から呼ばれている、そのかわりに爽快感がもらえるというのが、私の素朴な職業観です。


石田 衣良
石田 何となく自分に合っていて好きだと思うことを、10年間好きでい続けたら、それは職業に結びつくと思うんです。たとえば小説が好きだったら、作家でなくても編集者、本屋さんなど、何か本にかかわる場所で働けると。だから、あまり自分の「天職」なんて考えなくてもいいんじゃないでしょうか。

学生(田中) 就職活動までに、普段の生活の中で職業観を身につける方法はありますか。

石田 皆さんが中学生に、恋愛観を身につける方法を聞かれたら、きっと、実際に恋愛しなさいと答えるでしょう。それと同じで、経験の裏づけのない職業観はすぐゆらぎます。就職活動中は不安でしょうけど、それに耐えられる力も収穫の一つと考えて頑張ってください。

山田 大学を出たら一斉に就職という社会の仕組みも問題ですが、これもなかなか変わらない。とりあえず就職して、だめなら転職して、30くらいまでに適職を見つける、職業観もその中で、というのが、今のところはベターな方法でしょう。

小島 職業観に限らず何かを身につけるには、結果よりプロセスを重視して、きちんと振り返る、それを繰り返すことが大事ですね。

学生(深澤) 「キャリア力」とはどのようなもので、なぜ必要なのですか。

小島 「キャリア力」は私の造語です。キャリアの語源はギリシャ語で「車のわだち」、つまり、自分の人生を自分で牽引して、後ろにしっかりわだちを作っていく力、という感じでしょうか。

山田 かつては、自ら変わった道を選ばない限り、就職すれば将来がほぼ見通せましたが、今はいろいろとリスクがあります。だから、とくに修正力、つまりうまくいかなかった時に別のわだちに乗り換える力が大事だと思います。

石田 リスクが大きい社会はゲインも大きいという面もありますからね。僕は若者に、このキャリア力に向かうことへの恐れを感じるんです。引きこもり、ニートをはじめ、仕事や社会に対する不安が実際以上に頭の中でふくらんでいるのかもしれない。もう少し困難に向かっていかないと。

小島 それまで「みんなで」という集団教育を受けてきて、企業面接で突然「あなたは?」と問いかけられる。自分ひとりで何ができるのかと確信がもてなくなるのもムリはありません。小さなものでいいから成功体験を積み重ねて、キャリア力に結び付けてほしい。

学生(高松) 働かない人、働けない人がなぜこんなに増えてしまったんでしょう。


山田 昌弘
山田 自分の力が発揮できないと思ってしまう人が増えていますね。現代の家庭では、子どものころから、自分の力が必要とされる体験が足りないのかもしれません。

石田 デフレが進んで、最低限の生活ならあまり働かなくてもできてしまいます。
  とくに、最近増えているアルバイトや派遣社員には、自己肯定感の少ない仕事が回されがちでしょう。新卒というゴールドチケットをもったら、一度は正社員になっておく方がいいかもしれません。

学生(宮下) 私はインドでカースト社会を見たのですが、山田先生が格差の問題を取り上げたきっかけは?

山田 『パラサイト・シングル』も、親と同居か自立かで生活水準が大きく違うという問題が出発点でした。その後、フリーターを調査してみると、経済格差以前に「希望格差」が生じている。自分が必要とされていないと感じている人がいると、社会がバラバラになってしまうという危機感を感じました。

石田 この世界には引力と同時に斥力、つまり二つのものを遠ざける力もあります。この斥力は個人の中にもあって、たとえば「お金があればいい」という自分、「仕事の中に充実感がある」という自分が引きちぎられそうになる。そこをねばって橋をかけていくことが、これから求められていくのだと思います。

小島 身近なところで、私は情報格差も気になっています。知らないことは選べないし、そこに希望も持てませんよね。若者には十分に情報を提供してほしいと思います。

学生(大澤) 仕事は恋人のような存在ですか。また、ワーク・ライフ・バランスについてどうお考えですか。

石田 仕事はむしろ生涯の伴侶ですね。時々本当にイヤになるけれど、時には本当に素晴らしい啓示的な瞬間も与えてくれます。

山田 恋人で言うなら倦怠期(笑)。めんどうだけれど、いないとさびしい。結構行動を縛られるけど、それが楽しくもある(笑)。

小島 私はよく、仕事と家庭をどう両立させているかと聞かれますが、正直、両立はしていません。家では家事の優先順位を決め、私にしかできないことは私が、他は任せることにしているんです。

石田 この3人はひどいワーカーホリックですからあまり参考にはならないかも。ただ、20代、30代はメチャクチャ働かされますから、できれば大学生の間に男女交際は経験しておいた方がいいですよ(笑)。

山田 好きな芝居のチケットをとったら絶対仕事は入れないとか、趣味の時間は大切にしていますけどね。

学生(長倉) 終身雇用で、社会保障も充実していた時代を生きてきた今の大人の人たちは、山田先生のおっしゃる「人間力」を持っているんでしょうか。

山田 コミュニケーション力、創造力などを総合した力を、私は「人間力」と呼んでいます。確かに、かつてはそんな力は求められなかった。だから今の中高年の多くは、持っていないでしょう。でも時代が変わったこれからは、必要になるということなのです。

石田 「人間力」というと、筋トレのように苦労して獲得するもののように思うかもしれませんが、むしろ好きなことに没頭したりして楽しんでいるうちに自然に身についてくるんじゃないかと考えます。あると魅力が増すし、楽しいですよ。

小島 ありがとうございました。今日、学生たちが投げてくれたものを皆さんがそれぞれに受け止めて、何かの形で投げ返していただければと思います。
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