(掲載日2010.7.22)
レポーター : 法務研究科2年次 山井秀仁
深町 晋也准教授
「刑事法演習(1)」(以下、「本講義」という)は、犯罪に関する法である「刑法」の判例を通して刑法学を学ぶ授業であるため、殺人、強盗などのシリアスな事件を扱うことも多い。そこで、本講義を「おもしろ授業」と表現することに躊躇を覚える方もいるかもしれない。しかし、本講義を「おもしろ授業」と表現することは何ら不謹慎なことではないと私は思っている。先生の時折ユーモアを交えたコメントに接しつつ、我々が興味深く刑法学を学ぶことは、我々が法曹となり刑事事件を扱うときに“支え”となってくれるだろう。その意味で、刑法学を「おもしろい(興味深い)」と思うことは有益である。そして、我々にそう思わせてくれるのが、まさに本講義である。
報告をする学生
さて、撮影日の授業では、先生から事前に指定された判例(他人名義のクレジットカード使用による詐欺事件、最決平成16年2月9日刑集58巻2号89頁)をもとに、担当の学生(3名)が判例分析、関連分野の解説などをレジュメにまとめ、報告をした。普段も同様の形式である。一般に、報告準備には2、3週間かかり、さまざまな資料を読み込んだり、報告者同士で議論したりするなど、相当にハードである。今回はクレジットカード詐欺という実務的にも理論的にも大変難しい分野であったため、報告者は特に大変であったのではないかと思われる。報告は40分程度で行われ、その後は他の学生から報告者に対して矢継ぎ早に質問がなされる。報告者はその質問に一つひとつ答えていかなければならないので、準備期間中にいかに担当分野を理解するかが重要となってくる。このように、本講義は、学生が積極的・能動的に授業を作り上げていくことになる。
しかしながら、やはり我々学生だけでは授業が滞ることがほとんどである。仕方ないことではあるが、報告者の報告や回答に誤りや不足がある場合もあるし、そもそも学生からの質問の趣旨が不明確な場合もある。そこで、先生が、回答の補充・訂正、質問の趣旨の補足などの“助け船”を出すことで、議論の本質をあぶり出してくれる。そうすることで、学生は授業中に疑問を解消することができるのである。
報告者に質問をする学生
こうした、「学生が授業中に自分の疑問を報告者に(ひいては先生に)ぶつけることができる」という形式こそが本講義の特色であるように思う。他の授業では、先生の質問に学生が答えるという形式がほとんどであるが、本講義では、学生側から質問できるので、なぜその疑問が生じるのか、その疑問をどう理論的・実務的に解決することができるのかを学生全員が共有できるのである。この「共有」の意義は非常に大きいと思っている。一人で勉強しているだけでは気づかない疑問に気づくことができるということは、学習効果を何倍にもするからである。
以上のような形式で本講義は行われるが、そこでは、主として、どのような場合に犯罪が成立するのか、すなわち、犯罪の成否を基礎付ける要素となる事実は何か、具体的事案においてその要素をどのように見出していくのかなどを学ぶ。そうすることで、我々が社会において新たな事案に直面した場合にそれに対して的確に対応する能力が養われるのである。本講義で学んだことは、検察官として犯罪の成立を主張し、弁護士として被疑者・被告人を弁護し、裁判官として犯罪の成否を検討するのに役立つと思われる。そのような実務をイメージすることで「刑法学」と「社会」のつながりを認識でき、机上の学問に留まらない、刑法学の生き生きとしたあり方に接することができる。本講義では、実社会で起こった事件をもとに学び、考えることで、刑法学の「おもしろさ」を体感することができるのである。
| 取材日 | 2010年6月23日(水) 15:00~16:30 |
| 教室 | 池袋キャンパス11号館 A201 |
■科目のねらい
基礎的な法的思考力と刑法の基礎知識が備わっていることを前提に、刑法の重要問題をできるだけ最近の判例を通じて検討することによって、以下の能力を向上させることを目指す。
(1)事案分析能力
複雑な事案から法的問題点を抽出し、基本事項に遡って解決できるようになることを目指す。
(2)判例理論を深く理解する能力
判例のフレーズを通り一遍に理解するのではなく、それがどのような理論的・政策的考慮に支えられているのか、どのような歴史的背景の所産なのか、将来にわたって変わる可能性がどの程度あるか(弱い判例か、強い判例か)、その射程は、理論的にどこまで、また、実質的考慮としてどのような場面にまで及び得るか、などを徹底して理解させる。
(3)新たな問題に対応する能力
刑法の体系的な理論の意義、刑法が直面している新たな問題領域、隣接分野(特に刑訴法)との関連などを意識しながら、そのような問題に対して自分なりの視座が持てるようになることを目指す。
(1)~(3)の能力を涵養するために、「刑法(1)」、「刑法(2)」において十分に検討できていない論点を含め重要な論点について丁寧に検討を行う。
なお、下記の項目は体系的な分類を示すものではないので、相互に関連する問題点などについては、その順序にかかわらず複数の項目を通して検討することとなる。
関連判例(特に課題判例は、1審から終審までの判決・決定全文)、文献資料などによって予習することを義務付ける。演習では事案や問題点の概略が頭に入っていることを前提に、重要判例を中心にケーススタディなどを行う。したがって、受講生には発問に対して自分の意見を述べられるだけの予習が必須である。また、達成度確認のテストを行うことなどでその理解を深め、知識の定着を図ることを意図している。
■授業の概要
1.因果関係
因果関係をめぐる問題点を、事例を通じて検討する。
2.違法性(1)
正当防衛などの違法性阻却事由に関して、事例を通じて検討する。
3.違法性(2)
同上
4.故意
故意論に関して、錯誤論などを含め、事例を通じて検討する。
5.過失
過失の予見可能性、注意義務、監督過失などを、事例を通じて検討する。
6.共犯(1)
共同正犯の成否、共犯の従属性、共犯関係の解消などを、事例を通じて検討する。
7.共犯(2)
身分犯との関係、未成年者の利用などを、事例を通じて検討する。
8.罪数論
複数の犯罪の関係について学ぶ。包括一罪と科刑上一罪の関係などについても事例を中心に検討する。
9.財産犯(1)
窃盗罪、不動産侵奪罪、盗品に関する罪などを、事例を通じて検討する。
10.財産犯(2)
カード犯罪等を含む各種の詐欺に関する問題を、事例を通じて検討する。
11.財産犯(3)
横領、背任、強盗等に関する諸問題を、事例を通じて検討する。
12.その他の罪(1)
身体に対する罪、放火罪などについて、事例を通じて検討する。
13.その他の罪(2)
文書偽造罪、公務執行妨害罪などについて、事例を通じて検討する。
14.その他の罪(3)
司法に対する罪、賄賂罪などについて、事例を通じて検討する。