おもしろ授業 [大学院]

(掲載日2009.06.08)

立教生による講義レポート!

レポーター : 21世紀社会デザイン研究科比較組織ネットワーク学専攻前期課程2年次 佐野敦子

長 有紀枝教授

平和で心穏やかに暮らしたい、そんなささやかな願いすら叶えられない人々が世界に数多くいる。
銃や爆撃におびえて暮らす地域、住み慣れた地を追われた難民や国内避難民、学校に行けず家族のために一日中働かなければいけない子供、薬があれば助けられる命、差別や格差にさいなまれる人々…

ベルリンの壁が崩壊したとき、平和な世界は目前だと多くの人が思っただろう。
だが、紛争、核の脅威、貧富の格差などはいまも絶えず、誰もが安心して暮らせる理想的な社会への道は遠い。
しかし、長先生の授業で扱う「人間の安全保障」は、その困難な世界平和実現への道しるべとなるのではないかと感じ始めている。

教室の様子

「人間の安全保障」とは、人間が新しい世紀に直面する困難な状況や脅威に対応するために国連が提示した、既存の安全保障の枠組みを補完する新しい概念であり、人権と人間開発により、政策と制度自体を強化改善することを目指している。

そういってしまうと少し堅苦しく聞こえるが、国家間での調整・政策レベルでは解決できなくなった国内外の人々の安全を、その人の立場に立って考え、対応することを通して冷戦後の世界をより良い方向へ導いていこうという、国連の21世紀に向けての決意表明だと思う。

授業では社会人大学院らしく、さまざまな背景をもつ受講生が自身の経験や知識をもとに「人間の安全保障」をどう解釈して生かしていくべきかを議論をしている。
長先生は「人間の安全保障」を専門にご研究されただけでなく、カンボジアなどの紛争発生地域や国連の事情についても大変詳しい方である。議論ではNGO・NPOの抱える困難や国連機関、政府機関の課題に触れられることもたびたびあり、そうすると、ますます議論は活発化し、あっという間に時間がやってきてしまう。

世界が新たな平和の枠組みを希求している、それを実感し、自分、そして日本にとっての「人間の安全保障」とは何か、何ができるかを真剣に議論し、考える貴重な1時間半。
まさに、一人ひとりの知恵と知識と見識を持ち寄って新たな市民社会のグランドデザインを構想する、21世紀社会デザイン研究科ならではのダイナミックな授業である。

取材日 2009年5月30日(土)10:40~12:10
教室 池袋キャンパス 14号館D602教室

授業概要(2009年度シラバスより)

■ねらい・授業内容
 「人間の安全保障」は、インド出身の経済学者アマルティア・センの人間開発論を下敷きに、国連開発計画(UNDP)が、1994年の『人間開発報告書』の中で提唱した比較的新しい概念である。開発援助に従事する国際機関の実務から生まれた人間の安全保障は、極めて包括的な形で提示された。それゆえ概念的な明晰さを欠き、対象領域が散漫で学問領域としては未成熟であるとも指摘される。しかし、国家ではなく、人間を中心に、一人ひとりの安全保障に焦点をあてるならば、もとよりそれは特定の学問領域に収まるはずのないものである。「人間の安全保障」論へは様々なアプローチが可能であるが、本講座では国際社会の危機管理という観点から、「人間の安全保障」の理論的枠組みと概念的展開を学ぶものである。また、冷戦後の国際社会の平和と安定の維持にあたっては、紛争予防(予防外交)・平和構築・平和創造・平和強制など数多くの安全保障概念が登場している。これらの概念に「人間の安全保障」はどのような影響を及ぼしたのか(あるいは及ぼさなかったのか)。こうした議論を通じ、国際社会の危機管理対策としての「人間の安全保障」を考察していく。

■授業計画
 各回とも、基本的に、一次資料文献を購読しながら講義およびディスカッションを行う。
 1. 導入:問題関心の共有
 2. 「人間の安全保障」概念登場の背景とその系譜、国家の主権との関係
 3. UNDP、日本、カナダ、EUによる四つの「人間の安全保障」報告書
 (1)UNDP『人間開発報告書1994』
 (2)日本の『人間の安全保障』
 (3)人間の安全保障委員会『安全保障の今日的課題』(緒方・セン報告)
 (4)介入と国家主権に関する国際委員会(ICISS)報告書『保護する責任』
 (5)欧州安全保障戦略研究グループのバルセロナ報告書『欧州にとっての人間の安全保障ドクトリン』
 (6)四つの「人間の安全保障」報告書の共通点と差異、「人間の安全保障」概念をめぐる規範形成
 4. 人権と人間の安全保障
 5. 冷戦後の国連の主要報告書にみる安全保障概念と人間の安全保障
 (1)1992年『平和への課題』および1994年『平和への課題:追補』
 (2)2000年国連の平和活動に関する委員会報告『ブラヒミ・レポート』
 (3)2004年12月ハイ・レベルパネル報告書『A more secure world : Our shared responsibility』
 (4)2005年9月国連世界サミット『成果文書』
 (5)冷戦後の国連の主要報告書の安全保障観・人間の安全保障観の比較・考察
 6. まとめ:国際社会の危機管理対策としての「人間の安全保障」

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