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(掲載日2011.06.20)

パリのビストロ"ポール・ベール"で開催したチャリティーディナーの夕べ

伊藤 文さん(料理ジャーナリスト・1992年経済学部卒)

パリ在住の料理ジャーナリストとして活躍されている校友の伊藤文さん(1992年経済学部卒)が、東日本大震災の支援のため、4月4日(月)、パリでチャリティーディナーを開催しました。当日は180名もの参加者が集まり、義援金総額は日本円で約450万円にもなりました。その様子を伊藤さんからご報告いただきました。



  写真右より2人目が伊藤さん

海外に届いた東日本大震災発生のニュース

ベルトラン・オーボワノ氏

3月11日に発生した東日本大震災のニュースは、海外にも瞬時に伝わりました。私は、パリ時間朝7時ごろ、携帯電話に突然の緊急情報が入って知りました。“津波の警戒情報で、日本の東北地方が襲われる”という内容のもの。驚いて、すぐにイン ターネットを開くと、大地震が東北で起きたということ。すぐに埼玉県の実家に連絡しましたが、なかなか電話がつながらず、実家への心配はもちろん、東北に住んでいる親戚はどうしたろう、などという不安に襲われました。メディアを通じて、次々に惨状の情報が入ってきます。やっと実家と連絡が取れ、皆、無事と知って安堵するものの、両親も東北の親戚とは連絡が取れないということ。遠く離れているだけに、現実としてとらえられない、また何の行動を取ることもできないという底知れぬ喪失感に襲われました。心配をしてくれたフランスの友人たちから、たくさんの電話やメールを頂きましたが、どう返答をしたらよいものか。そんな時、懇意にしているパリ11区のビストロ“ポール・ベール”のオーナー、ベルトラン・オーボワノさんが連絡をくれたのです。
“ポール・ベール”は、取材を通して知ったのですが、オーボワノさんの懐の深さ、そして本物のビストロとしての“温かなもてなし”、“リーズナブルでおいしい料理とワイン”、“活気のある雰囲気”がとりわけ優れていて、何度となく通うようになり、ほとんど家族に近い、心の知れた付き合いをしてくれています。そして、オーボワノさんの息子さんは日本に住んでいます。料理人で、日本人女性と結婚し、埼玉県のふじみ野市に2人で“レ・ミロワール”というレストランを構えているのです。昨年、オーボワノさんは初めて日本に訪れて、「息子さん夫婦に久々に再会した、そして2歳と3歳になる孫の顔を初めて見てきた」と、嬉しそうに語って聞かせてくれました。そんなオーボワノさんにとって、今回の震災は他人事ではありません。私はオーボワノさんとの電話口で、「何か募金活動など、自分にできることはないかと思っている」と言うと、「それなら、私の店でチャリティーディナーをしよう。相談に乗るからいつでもおいで」と提案してくれました。それが今回のイベントを開催するきっかけになったのです。

スタッフの方々

翌日、やはりパリに長年住む日本人の友人と一緒に店へ足を運ぶと、オーボワノさんを始め、店の皆がいつもにまして温かく歓待してくれたのには、心底和みました。そして「チャリティーディナーをその約2週間後の月曜日、4月4日に開催しよう、店のスタッフも総出で協力してくれる」とのこと。月曜日は休業日。本来休みのはずの月曜日に、スタッフの方々も協力してくれるという申し出はありがたく、4月4日に向けて、さっそく準備に取り掛かることになりました。

チャリティーディナー開催の思い

前菜:牡蠣、ニシンのクリーム、アヴルーガキャヴィア添え

オーボワノさんは、こうしたチャリティーディナーの受け皿になろうと思ったのは、自分の家族が日本にいるという理由だけではない、と言います。「フランス料理は、日本によって支えられてきたといっても過言ではない。例えば、こうして日本人のジャーナリストたちが訪れ、店をたくさんのメディアで紹介してくれる。それによって、多くの日本人のお客さまが来てくれる。さらに、今やフランス全国のレストランのあちこちでは、日本人が料理人として、パティシエとして、サービススタッフとして働いている。日仏の交流は活発でフランス料理は、日本の料理や文化からたくさんの影響を受けてきた。フランスのガストロノミー(美食学)は日仏両輪で築き上げられてきたという事実の前に、日本の惨状に直面して、手を貸さずにいるわけにはいかない。日本のために動く、ということは当たり前のこと」と。

左:佐藤 伸一氏 右:ティエリー・ローラン氏

ディナーのメニューは、「日仏共同で創作してシンボリックなものにしよう」と、今年日本人で初めて、フランスのミシュランで2つ星を獲得した、パリ2区にあるレストラン“パッサージュ53”の料理長である佐藤伸一さんにお願いしました。「全スタッフ挙げて協力したい」と二つ返事で快諾をいただきました。前菜2皿は佐藤さん、メイン2皿とデザートは“ポール・ベール”の料理長ティエリー・ローランさんが担当。さらに、野菜や肉、チーズやパン、ワイン、水などの協賛も約30社からいただけることになりました。2週間という短期間の準備期間しかなかったので、当初は内輪だけのチャリティとしようと言っていたところでしたが、だんだんと大掛かりになりました。

メイン料理:鳩の胸肉、キャベツ包み

メディアでも大きく報道されて、告知から1週間もたたないうちに80席の“ポール・ベール”の予約は満席に。隣接する、オーボワノさんの夫人が切り盛りする“レカイエ・デュ・ビストロ”も開け、全150席で挑むことになりました。

フランスの名士たちで満席となった会場

ピエール・エルメ氏

当日は、“ポール・ベール”と“パッサージュ53”の料理人、サービススタッフ、私たち日本人のスタッフ35名で対処。7時半ごろから、次々にお客さまが見えて、あらかじめ席次を決めておいたテーブルに通していきます。そして2時間ほどで満席に。ホールのサービス係が料理を順番にサービスをする中、私たちは、挨拶とお礼を伝えるためにテーブルを回りました。ごった返す中、料理を心から楽しんでくださっているお客さまから、温かい声を掛けていただけました。

料理を手にするアラン・パッサール氏

普段にはない、とても友情と団結心に満ちあふれた空間。お客の面々には、建築家のジャン=ミッシェル・ヴィルモットさん、ミュージシャンの“ザジ”、パティシエのピエール・エルメさんも。そして遅い時間には、20人ほどの友人を伴って、3つ星シェフのアラン・パッサールさんも足を運んでいただけました。写真を見ていただけましたら、そのときの様子を垣間見ていただけると思います。帰り際には、”メルシー”カードを添えた色の鮮やかなチューリップをプレゼントとして皆さんにお渡ししました。

海外から被災地の復興を願って

最終的には180名の方の参加、そして義援金の総額は38,201ユーロ(約450万円)にもなり、売り上げの全額をフランス赤十字社に入金。後日、日本赤十字社へ振り込まれることとなっています。
フランスでは、私たちのこうしたチャリティーディナーだけではなく、あちらこちらで支援活動、義援金のための活動が活発に行われています。私も、今後もあらゆる形で活動を続けていく予定です。被災地の復興はこれから。援助はよりいっそう必要になってくるでしょう。遠く離れた海外におりますが、小さなことでもできることを一つずつ、日本に寄せることができたらと。そんな日本人が海外に、他にも大勢いることを知って、誇りに思うとともに、フランスと日本がこれほどまでに近づいたことはなかったと、心を寄せてくださるフランスの方々にも感謝の気持ちでいっぱいです。今までは、情報、モノが先行することが多かったかもしれない日仏関係ですが、これを機に心の交流が深まるのではないかという希望。そんな交流の中で日本支援を続けていけたらと、気持ちを今、新たにしています。

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